違和感の答えは、幼少期の自分が知っている
⌘1:社会人1年目の悩み
「口を開いていてもらえない…」
社会人1年目の私は、白衣をまとい、日々悩んでいました。
(どうしたら口を開いたままでいてもらえるんだろう)
医療従事者である父の薦めで取得した国家資格。
歯科衛生士として社会人をスタートしました。
しかし、待っていたのは大誤算。
患者さんに口を開いていてもらえない、というジレンマと日々向き合うことになったのです。
⌘2:憧れの職業と現実
小学生の頃、学校で開催された歯磨き教室。
指導に来てくれた歯科衛生士のお姉さんたちは、眩しいほどイキイキしていました。
児童たちは、先生の言いつけを守りながら、静かに歯磨きの方法を学んでいます。
その光景に憧れて、ワクワクしながら両親へ報告した日のことを、今でも懐かしく思い出します。
それを覚えていてくれた父の薦めで、私は歯科の道へ進むことを決めました。
ところが、実際の臨床現場は想像とは少し違っていました。
なぜか、患者さんの「おしゃべりスイッチ」を押してしまうのです。
ユニット(治療用チェア)に座るや否や、おしゃべりが始まります。
「先生、あのね〜」
「うん、うん、そうだったんですね」
私も笑顔で応えます。
ですが、ちっとも会話が終わらない。
歯科治療は時間予約制。
決められた時間内に施術を終えなければ、次の患者様がいらしてしまいます。
「さて、そろそろお口を開けましょうか」
やんわり促して、器具を口元へ。
診療室には、静かな機械音だけが響きます。
「はい、一度ブクブクしましょう」
ユニットを起こし、患者さんがうがいを終えた、その瞬間。
再び楽しそうに話し始めるのです。
「先生と会うと、なんだかおしゃべりしたくなっちゃう!」
満面の笑みでそう話してくださる患者様。
慕っていただける嬉しさと、スムーズに施術を進められない苦しさ。
その両方が、心の中で渦を巻いていました。
⌘3:本当にやりたかったこと
進路を考えていた当時、本当は「心理学」に強く惹かれていました。
ですが、今ほど心理学科のある大学は多くなく、通学には実家を出る必要があります。
箱入り娘だった私は、一人暮らしを認めてもらえませんでした。
悩み続ける私へ、父が薦めてくれたのが歯科衛生士という道。
こうして私は国家資格を取得し、医療業界へ進みました。
もちろん、歯科衛生士という仕事が嫌だったわけではありません。
ですが、心のどこかに、ずっと小さな違和感がありました。
「もっと言葉を交わしたい」
「もっと表現したい」
その気持ちを胸の奥へ押し込みながら、白衣に袖を通す日々が続いていったのです。
⌘4:違和感の正体
社会人になると、現実を優先しなければならない場面が増えていきます。
親の期待、学費、安定、周囲から見た「ちゃんとした人生」。
その中で、自分の本心を後回しにしてしまうことは、決して珍しいことではありません。
実際に、私もそうでした。
「せめて、かかった学費を返せるまでは頑張ろう」
そう思いながら歯科衛生士として働き続けていました。
ところが、人生は思いがけない方向へ動き出します。
ある日、大きなケガをしたことで、歯科衛生士として働き続けることが難しくなりました。
当時は、まさかそれが転機になるとは思ってもいませんでした。
その後、飛び込んだのが接客業界です。
すると、驚くほどの結果が出始めました。
個人売上No.1、顧客満足度連続No.1、店舗売上前年比6倍。
「言葉」を得た私の快進撃が始まりました。
歯科衛生士時代には悩みの種だった「おしゃべり」が、今度は大きな武器になったのです。
その時、ようやく気づきました。
私に必要だったのは、「能力をおさえること」ではなく、「自分の特性が活きる場所」だったのだと。
⌘5:一周まわって辿り着いた場所
医療業界から始まったキャリア。
その後、接客業界、行政、IT業界を経て、現在は国家資格キャリアコンサルタントとして仕事をしています。
一見すると、遠回りに見えるかもしれません。
ですが今振り返ると、すべてが一本の線で繋がっていました。
どの仕事でも共通していたのは、「言葉」と「会話」です。
誰かの話を聴くこと。
気持ちを整理すること。
言葉を通して、人の人生に関わること。
そ
れは、学生時代に惹かれていた心理学の世界と、どこか繋がっていました。
私はきっと、ずっと昔から、「言葉を使う仕事」がしたかったのだと思います。
⌘6:社会人1年目のわたしへ
50代になった今だからこそ、社会人1年目の私へ伝えたい言葉があります。
「ただ、自分の夢を思い出すだけでいい」
不安がある時。
違和感がある時。
それは、自分を見失っているサインなのかもしれません。
そんな時ほど、一度立ち止まってみることが大切です。
「幼い頃、好きだったことは?」
「学生時代、夢中になっていたことは?」
その中には、本来の自分へ戻るヒントが隠れています。
何のフィルターも通していない、幼少期の純粋無垢な直感は、意外と間違いません。
遠回りに見えた道も、一周まわってゴールに辿り着くための布石。
あとになって振り返ると、必要な経験だったと思える日がきます。
「先生に会えてよかった」
「今後の人生が輝いて見えます」
現在、キャリアコンサルタントとして、そんな言葉をいただくたびに思うのです。
「あの頃感じていた違和感も、迷いも、全部無駄ではなかった」と。
「社会人1年目のわたしへ」伝えたい言葉。
「少し先の未来には、ちゃんと活躍できる場所があるよ」
「だから大丈夫だよ。安心して歩みを進めてね」
その言葉を誰かに伝えたくて、私は今もキャリアコンサルタントを続けているのかもしれません。
