ロードバイクで日本国道最高地点へ! 地獄の日帰りライド
このジョルノ・ジョバーナには夢がある
僕がロードバイクに乗り始めたのは約一年前ですが,乗り始めた初期のころから抱いていた夢が二つあります.
一つ目は,東京湾を一周すること.いわゆるワンイチと呼ばれるライドですね.これは今年の六月ごろに達成しました.
二つ目は,日本国道最高地点へ行くこと.
そう,これは,自分が昔から抱いていた夢への挑戦でもあるのです.
日本国道最高地点とは
その名の通り,日本の国道の中で最も高い地点のことです.
その標高は実に2172m.森林限界よりさらに上,ときには雲の方が低い位置にあることもある高さです.
渋峠の頂上としても有名で,近くに長野県と群馬県の県境があります.また,その県境にまたがるかたちでホテルが建っていることも有名ですね.
ここには石碑があるほか,季節によっては道中で「雪の回廊」と呼ばれる雪の壁を拝むことが出来るのでサイクリストに限らず多くの人が憧れる場所です.
どうやって行くのか
まず考えていたのは,全自走です.
僕が住んでいる横浜市から自走で渋峠頂上まで行ってやろうと考えました.
群馬側からのアクセスであれば,高崎辺りを経由したルートを走れば片道250kmくらいで家から行けそうでした.
しかし今回は,それを許さない特殊な事情があったのです.
渋峠,群馬側ルート通行止め.
はい.火山活動の活発化により,群馬側のルートが一部通行止め.
具体的には,2025年8月4日から万座三差路~殺生間が通行止め.僕が渋峠を訪れた9月22日時点ではこれが解除されていませんでした(この記事を執筆している9月23日現在も通行止め続行中).
一応迂回路はあるのですが,125cc以上のバイク又は車でないと通行禁止です.当然自転車は通れません.
ということで,遠回りして長野側からアクセスするしかないのですが….
軽井沢辺りを経由して長野側からアクセスするにしても,とんでもない距離です.片道250kmでもとんでもないのに,それをはるかに超える距離になることは容易に想像がつきました.ルートは作っていませんが.
当然そんな距離なんか走りたくないというか走れないので,輪行することにしました.
で,せっかく輪行するならわざわざ数日かけて旅行にする必要もないよなと考え,横浜から渋峠への日帰り旅行が決定.
こうして,地獄の門は開かれたのです.
ルート
ルート(往路)はこんな感じです.

走行距離は約50km.
獲得標高は2141m(!?!?!?).
途中に若干の下り坂はありますが,基本的にはずっと上り続けるキツイルート.しかも,獲得標高2000m越えは自分の中では初.不安しかないです.
50km走って2000m上るという事はつまり,平均斜度は4%あるんですよね.
え!??!?!?! よよよ4%!?!??!?!?!
僕が毎回ヒーヒー言っている日向渓谷の平均斜度が4%くらいなんですよね.でもって,距離が5kmくらい.
つまりこのルート,日向渓谷10個分!?!?!!?!?
さらに言えば,これ,平坦区間や下りも含めての平均斜度ですからね.上り区間だけで平均を出している日向渓谷とは計算方法が異なります.
一般ローディは黙っていろ!
ここは天下の渋峠である.
正規の峠道とは計算方法が違う!
自分の中のバスク大尉が意味の分からないことを叫んでいますがとにかく地獄みたいなルートであることには変わりありません.
今回は日帰りで挑むので,このライドの前後に新幹線での移動もあるんですよね.
果たして僕は無事完走することが出来たのでしょうか.
ちなみに,これは往路だけの話です.
50km走って渋峠頂上に着いた後は,また50km走って長野駅に戻らなければなりません.合計100kmの道のり.君は生き延びることが出来るか.
起床,長野駅へ
まず最寄り駅から東京駅へ向かいました.
輪行袋へのセットや荷物の準備は前日のうちに済ませておいたので,当日は朝早く起きて電車に乗るだけ.
モバイルバッテリーやビンディングシューズなどの荷物は,リュックにもなるサドルバッグに詰め込んでリュック状態で背負いました.自転車に乗るときだけサドルバッグに変身させます.
本当は普通電車だけで行けるかな~と思ってたんですが,横浜から長野へは新幹線でないと行けない模様.普通電車が通っていません.

ちなみに,北陸新幹線に乗るのは人生初です.
東海道新幹線くらいしか乗ったことなかったです.もしかしたら長野県も初上陸かも.
ただひたすら乗ってただけなので長野駅までカット.
新幹線の中では寝てました.

知らん人が映りこんだので一応モザイクしてます.
輪行を解く
来てしまったからには走るしかありません.輪行を解けそうな手ごろな場所を探します.

いい場所が特に見つからなかったので,結局バス停の目の前で解きました.沢山人がいたのでちょっと恥ずかしかったです.

ここで悲報です.輪行袋を収める袋のチャックが壊れました.
僕はRK03という輪行袋を使っているのですが,これ,輪行袋を収める袋のサイズがギリギリなんですよね.いつも無理やり押し込んでいます.
この日もいつも通り無理やり収めようとしていて,チャックが粉砕しました.
脳内で『悲しみの向こうへ』が再生されそうになれますが,大丈夫.サドルバッグがあるのです.輪行袋を折りたたんだ状態でサドルバッグに収めればいいんです.
というわけで事なきを得まして,スタートしました.
次から輪行する時はどうすればいいんでしょうね.輪行袋を収める袋を別途用意する必要があるんですかね.
坂! 坂! とにかく坂!
ルートの最初の10kmくらいは平坦なので順調に進みます.というかこの辺はまだ「街」って感じがします.
しかし15km近く走ったあたりから上り坂が始まります.
とにかく坂.上り坂がずっと続く.全部で20km以上続きます.
足を休められるようなところがあるわけでもなく,8%くらいの斜度の上り坂がひたすらに続きます.
住宅街を抜け,温泉街を抜け,とにかくひたすら坂を上り続けます.
そして,サイコンがついに走行距離25kmを指します.前半戦の終了…と言いたいところですが,本当にキツイのはここからです.

地獄の信州高山あじさいロード
本当の苦しみはここからです.
ここからは正真正銘の峠道.
周りには民家もなく,人通りも少なく,街灯もなく,大自然の中をひたすら上り続けます.

これ,分かりますでしょうか.赤丸で囲んだ部分にガードレールが映っているんですよね.
はい.この後ヘアピンカーブしてここまで上ります.

この写真も,分かりにくいですが赤丸のところにガードレールがあります.ヘアピンカーブの先の道です.
カーブ一つで5mくらい上るんじゃないでしょうか.
一つカーブがあるたびに斜度が13%とか行きます.
もうこの頃には体内斜度計もぶっ壊れて,「5%くらいかな~」と思ってサイコンを見たら11%とかあったりします.
このあたりはツキノワグマの生息域でもあるそうなので,気を付けて走ります.もしクマと遭遇したら文字通り命がけのダウンヒルです.
ちなみにこのあたりでナビ君からオフロードに案内されました.近道ということらしいです.
一応舗装はされているのですが,苔むしているし枝や石がたくさん落ちています.とてもロードバイクで通れるような道ではないため正規ルートで進みました.

ついに標高1400mに到達します.
しかし「嬉しい」という感情はなく,「この疲労度なのにまだ700mも上らないといけないのか!?」と愕然とします.
ちなみにこの後下り坂あるので,実際にはまだ1000m残っています.まだ半分しか上ってないです.
5%を下回ることのない斜度の坂をひたすら上り続けます.
ひたすら,ひたすら上り続けます.
行動食も飲み物も足りなくなり,体力も底を尽き始め,わずかに残った気力と「ここまで来たんだから,もう少し」という気持ちで進み続けます.
上り坂も残り3kmくらい.
ここからが本当にきつかった.
軽いハンガーノックのような状態.ペダルを回す体力も最早残っておらず,斜度が10%を超えるようなところは自転車を押して歩くことしかできなくなりました.
『あしたのジョー』のように座り込み,そのまま動けなくなることも何度もありました.
サイコンが示す「上り坂はあと何キロ」が,少しずつ,本当に少しずつ減っていくことだけを心の支えにして,折れそうな心を,挫けそうな心を峠道の頂上へ運びました.
「あじさいロード」とか可愛い名前をしていますが,改名した方がいいんじゃないでしょうか.
女子学生を集めるために学科名を武骨なものから可愛い響きに変える的な姑息さを感じます.
ちなみにこの道は,数日後にヒルクライムレースがあるようで「頂上まであと何キロ」がちょこちょこ地面に書かれていました.
こんな上るのも精いっぱいの場所でレースなんて信じられません.
到達! 国道292号線
満身創痍になりながら信州高山あじさいロードの頂上へたどり着きます.

あとは縦方向に300mほど下って,ついに日本国道最高地点のある,国道292号線へ入ります.
さあ! あとは残り8km上るだけです!!
え!?!? 残り8kmもあんの!?!!?
地獄です限界です無理です無理です無理です.
残り8kmとかどうあがいても走れる気がしません.
しかし,信州高山あじさいロードに比べれば斜度は若干緩くなっています.
ここまで来たらもう気力です.
精神力です.
どれだけ休もうが,どれだけ押し歩くことになろうが構いません.もうここまで来れば意地です.意地で進むだけです.
292号線では偶然出会ったスパニッシュと一緒に走りました.
が,このスパニッシュ豪脚すぎてすぐに千切られました.
というかこのスパニッシュ,「渋峠を抜けたら草津温泉まで行く」と言っていましたが,よく考えたら通行止めで行けないですよね.
どうしたんでしょうか.
ちなみに英語ペラペラでした.スパニッシュは英語で話しかけて来るのに僕が日本語で回答するので,「English OK?」と聞かれて「Can't! Can't!」と答えたら音声翻訳アプリを取り出して会話してくれました.優しい.

ついに来ました,標高2000m.
縦方向にはあと172mです.
精も根も尽き果てて,(横方向に)100mほど進むたびに座って休み,少し押し歩き,勾配が緩めば少しだけ自転車に乗って,100mほど進めばまた休み…を繰り返しながら進みます.

標高2100m(後ろの人にはモザイク加工)
標高2100m.
ここまで来ればあと一息です!!!
が,座って休めるところは貴重なので,このドライブイン看板の岩のところに座ってずっと休んでいました.
いや,違うんですよ.
このドライブインにはスパニッシュの自転車が停められていたので,しばらく待っていれば出て来るかな~とか思っていたんですよ.
出てきませんでした.
全然出てきませんでした.
スパニッシュへの未練を断ち切り,再び自転車にまたがります.
ついに,日本国道最高地点へ
横手山ドライブインからは,黄色いサイクルジャージの方の後ろを走りました.ちなみに途中で千切られました.
ここに来るまでに,何度も,何度も立ち止まりました.
でもその回数分だけ,何度も立ち上がってここまで進んできました.
何度も座り込み,何度もへたり込み,そしてその分だけ,闘志を沸き立たせて再び進んできたのです.
そして,ついに──.

あの有名な渋峠山頂ホテルへたどり着きます.
車で来たザコどもが能天気に記念写真なんか撮っていますが,僕がここに辿り着いたときのエクスタシーはこいつらが抱いている感動の比ではありません.
辛かった.苦しかった.
何度もリタイアを考えました.
それでもここまで来たのです.
ここまで来れば,あと一歩なのです.
渋峠から500mほど走った先.そこには──.

日本国道最高地点碑です.
ついに,ついにここまで来たのです.
見てください,この満面の笑顔を.
この瞬間だけは全ての疲労を忘れ,やり遂げたことへの満足感と達成感で胸がいっぱいでした.
え? モザイク処理されているから顔が分からないって?
それはまあその,想像で補っていただければと….この記事で一番大事なところなので,どうにかしてご自身で補完してください.
本当は亜美ちゃんのようにロードバイクを頭の上に掲げたかったのですが,そんな体力は残っていません.
亜美ちゃんって凄いんですね.
ちなみに石碑での写真は黄色ジャージの方に撮っていただきました.


さすがは森林限界の上.見事な眺望です.
というかなんで曇ってるんですか晴れ予報だったのに.ああ,せっかくの眺望が.
この後は渋峠ホテルまで戻って,到達証明書を発行してもらいました.

証明書を発行してもらえた時の感動はひとしおでしたね.
自分の今までの苦労が,どんなに辛くても進み続けた道程が,陳腐な表現をするならそれまでの僕の努力が,形になったように思いました.
ちなみに,この「僕の努力」は100円で買えます.
知らん人に「大変だったでしょう.どのくらい時間かかったの?」と聞かれて,「今14時なので…4時間くらいですね」と答えましたがスタートが8時だったので6時間かかっています.
引き算すら出来ないほど疲労困憊しています.
渋峠ホテルにはワンちゃんがいるんですが触れ合うの忘れてました.
あと,ちょうど営業時間が終わるところだったのでカレー食べるつもりだったのに食べられませんでした.
なんて日だ.
家へ,帰ろう
帰路はひたすら下りでした.その途中で上り坂もありましたが,せいぜい100mおきくらいに休憩を挟んだり自転車を押し歩いたりした程度.余裕でクリアです.
下り坂の途中でBB下のボトルケージが振動で割れてしまいました.
まあ,20km以上にわたって連続で下り坂なんて状況,普通はあり得ないですからね.
最後10kmの平坦は,早く終わらせたい一心で30km/h巡行しました.下り坂で体力が回復したおかげで何とか走れました.
サドルバッグの形がだんだん崩れてきて,タイヤに擦るようになってしまい,最終的に穴が開きました.
この旅,トラブル多すぎでは?

日の入り直前で長野駅に到着.帰りは3時間程度でした.
行きと同じ画角で写真撮影.

この時間だというのに東京駅は混雑していました.
人類は少し増えすぎていると思いませんか? もう少し減らした方がいいですよね.
危険思想を抱きながら帰宅.およそ23時.
早速お風呂に入って,撮った写真をインスタにアップして寝ました.
荷物とか輪行袋とかは全部そのままです.
「もう疲れたから明日やろう.今日はもう頑張ったよ.あとは明日の自分が何とかしてくれる」
そう自分に言い聞かせて,僕は深い眠りにつくのでした.
全行程を終えて
こうして僕は無事,日帰り渋峠チャレンジを完遂しました.
あまりにもきつかったので渋峠なんてもう二度と行きたくないですね.
でもいいところでしたので,皆さんもぜひチャレンジして,そして苦しんできてください.苦しみの先にある感動こそ生物の本懐ですからね(危険思想).
