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【創作】水たまりを踏む【#シロクマ文芸部】

水たまりを勢いよく踏んで、車が走り去る。
すぐ横を歩いていたわたしは、頭から水を浴びた。

「そぉんなことあるぅ!?」

思わず声に出ていた。
ナンバープレートの写真を撮って通報してやろうかと一瞬思ったが、もうそんな気力もない。

こんな調子で、今日は朝から何ひとつうまくいっていないのだ。


わたしには、毎朝のルーティンがある。

六時ちょうどに起きる。
首を一周回して体を起こし、顔を洗う。
食パンを焼いている間に天気予報を見て、コーヒーを淹れる。
焼き上がったら、いちごジャムを端まできっちり塗る。
食べ終えたら食器を洗い、スーツに着替えて化粧をする。

そして、最後は髪だ。
これがなかなか言うことを聞かない。
アイロンをかけ、スプレーをして、「今日は頼むぞ」と何度も念じる。

七時十二分の電車に乗り、一時間程で会社の最寄り駅に着く。
何かがあっても九時の始業に間に合うように、余裕をもって家を出ている。


ところが、今朝の起床は七時三分だった。
寝坊である。

飛び起きて食パンを焼き、焼いている間にスーツに着替え、顔を洗って化粧をする。

すると、何やら焦げくさい匂い。

はっとして駆け寄ると、食パンは見事にこんがりを通り越して真っ黒に焼き上がっていた。
いちごジャムを塗ったあとは、スプーンが跳ねてスーツを汚した。
慌てて拭きながら、焦げた食パンを口へ押し込み、髪もそこそこに家を出た。


始業には、間に合った。
仕事も、何とか終えた。
けれど髪はうねりまくり、心は一日中どこか落ち着かなかった。


駅を出て家へ向かう途中、空が急に暗くなった。
次の瞬間、バケツをひっくり返したような雨が降り始めた。
朝は、天気予報を見る余裕もなかった。
昨夜、バッグを替えたせいで、折りたたみ傘も入っていなかった。
走ったところで意味がないと思えるほどの雨だった。
それでも、わたしは走った。

その途中で、車に水をかけられた。


――そして、現在に至る。

雨は、相変わらずザーザーと降っている。
雨宿りをするために、公園の小さな石の椅子に腰を下ろす。

ふう、と息をついて考えた。

……朝、寝坊したのに、食パン焼いてる場合だったろうか。

いや、それより、天気予報だけでも見ていれば。

いやいや、そもそも寝坊しなければ――。


今さら考えたところで、どうにもならない。

「……はー、もういいや。」

わたしは立ち上がり、雨の中、いちばん大きな水たまりへ足を踏み入れる。

汚れてもいい。
どうせもう、頭の先からつま先までびしょ濡れなのだ。

じゃぶ。

もう一歩。

じゃぶ、じゃぶ。

靴の中まで水が入り込む。
それでも構わず踏み続ける。

ぐにゃりと地面が沈む感触。
その重みが、どこか懐かしい。


このあと、風邪をひくかもしれない。
洗濯は大変だろう。


でもそんなことは全部あとで考えればいい。
今はただ、水たまりを踏む。


じゃぶ、じゃぶ、じゃぶ。


公園の前を、スーツ姿の女性が通り過ぎていく。背筋を伸ばし、濡れないように足早に。
その人は一瞬こちらを見ると、雨の向こうへ消えていった。



こちらの企画に参加させていただきました。

実は、たまたまお題が出る前日に、「水たまり」の3行日記を公開したところでした。
(よかったら、こちらものぞいて見てください↓)

そこで、今回は創作に挑戦してみました!
ただ、冒頭三行は実話です。悲しい...。
どんな経験も、書けばいいネタになりますね。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
拙い文章ですが、また書いてみようと思います。

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