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【奸話窮題】とあるバラバラ事件の取材で

2003年に奥多摩で発生した、いわゆる「東京・山梨連続リンチ殺人事件」。取材に臨んだ当時の私は、数日にわたり調書を精読し、頭に叩き込んだ上で現地を回った。土地の空気や道路の癖、住民の口ぶりを確認するためだ。事件の“輪郭”は紙の上では決して掴めない。◆「このへんに手首が落ちてたんですよ」──地元住民はそう語った。あまりに異常な光景を、あまりに日常の声色で語る。その場の空気は妙に澄み、私のほうが異物のように感じられた。日常と非日常が地続きになってしまう場所には、説明できないねじれが生じる。◆検察側の調書が真実に即しているかを確かめるため、現場には当時使われた車両を配置して死角を検証した。すると、検察が「共犯」とした人物が、主犯格に動きを封じられる形で現場を視認できなかった可能性が浮かび上がった。見ていないはずの人物が“共犯”なのは奇妙だった。◆なぜ現場を目撃すらしていない人間が共犯扱いされるのか。なぜ犯人グループに誘拐され行動を共にしただけの者が、被害者と同じく翻弄された立場なのに“加担者”にされるのか。不可解な点を整理していくほど、事件の捜査には“最初から決められた筋書き”があるように見えてきた。◆その後の取材で、国外逃亡に成功した主犯格二人のうち一人に、強大な後ろ盾が存在することを察した。捜査当局にとって「捕まって欲しくない理由」に当たりそうな背景が、影のようについて回る。逃亡直後、パスポートを奪われた状態でどうやって生き延びたのか──疑問は増えるばかりだ。◆主犯格の男は遠い異国で死んだという。その口から真相が語られることはなかった。十数年に及ぶ逃避行の資金源は何だったのか。それほどの長きに渡って逃走を支援した「力」は何なのか。事件を追ううち、私は“解決”と呼ばれるものが、必ずしも真実ではなく、誰かの思惑に沿って編まれる“物語”なのだと知った。(猪)

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