映画「宝島」「リンダとイリナ」ギョーム・ブラック【ドキュメンタリー感想】
あの夏、こんなことがあったよね。
喉元過ぎれば熱さを忘れると言うけれど、クソ暑さに呪詛を吐いてた夏が遠ざかり秋が深まるこの時期、心のどこかに夏を惜しむ感傷がひょっこり顔を出す。そんな時に目にしたバカンス映画の感想です。
バカンス映画とは
ざっくり説明するとフランスのバカンス(長期休暇)を題材にした映画を指す呼称で、夏、海や川や森など豊かな自然、新しく出会う恋、束の間の人間関係なんかが描かれる。コメディからラブロマンスまで物語はさまざまですが、今回はドキュメンタリー。
ギョーム・ブラック監督の「宝島」「リンダとイリナ」はドキュメンタリーにフィクションが混在する作品。
監督が撮りたかった”夏の思い出”が、リアルとフィクションの間を往復し、そして”夏の終わり”の寂しさが余韻として残ります。
「あの夏、こんなことがあったよね」と懐かしさを呼び起こす二作品。
バイオグラフィー/ギョーム・ブラック監督はこんな人
1977年フランス・パリ生まれ。フランス国立映画学校を卒業後、幾つかの作品で助監督を経験し、自身の製作会社「année zéro」(アネ・ゼロ)を立ち上げる。初めて劇場公開された短編「遭難者」(09)と続く中編「女っ気なし」(11)がフランスでロングランヒットを記録。青春コメディ「みんなのヴァカンス」(20)は「7月の物語」と同様学生たちと制作、俳優に映画未経験の学生たちを起用、第70回ベルリン国際映画祭パノラマ部門で国際映画批評家連盟賞特別賞を受賞した。
「宝島」(2018)

監督:ギヨーム・ブラック
製作:ニコラ・アントメ
撮影:マーティン・リット
音楽:ジョン・ヨンジン
あらすじ
パリ近郊の街セルジー・ポントワーズにあるレジャー施設「レジャー・アイランド」バカンス客で溢れるその施設には派手なアトラクションは一切なく、水と緑の土地が広がっている。
美しい陽光が降りそそぐ中、施設に忍び込もうとする少年たちや、女性をナンパする青年たち、過去を懐かしむ老人、施設の管理や警備をする従業員たちなど、老若男女さまざまな人々の自然な姿を映し出していく。
地図でみるとざっくりこんな感じ。
めちゃくちゃ広いな!

VIA:衛星写真 Google Earth
夏だバカンスだ冒険だ――ということで、いろんな人が集うレジャー・アイランド。
入園料を払わずに何とかあの手この手で入ろうとするキッズたち。
白鳥を呼び寄せおじさん(一羽だけ懐いている)。
若い女の子と健全デートをした話をするおじさん(盛ってるだろと突っ込まずにはいられない)。
橋から飛び込みセキュリティに注意される若者たち。
仕事中にナンパして閉園後にデートに誘い、こっそり特別扱いする若いスタッフ。
ムジャヒディンに捕まって死んでいたかもしれないと語るおじさん。
自然の草木で文字(色)を教える幼い兄弟。
スタッフの管理や配置、天気と入園者数、セキュリティ、対応を指示し捌いていく、管理人のおじさん二人。
このレジャー・アイランドに老若男女いろんな人が集う。家族連れ、少年たちの冒険、異性と仲良くなりたい若者たち。
遊びにくる人、そこで働く人、下心がある人、自然と平和をかみしめる人。それぞれ違う環境を持つ人たちの物語を、この「宝島」から垣間見る。
監督がロケハンで見たり、スカウト時に見た行為を、相手の合意の上でカメラの前で再現してもらって、そこから先に起こる出来事は偶然に任せる、という手法がこのドキュメンタリーのスタイル。やや引いた固定ショットが多いのはそのためで、監督の主観で撮りたい物事(出来事)を選び、ある程度の介入がある中で、フレームの中で起こる偶然を捉える――という手法。
ドキュメンタリーとフィクションの間を行ったり来たりする。
子供たちが水辺ではしゃぐ姿や声を存分に見た後、シーズンが終わり人気がなくなったレジャー・アイランドの風景は、夏の終わりが実感として降りてくる。
「リンダとイリナ」(2023)

監督:ギョーム・ブラック
撮影:エマニュエル・グラ
編集:パオラ・テルミン
音楽:パオラ・テルミン
あらすじ
フランス北部の町エナン=ボーモン。もうすぐ夏休みになる高校では、親友のリンダとイリナがTikTokを撮ったり、家族や将来の悩みについて話したりしている。しかしこの夏、リンダは引っ越すことが決まっていた。リンダはイリナに心を開いたからこそ、別れることについて複雑な気持ちになっている。夏の始まりに心の沈む2人だったが……。
コロナ禍の2021年6月末、高校生のリンダとイリナ、ふたりの友情に焦点を当てたドキュメンタリー。
眼鏡の子がリンダ、濃い茶色のロングの子がイリナ。
「引っ越したら連絡しない。SNSもブロックする」 リンダの発言に、驚きを隠せないイリナ。
「ブロックまでする?」 以後2人の関係がギスギスしてしまう。
過去に何度も引っ越し(転校)を重ねてきたリンダ。
親密な関係だと思っていただけにショックが大きいイリナ。
この映画は、フランスの教育機関から「エナン・ボーモン高校の2年生のグループと映画を作らないか」と依頼を受けて制作されている。監督は「若者が未来をどう見ているか」をテーマに、二週間ごと3時間のワークショップを数か月間に渡って行い、生徒グループと練習・対話を重ね、その中からリンダとイリナに焦点を当てたのは編集段階での選択だったそう。
子供の頃って「この友情は永遠に続く」と無邪気に信じていたなあと思う。SNSが当たり前にある現代の子供たちが、どう考えているのかは分からない。永遠を信じられるくらい彼らの未来や社会は明るく見えているのかな。
SNSがあってもなくても、ブロックしてもしなくても、引っ越ししてもしなくても、友情は続くかも知れないし、疎遠になるかも知れない。
この作品の中にあるのは、コロナ禍を共に過ごした高校生たちの友情で、だからこそより特別な輝きがあったように思う。
「宝島」は夏の終わりと共に締めくくられ、「リンダとイリナ」は夏の始まりで締めくくられる。
監督によって映画として時間を留め置かれた、あの夏のあの瞬間。
もし映画の中の誰かが将来に振り返り「あの夏、こんなことがあったよね」と笑顔になるなら、彼らにとって特別な夏の思い出を永遠にしてくれたことになるのかも知れない、とふと思った。
ここまで読んでくれてありがとう。
ではでは、またいつか。
