漢字とひらがな、どう使い分ける?「まぜ書き」の背景と読みやすさ
「フリーランスライターのブツクサひとり言」第64回
新聞やWEB記事を読んでいるとき、
「あれ? 漢字で書くべきなのに、ひらがなになっている」と感じたことはありませんか?
たとえば「拉致」⇒「ら致」、「逼迫」⇒「ひっ迫」になっているのを見て、不自然さや違和感を覚えることがあります。いわゆる「まぜ書き」です。
「まぜ書き」は、主に漢字の一部をひらがなに置き換える表記方法で、このように書かれる理由はいくつかあります。
ひとつには、「常用漢字表」に掲載されていない漢字が使われているからです。
新聞やテレビなど多くのメディアは、常用漢字表を基準にして表記を統一しています。表にない漢字(常用外漢字)は学校で習わないので、読者によっては読めない恐れがあります。
そのせいで記事の理解を妨げるかもしれないため、常用外漢字を含む熟語はひらがなに開く対応が取られるようになりました。

以下、もともとは漢字表記されていたのに、上記の理由でまぜ書きされるようになった語句をいくつか挙げてみました。
▽拉致(ら致)
「拉」は「引っ張る」という意味を持ち、「拉致」で「無理やり連れていくこと」を意味します。しかし、「拉」が常用外漢字であるため、多くのメディアでは「ら致」と表記されるようになりました。
▽逼迫(ひっ迫)
「逼」は「迫る」「追い詰める」といった意味があり、「逼迫」は「事態が差し迫っていること」を表します。これも同様に「逼」が常用外漢字であることから、「ひっ迫」と書かれることが多くなりました。
▽牽制(けん制)
「牽」は「引っ張る」「導く」といった意味を持ち、「牽制」は「相手の動きを妨げること」を指します。漢字を読めない人もいるため、「けん制」と表記されます。また、「牽引免許」も、免許証には「けん引」と記されています。
▽拳銃(けん銃)
「拳」「銃」ともに常用漢字ですが、一部の法律では条文に「けん銃」と表記されています。
メディアがなぜ「けん銃」と表記することが多いのか? 調べてみましたが、納得できる理由は見当たりませんでした。
▽障害者(しょうがい者)
この表記には、少し特別な事情があります。
「障害者」の「害」は「悪い影響を与える」「邪魔をする」といったネガティブな意味合いをもつことがあります。
そのため、この言葉がもつイメージを払拭するために「害」をひらがなに開いて「障がい者」の表記が広まりました。
また、より古い表記には「障碍者」がありましたが、こちらも「碍」が常用外漢字であるため、ひらがな表記が定着しました。
私見ですが、すでに「しょうがいしゃ」という言葉が一般に浸透しているため、いまさら新しい言葉をつくっても普及しないだろうということで、表記を替えて使い続けるしかない事情もあるのでしょう。
「まぜ書き」は、多くの人がスムーズに文章を読めるように工夫された結果生まれたものです。しかし、一方で、この表記が逆に読みづらさを生んでいる場面もあります。
たとえば「ら致」「ひっ迫」のように、ひらがなと漢字が混ざると、一瞬「ん?」と立ち止まってしまうことがあります。特に、漢字本来の意味を知っている人にとっては、熟語としてのまとまりが崩れてしまい、違和感を覚える原因になります。
漢字はそれ自体に意味をもつため、文章全体を素早く理解する上で非常に重要な役割を果たしています。
熟語全体が漢字で書かれているほうが、ひと目で単語全体を認識でき、スムーズに読み進められるのに、まぜ書きをしたためにかえって読みづらくなってしまっているのです。
しかし、常用外漢字であっても、すでに社会的に広く使われている言葉がたくさんあります。
もし、ブログや個人のSNSなどで文章を書く際は、常用外漢字であっても読み手が十分に理解できると判断できる場合は、あえて漢字で表記してもよいと思うのです。
漢字がもつ意味の力によって、文章全体がより引き締まり、読み手に意図がより明確に伝わることもあります。
ただ、業務として原稿を書く際は、メディアのレギュレーション(表記ルール)に従うことが基本であることは、あらためていうまでもありません。

