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物語の欠片 金糸雀色の午篇 14 見えない敵の謎 解1

-レン-

 パキラはその場に居る面々の顔をひとりひとり見渡すと、最後にイベリスの方を向いた。
 「お前は、今回の税金騒ぎで損をこうむった、食料品を扱う商人たちが誘拐犯だと考えたのだな。」
 「はい。それ以外に考えようが…違うのですか?」
 「それだと筋が通らぬのだ。この問題は今回の誘拐騒ぎだけを見ていては解けぬ。先ずは発端である税金の話から入ろう。商人会がエリカ殿と税金の話をしたのは鉱物の価格の定期交渉の際だと聞いた。つまり、直接エリカ殿と話をしたのは商人会でも食料品ではなく石寄りの人間だな。」
 「はい。」
 「それからお前が店で遭遇したという騒ぎだが、お前の感じていたようにわざとお前の居る前で騒ぎを起こしたかったとしたならば、損をした側の人間には難しい。一方、得をした奴らが上手いタイミングで自慢話をすれば、それに腹を立てる輩は沢山居る筈だ。…まあ、双方グルかどうかは分からぬが、それは明日、捕らえられた奴らを見てみれば分かるな。」
 「とすると父上は、今回のすべての事象の裏側には石を扱う商人たちが居るとお考えなのですか?誘拐騒ぎも、税に不満を持った商人たちが起こしたと思わせる為…。」
 「そう。これは非常に巧妙な罠だ。あのまま俺が帰らず、カリン殿も居なかったら、お前、ひとりで動いていただろう?」
 「…はい。」
 「税に不満を持ちつつも真面目に商いを続けていた商人たちに疑いの目を向けることになっていた。お前が一人二人商人の家を訪ねてくれればそれで奴らには十分だ。噂は勝手に大きくなる。いや、大きくするつもりだっただろう。族長の息子は、不当な課税にも負けず真面目に働いている民を侮辱した…とな。尾ひれのついた噂はあっという間にポハク全体に広がって、下手したら暴動が起こる。起こらなくとも深い禍根が残ろう。」
 「……。」
 「…というからくりだと思ったからわざとお前をひとりで残したんだ。そう落ち込むものでもない。予定調和だ。」
 そう言われても落ち込まないわけにはいかないだろうとレンは思う。レンも同じ立場だったらそうだろう。
 イベリスは自らを奮い立たせるように質問を重ねた。
 「俺が短絡的だったのは理解しました。しかし、目的は何でしょう。もし石を扱う商人たちが犯人で、自分たちが得したいだけならば、こんな手を込んだことをしなくてもいい筈だ。」
 「そう。そこなのだ。おそらく今回捕まった奴らはただの下っ端だ。何なら黒幕の顔も知らないだろう。そいつら自身、尾ひれのついた噂に惑わされてことを起こしたのだと俺は踏んでいる。」
 「え?では誘拐騒ぎの犯人が商人会と繋がっている訳でも無いのですか?」
 「別だろうな。」
 「益々訳が分からない。いや、少しは前進しているのか。」
 「言っただろう?巧妙な罠なのだ。」
 パキラはカリンの淹れたお茶を美味そうにひと口飲むと、今度はカリンとレンの顔を交互に見る。
 「ではここで少し気分を変えて、エリカ殿との対決の話をしよう。」
 そう言って、ワイでの出来事を時折皮肉とも冗談とも取れる表現を交えながら話して聞かせた。主にカリンに聞かせているのだろう。パキラの話を聞くカリンの顔は明らかに頭が物凄い勢いで回転しているであろう表情だった。こんな時、カリンは真剣というよりは、心此処に在らずという表情になる。
 「商人会がエリカ殿と交わした取り決めを、そのまま父上の署名に変えて何か意味があるのですか?」
 イベリスが、レンも疑問に思っていたことを質問する。
 「大ありだよ。今はまだ全体的にポハクに有利な内容だが、今後これを少しでも変更する際には俺を通さねばならなくなる。エリカ殿はこれ以上こそこそ何かをできなくなるわけだな。」
 「ああなるほど。」
 言われてみれば簡単なことだった。しかしだからといって自分でその方法を思いつくかと言われたら別だ。エリカの一瞬の悔しそうな顔はその為だったのだ。
 「しかしなあ、エリカ殿はどうもそこまで予測していたのではないかと、俺は今回ワイへ行ってみて感じたのだ。」
 「どういうことですか?」
 「いや、少しは悔しかったはずだ。エリカ殿がやろうとしていることを最小限の出血で阻止する唯一の方法は俺が取った方法だった筈だからだ。しかしどうもすっきりしなくてな。もう一段何かが隠れているように思うのだ。それが何だか分からぬから俺も困っている。」
 「あの、パキラ様。」
 それまで相槌も打たずに黙っていたカリンが遠慮がちに声を掛けた。表情はまだ何処か遠くを見ているようだったが、次第に瞳が焦点を結ぶ。
 「何だカリン殿。」
 「先程、女王陛下はまだエリカ様を召喚されていないようだと仰っていましたが、わたくしたちがアグィーラを訪れた際は、すぐにでも召喚するような雰囲気でした。陛下たちが移動されるならば色々と難しいのですが、エリカ様を召喚するのであればそれ程手続きも要らないはず。それをしないのは、もしかしたら上皇陛下が止めたからなのかもしれません。」
 「ふむ。上皇陛下は、俺ならそのうち自分で出張るだろうと踏んでいただろうな。様子見という訳か。」
 「いえ、それだけでなく、今の段階でワイの族長だけを召喚することを良しとしなかったのではないかと。それは即ち、国全体に関わる税金の問題にワイの意見だけを取り入れることになります。…少なくとも国民の目にはそう映るでしょう。それよりも、国としてきちんと税の仕組みを整備し、ワイのやろうとしたことを上書きしてしまう方法を選んだのではないかとわたくしは考えます。」
 「ふむ。なるほどなるほど。これは面白くなってきた。では今頃アグィーラでは税の仕組みを整えるべく大急ぎで動いているわけだな。」
 「おそらく。…そして、もしかしたらエリカ様は最初からそれを期待されていたのではないかとも思うのです。」
 「…ああ、そうか。エリカ殿は、ワイが主導しなくとも最終的に税制が敷かれれば良かったのかも知れぬな。」
 パキラは乗り出していた身を深く椅子に沈めて天井を仰いだ。
 イベリスは質問を挟みたいようだが、何かを考えている様子のパキラに、それができないでいるように見えた。
 ヒソップ一家は固唾を飲んでやり取りを見詰めている。
 黙ってしまったパキラの代わりに、カリンが口を開いた。
 「エリカ様は今回の税金のことを思いついた際、最後までワイが主導するつもりはなかった。ただ、種族の交流を促進しながらその点に至らない王室に提言をしたかっただけなのかも知れません。」
 「それならそのまま真っ直ぐ王室に提言すれば良かったんじゃないか?」
 イベリスがこれを契機とばかりに言葉を挟む。
 「上皇陛下の御代ならそうしていたでしょうね。」
 「ああ、レフ…女王陛下だから…しかも医院をすんなり認めてもらえなかった恨みもあるかもしれないな。王室の至らなさを知らしめたかったってわけか。」
 「そこまで悪意に解釈しなくてもいいと思うけれど、真っ直ぐ提言し難かったのは確かだと思うわ。」
 「ふぅん。で、どうしてポハクが巻き添えになるんだ?それならアグィーラの交易室だけに申し出たっていいわけだろう?」
 「ポハクがアグィーラに次いで大きな町だからではないかしら。交易で栄えている町でもあるし、影響が大きいでしょう?おそらく交易室だけだったら対応を保留にされてしまったと思うの。今回女王陛下が動かざるを得なかったのも、ポハクのことがあったからよ。最終的には、正面から王室に提言するよりも動きが早かったと思う。」
 「確かにそうだな。はぁ。相変わらず頭の切れることで。」
 イベリスはお戯た表情で顔を顰めて続ける。
 「…ということは、さっき父上が言っていた黒幕ってのは結局エリカ殿ってことになるのか?いや、それもおかしな話だよな。それじゃ、ポハクを潰しにかかっているとしか思えない。」
 「それはまた別の話なの。」
 「はあ?」
 「カリン殿有難う。此処からは再び俺が引き取ろう。」
 考えが纏まったのかパキラが声を掛け、カリンは安堵の笑みを浮かべる。

 「エリカ殿がやりたかったことが、詳細はともかく王国全体に税制を敷きたかったのだということは分かった。問題はもうひとつ。このポハクにその動きを利用しようとした者が居たということだ。…イベリスお前、商人たちの中で石の取扱量が多いのが誰だか解るか?」
 問われたイベリスは悩みながらも三名の名前を挙げた。当然レンは知らない名前ばかりだ。
 「…まあ、半分合格だ。そいつらは、石専門の商人たちだからな。でもな、実は様々な商品に混じって石も扱っている大規模な総合商人たちの方が資金力が高く、最終的な石の取扱量は多いのだ。例えば…カメリアたちのような。」
 突然カメリアの名前が出てきて驚いたのはレンだけではないだろう。しかしそういえば、今回自分たちがポハクに長く留まることにしたのはカメリアの不穏な動きを感じてのことだったではないか。とはいえ、カメリアがヨシュアの元に現れたことと今回のことがどう繋がるのかが全く見えない。
 同じく驚いているらしいイベリスが、カメリア、と小さく呟く。
 「そう。今の段階ではあくまで例えば、だがな。…それより何故俺がお前にこの質問をしたかというと、取扱量が多ければ多いほど商人会との繋がりは密になるからだ。」
 「それは何となく解ります。商人会への影響力は大きくなるし、今回、短期間とはいえ税の影響が均されるまでの間、少なからず得をする。…遅ればせながら漸く、父上が石を取り扱う商人が深く関わっていると仰った意味が理解できました。それに、カメリアならば、確かに父上や俺を恨んでいるだろうし、今回の黒幕であり得る。」
 「カメリアあれは意外と恨みなどという感情では動かぬのだ。目的はあくまでも商売だと思う。」
 「え?どういうことですか?」
 「人の不満や恨みは商売になるんだ。残念ながらな。さて、では今度はそちらの解説をしよう。」
 そう言ったパキラはヒソップ一家に目を向ける。
 「…聞いていても楽しくない話だと思うがこのまま聞くか?一応そなたらに迷惑をかけてしまったから聞く権利はある。しかし、無事だったから良いと言うのであれば家まで送らせる。疲れてもいよう。」
 確かに、もう夕食の時間もとっくに過ぎている。ヒソップたちは明日も朝から店を開けなければならないだろうし、その準備もある筈だ。
 三人は暫く顔を見合わせていたが、一番の被害者であったネメシアが、やや掠れた声ではあったがはっきりと、聞かせてください、と答えた。
 パキラは頷くと、イベリスに軽い食事を準備するよう指示を出した。使用人が帰る前に夕食の準備をしている筈だ。予定外の人数で割っても十分な軽食にはなるだろう。今度はイベリスも反論せず、手伝うというカリンと連れ立って部屋から出て行く。
 長い夜になりそうだった。


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金糸雀色の午篇 1
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