お米屋のお母さんが作り続けた「あったかい筋子おにぎり」~帯広市の奥平米殻店~
【1505むすび】奥平米殻店(帯広)すじこ
《連続2318日目!》
秋の北海道、十勝地方でのおにぎり探し旅も3日目の朝になった。
この日は、ホテルでの朝食は取らずにおにぎり屋さんを巡っていく計画だ。
「食べ物がおいしい土地は、人もやさしい」
気温がぐっと下がり始めたこの季節、空気はひんやりしているのに、どこか胸の奥がじんわりあったかい。

実は、「帯広に行くなら絶対に食べた方がいいおにぎりがある」と、知人から聞いていた。
その場所は、おにぎり専門店ではない。
なんと「お米屋さん」が握るおにぎりだという。
お米屋さんがつくるおにぎり。
間違いない予感しかしない。
地図で見ると市街地から少し離れていたので、朝の冷たい空気を吸い込みながら、レンタカーに乗り込んだ。

帯広の道路は、まっすぐで広く、車の運転がしやすい。
街路樹が綺麗に並んでいて、青空と一体になりながら風景を作り上げている。
信号機の赤、黄、青が縦型に並んでいて、北国に来たなあと感じさせてくれる。

道沿いに手造りおにぎりの青いのぼりが、揺らめいていた。
どうやら、ここが目的地のお米屋さんのようだ。
お店には大きく「奥平米殻店」と書かれている。

ごめんください。
店内に入る。店頭には各地のお米が気のケースに並んでいる。
量り売りをしているようだ。
まさにお米屋さんである。
その奥からの方からは、炊き立てのお米の甘い香りがほのかに漂ってくる。

目に飛び込んできたのは、お店に飾られた額に入った言葉だ。
おにぎりは思い出
おにぎりはお母さんの味
夢がある
この三行が胸に刺さる。
どんな有名料理人の格言より、あたたかく、そして深い言葉だ。
おにぎりとは、理屈で語るものでないのかもしれない。
もっと感情的なところに、その良さというか本質があるように感じる。
この言葉は、それをあらためて思い出させるものでもあった。
店内は、お米屋さんならではの落ち着いた空気が流れている。
カウンターには植物や手作りの写真立て、小さな飾りが並び、どれも大事に手入れされている感じが伝わってくる。
その空気だけで、「この店は、きっと良いおにぎりを出す」と確信できる。

このお店は、注文してからおにぎりを握ってくれて、それをテイクアウトできるスタイルだった。
カウンターの上には、おにぎりの具がずらりと書かれている。
さけ、うめと言った定番のものから、福神漬け、チーズかつおというような他ではあまり見ないものもある。
この中で選んだのは…
やっぱり、北海道に来たからには食べたいもの。
そう、すじこだ。
「すじこおにぎり」を注文した。
待っている間、お店のお母さんと少しお話ができた。

「うちはとにかく、お米にはこだわってるからね」
お母さんはそう言って笑う。
全国各地のお米の中から、おにぎりに合ったものを選び、その美味しさを引き出しているらしい。
お米屋さんが言う「こだわり」ほど説得力のある言葉はない。
「お米が主役のおにぎり」に出会えるのは本当に嬉しいものだ。
「最近はね、このおにぎりを食べにわざわざ遠くから来てくれる方が多いんですよ」
と、ちょっと照れくさそうに話してくれたお母さん。
派手な広告もSNS戦略もなく、ただ「誠実においしいものを作り続けた結果」ファンが増えて、それが自然に広がっていく。
情報がなんでもあふれる時代において、こういうお店は、本当に強い。
まさに、ファンベースなお店だ。
しばらく待つと、湯気が立つほどの握りたて熱々のおにぎりが運ばれてきた。

テイクアウトしたおにぎりは、近くにある道の駅のベンチで食べることにした。
手に取ると、ふわっと温かさが伝わる。それは、ほぐれすぎず固すぎず、絶妙な握り加減だと分かる。
さっそく、いただくことしよう。
いっただきまーす!かぶっ。
うん。いいー
かじった瞬間、お米の甘みと香りが、口の中に広がっていく。
炊き加減、握り加減、塩加減、海苔とのバランス。全部がちょうどよくて、ただまっすぐに「うまい」と言わせる。
具にすじこを選んだのも正解だ。
すじこのねばりのある塩気がごはんの熱でほどけていって、その旨味が米の一粒一粒にじゅわっと浸透していく。長い間、多くの人に愛されているお母さんのおにぎりの味、納得でしかない。
旅をしていると、星の数ほどご飯を食べる。
おいしいものはいくらでもある。でも、ずっと忘れない味って、実はそんなに多くない。
帯広の奥平米殻店のすじこおにぎりは、そんな「記憶に残るおにぎり」のひとつになった。
おにぎりは思い出。
おにぎりはお母さんの味。
夢がある。
店内に飾られていた言葉が、今なら少し分かる気がする。
「この人が握っているから、この味になる」そんなおにぎりが、日本のどこかでひっそりと作られている。その事実が、なんだかとても愛おしい。
派手さは一切ないけれど、人が人にすすめたくなる店というのは、こういう場所のことをいうのだと思う。
帯広市の奥平米殻店。お米屋のお母さんが作り続けた、あったかい筋子おにぎり。
ご馳走たまでした。
全国にある「お母さんのおにぎり」を食べ歩きたい。
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