【エッセイ】じいちゃんのアルバムと私
先日のお正月休み、私は結婚式の動画に使用するため、幼い頃の写真を探していた。
滅多に見ることのない本棚の隅、古い漫画や謎のおもちゃ、来ない出番を待ち続けるディズニーの空き缶に紛れて、そのアルバムは保存されていた。

アルバムの背表紙を見た時、私はすぐに
「じいちゃんが作成したものだ」
と気付いた。
じいちゃんは小学校の校長先生をしており、同時に書道の指導も担当していた。
じいちゃんの書く文字には魅力があった。
じいちゃんが退職した後も、文字を書く仕事がポツポツ来ていたのが、身内贔屓でない何よりの証拠になるだろう。
そんな文字だから、私の記憶にも深く染み付いていた。
じいちゃんはとても几帳面な人だった。
きっとアルバムも綺麗に保管されているに違いない。
資料集めにはうってつけだ。

そっと表紙をめくって、驚いた。

アルバムには一言、言葉が添えられていた。
全てのアルバムに目をざっと目を通すと、その全てのページにじいちゃんの文字があった。
5冊もあるのに、どれだけ丁寧な仕事をする人だったんだろうか。
「初孫にテンションあがっちゃったのかしら」
隣にいる旦那さんに対してか、独り言か、判断がつかないくらいの小さな声でつぶやいた。
多分、照れ隠しだ。
ゆっくりと、アルバムをめくる。

とうゆちゃんの誕生日
とうゆちゃん⚪︎週間目、大きな夜服につつまれています。

まだ物ははっきり見えません。
大きな手袋をはめられています。
顔ひっかきを防ぐためです。
この手袋は祖母の手作りだ。
以前「すぐ大きくなるから編むのが追いつかなかった」と、
祖母がため息混じりに教えてくれたことがある。



可愛いい足がちょこんと見えています。
なんとも可愛いい足です。
可愛いい足が2つ。
じいちゃんは足が好きなのかな。
あと「い」が多いな。

寒くないのにバスタオルを3枚も。おじいちゃんのしわざです。
私が高校生になってからも
「そんな格好してたら寒い!」
ってよく言われたなぁ。
この頃からだったのか、じいちゃん。

じいちゃんに抱かれたとうゆちゃんです。

笑顔に見えます。
そろそろ笑うのかなぁ。

3ヶ月たちました。
ずい分大人っぽくなりましたね。
早い早い、めちゃくちゃベビ。
どう見ても、ベビ。
たぶん座れもしないぞ、じいちゃん。

はじめておんぶしました。
(おんぶの写真じゃないのが気になるなぁ)

じいちゃんと仲良し。
「ケッケケー」と笑う。

じいちゃんととうゆちゃんの心が通いあったんですね。

何か用?
私おやつを食べているの!?
そうかい
写真だったの。
私が高校生の時にはねー。
「写真撮るよー!」
って言って、みんなにポーズ決めさせるんだけど
「実が動画でしたー!」
っていうプチドッキリ動画が流行ってたよ。
バインっていう、今はなきアプリでみんなやってたんだ。

哲学者のような構えです。
確かに我ながら貫禄あるなぁ。

ずい分成長しました。
大人っぽい顔になったのは驚きです。
だから早いよ、じいちゃん。

地上で一番しあわせな私です。
じいちゃんとの思い出は数えきれないほどだ。
私の両親は仕事に生きている人たちだった。
幼稚園の時から、延長保育は当たり前。
18時までの延長保育では間に合わず、民間の夜間保育にも預けられていた。
土日だろうが全く関係がなかった。
そんな私のため、祖父母は毎週2時間以上かけて私に会いに来てくれた。
祖父母が来てくれる日は、ずっと家にいられた。
美味しいご飯も食べられたし、思いっきり甘えることもできた。
公園にも、地域の子供会にも連れて行ってくれた。
じいちゃんは私にとことん甘かった。
こっそり私にお菓子やお小遣いを与えては、ばあちゃんに怒られていた。
何度怒られても懲りないじいちゃん。
「ばあちゃんには内緒な」
といつもイタズラっぽく笑っていた。
中学生、高校生と進学し、友達と遊ぶことが多くなっても、祖父母は私に会いに来てくれた。
嬉しかった、これからもずっとじいちゃんとばあちゃんと会えるんだと思っていた。
じいちゃんが亡くなったのは大学2年生の時だ。
健康診断でも異常なし、毎日シャキシャキを散歩に出かける人だったのに。
本当に突然、心臓発作でポックリと逝ってしまった。
ぱたっと倒れて、そのまま目を覚まさなかった。
そんなじいちゃんの死を知った人は、口を揃えてこう言った。
「1番良い死に方だったね」と。
ばあちゃんも、
「本人が1番望んでいた死に方」
だと泣きながら笑っていた。
お葬式も和やかに進んだ。
「良い締めくくりした人だね」
「苦しまずによかった」
と皆が笑っていた。
確かにじいちゃんはずっと
「ピンピンころりで死にたい!」
と周りに話していた。
本人も希望も叶い、多くの人に見守られながら旅立ったじいちゃんはきっと幸せだったんだろう。
私もそう思っていた。
そう思うことにしていた。
アルバムをめくりながら、本音が溢れた。
私はじいちゃんに生きていて欲しかった。
エゴかもしれない、というより本当にただのエゴだと思う。
それでも、私はじいちゃんに生きていて欲しかった。
迷惑をかけていい、1人で生きられなくてもいい。
このアルバムを一緒に見て、
「この時どんな気持ちだったの?」
とか
「どうして歯が3本なのが不思議だったの」
とか
たくさん話をしたかった。
死なないで欲しかった。
生きていて欲しかった。
今更だけどね。
花嫁姿、見せたかったなぁ。
私は幽霊だとか、お化けだとか、生まれ変わりだとかを全く信じていない。
私はじいちゃんに会うことはできない。
だから生きている人に会いに行こうと思う。
このアルバムを持ってばあちゃんのところに行こう。
一緒にページをめくる時、きっとじいちゃんを感じられる。
あの頃みたいに、甘えられる。
ありがとう、じいちゃん。
言葉を残してくれて、ありがとう。
安心してね、私の旦那様は世界で1番素敵な人だよ。
素敵な結婚式を挙げるよ!
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
とうゆ
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