Kenko Variable ND-W を検証する
NiSi の人気モデル TRUE COLOR ND VARIO との比較を通して、Kenko の可変 ND フィルター Variable ND-W の性能を検証していきます。
1. 可変 ND なのに偏光効果がない?
一般的に可変 ND は、偏光フィルター(偏光膜)を 2 枚組み合わせた構造になっているので、フィルターを回転させると、明るさが変わるとともに 偏光効果 が起こります。
偏光効果(Polarization)は、偏光膜により “光の振動の向き” を変えることで、メタリックな素材以外のあらゆる光沢面の 反射光 が変化するというものです。たとえば以下のように、レンズを撮影した場合に、偏光効果が起こると、レンズの色や濃度が変わってしまうことがわかります。

NiSi の可変 ND フィルターの人気シリーズ TRUE COLOR ND VARIO は、Linear Polarizer(偏光膜)を 2 枚重ねた構造になっていますが、フィルターを回すとこの偏光効果が起こり、明るさの変化とともに、光の反射が変化して、それにより色の濃度も変化していきます。

一方、今回検証する Kenko ND-W は、偏光効果が起こらない特殊な設計になっており、フィルターを回しても光の反射は変わらずに、明るさが変化していくという特徴があります。

可変 ND の性能を検証する YouTube 動画には、室内空間をライティングした状態で、カラーチャートを撮影したものもありますが、そうした環境では、偏光効果の影響がなかなか見えてこないので、今回は 自然光 の中で、その比較テストをしています。
使用機材、カメラ設定は以下の通りです。
Camera:Nikon Z5II
Format:4K N-RAW
Lens:Nikon NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
Filter:Kenko Variable ND-W 82mm, Kenko Pro1D Pro ND4(W)82mm, NiSi TRUE COLOR ND VARIO SWIFT VND Kit 82mm
2. カラーシフト
まずは、Color Checker チャートで、色被り(Color Cast)の影響を検証していきたいと思います。
はじめに、Kenko ND-W のカラーシフトの傾向を STOP 単位で比較してみると、以下のようになります。

ベクトルスコープで確認してみると、ND-W は 4 STOP までは色の変化がほとんどなく、減光量が 4 STOP を超えると、青方向 にシフトしていく傾向が見られます。さらに、減光量が(推奨範囲の)7 STOP を超えると X ムラが強まり、イメージ全体が青く染まるような状態になります。

試しに、フィルターなしの状態と比較してみると、ND-W を装着することで、色調はすこし 暖色 にシフトするようです。

続いて、NiSi SWIFT VND を見ていきます。

ベクトルスコープで確認してみると、フィルターを回してもカラーシフトはほとんど見られず、減光量が 5 STOP に近づくにつれて、ND-W と同じく、色調が 青方向 にシフトする傾向が見られます。
フィルターなしの状態と比較してみると、SWIFT VND を装着することで、ND-W と同じく、色調はやや 暖色 にシフトするようです。

参考までに、可変 ND の初期モデルである Tiffen VND を見てみると、以下のようになります。

Tiffen VND は、可変 ND フィルターの大きな問題とされてきた “黄色かぶり” が強く出ていますが、フィルターを回しても大きな色転びは起こらず、Max 付近でイメージ全体が青方向に転ぶような傾向が見られました。
続いて、X ムラの具合を確認していきます。
3. X ムラ
可変 ND フィルターは、偏光膜の重なり具合により、通常の ND にはない可変 ND 特有の現象として、X 状に光量が落ちる X ムラ(X-Pattern)が現れることがあります。
たとえば、今回のテストで使用した Tiffen の可変 ND フィルターでは、減光量を強めていくと、以下のような強烈な X ムラが発生します。

一方、ND-W の場合は、減光量が 5 STOP を超えると X ムラの影響が目立ちはじめ、7 STOP を超えると、以下のような強烈な X ムラが現れるようになります。

こうした X ムラの現象は、イメージの端が段階的に暗くなるレンズの周辺減光とは異なり、フィルターを回転することで、イメージが 部分的 に暗くなったり、明るくなったりするので、クリアな映像を撮影する上ではかなり厄介な症状といえます。
参考までに、フィルターなしの状態は以下のようになります。

今回の検証では、レンズは Nikon NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S を使用していますが、ND-W の減光量を 5 STOP にすると、イメージの左上と右下から画面中央にかけて色調が 赤く なり、明るさが暗く落ちこむと同時に、右上と左下の色調が 青く なるような症状が見られます。

フィルターを回転して、減光量を 7 STOP にしてみると、さらにその傾向が強まります。

一方、SWIFT VND の場合は、ND-W とは逆に、イメージの右上と左下の明るさが暗く落ちこむと同時に、色調が 青く なる傾向が見られます。
SWIFT VND では、ND-W のように色調が赤くなることはないようですが、同じ減光量(5 STOP)で比較してみると、ムラは ND-W よりも強く出ている印象があります。

こうした X ムラの現象を抑えるために、SWIFT VND は 減光量を 5 STOP に制限する機構(Hard Stop)になっているわけですが、ND-W にはそうした制限がなく、強烈な X ムラが発生する領域までフィルターを回すことができてしまいます。
フィルターを回し過ぎていないか? 常に気にしながらの撮影は相当ストレスになりますが、そうした問題を解消するにはどうすればいいのか?
ひとつの解決策として、SWIFT ND と同じく固定の ND フィルターを追加することで、ND-W の減光量を 5 STOP 以内に収める、という手法が考えられますが、そこで気になるのがケラレの問題です。
4. ケラレ
たとえば、NiSi の SWIFT システムは、フィルターを重ねるとかなりの厚さになりますが、フィルターそのものがイメージの端に映りこんでしまう、ケラレ(mechanical vignetting)は起こらないのか?

NiSi の 製品サイト によると、焦点距離 20mm までは、フィルターを 3 枚重ねてもケラレは起こらないとされていますが、実際、Nikon Z5II + NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S の組み合わせ(焦点距離 24mm)で試してみると、以下のようになります。

イメージの四隅を見てみると、周辺減光と思われるような現象はあるものの、明らかなケラレはないようです。試しに、Z5II の レンズ補正 の機能を外してみると、以下のようになります。

レンズ補正を外してみると、特にイメージの右上と左下の周辺減光と思われるような現象が目立つようになりましたが、フィルターの回転(減光量)を抑えてみると改善が見られたので、こうした周辺減光の現象はケラレというよりは、X ムラの影響 によるものと考えられます。

続いて、ND-W のケラレを確認してみたいと思います。まず ND-W 単体 で見ると、レンズ補正を外した状態でもケラレは全くない状態となっています。

試しに、ND-W に固定の ND フィルター Kenko Pro1D ND4(W)を追加してみると、以下のようになります。

レンズ補正なしの状態では、イメージの四隅にすこしケラレのような現象が見られますが、レンズ補正を ON にすると、SWIFT VND と同じようにギリギリ解消することができました。

参考までに、実際のフィルターのサイズ感を比較してみると、以下のようになります。

今回使用したフィルター径 82mm の ND-W は、外径も 82mm になりますが、SWIFT VND は外径がひと回り大きくなり、フィルター径が 82mm の場合、外径は 86mm になります。
厚みに関しては、ND-W よりも SWIFT VND の方が 2mm ほど厚く、2 枚重ねた状態では、その差がおよそ 3mm になります。

続いて、運用面の比較をしてみたいと思います。
5. 運用面
今回は、レンズは Nikon NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S を使用していますが、実際に ND-W を取り付けてみると、以下のような感じになります。

ND-W の場合は、カメラ側から見て、基準の三角マークがレンズの真上よりやや右の位置になり、フィルターを回転用のピンは、レンズの真上から左水平の範囲 を可動する感じになっています。

STOP 表示の範囲外となる min から MAX まで、フルストロークでフィルターを回すと、ちょうど 90° になるよう設計されているようですが、2 STOP から 7 STOP の範囲は 45° ぐらいで回せるので、左手でレンズを握ったまま、親指でピンを無理なく回すことができます。
一方、SWIFT VND を取り付けてみると、カメラ側から見て、基準の黒丸マークがレンズの真上よりやや左側になります。

フィルターを回転用のピンは ND-W と逆に、カメラ側から見て、レンズの右側から真上の範囲 を稼働する感じになっています。
稼働範囲は ND-W と同じく 90° ですが、実際、このピンを使ってフィルターを回すのはわりとやり辛く、右手でカメラのグリップ、左手でレンズの底面を支えるような構え方をしている場合は、どちらかの手を放すことになってしまいます。

追加の固定 ND フィルターを取り付ける動作に関しては、ND-W の場合は、フィルターをねじ込む必要がありますが、NiSi の SWIFT システムは、フィルターを押しこむ方式になっているので、ワンタッチで脱着することができます。

またキャップに関しては、ND-W の場合は、たとえばフィルター径 82mm のものは、82mm 径のレンズキャップがそのままハマる感じになっています。

一方、SWIFT VND では、フィルター径 82mm の場合は外径が 86mm になるので、基本的に 86mm 径の SWIFT システム専用のキャップを使用する必要があります。

この SWIFT システムのキャップは、キャップをロックするための機構がないので、何度もくり返し使っている内に、消耗により外れやすくなる懸念もあります。
6. あとがき
可変 ND は、フィルターを回転していくと、色被りだったり、X ムラの影響が強くなることで、イメージが濁っていく傾向がありますが、そこに偏光効果の影響も加わると、レンズ本来の質感とはかけ離れた状態になってしまう。そうしたクオリティ面の課題を考えると、偏光効果のない Kenko ND-W は、優秀なモデルといえそうです。
一方、マグネット式のモデル JetMag PRO の展開もある、NiSi TRUE COLOR ND VARIO シリーズは、偏光効果は起こるものの、フィルターの脱着が素早くできるという運用面でのメリットがあるので、何度もレンズ交換をするような撮影では、便利に使えそうな印象があります。
X ムラに関しては、SWIFT VND よりも ND-W の方が、より抑制されている印象がありますが、どちらも 4 STOP を超えると X ムラの症状が目立ちはじめるので、クリアな映像を撮影する上では、減光量を5 STOP 以内に収める という点が、重要なポイントになりそうです。
たとえば、屋外の自然光の中で、ISO 800 F2.8 の露出で撮影するには、光量を 9 STOP ほど落とす必要がありますが、ND-W で 9 STOP 減光するには、さらに ND4 以上の濃度の ND フィルターを追加する必要があります。
検証の結果、Kenko 製品の中では、薄枠の Pro1D ND(W)シリーズは焦点距離 24mm でもケラレなく使えたので、もし屋外撮影で ISO 800 F2.8 の露出を目指したい場合は、ND16 あたりの ND を追加することで、ND-W の減光量を 5 STOP 以内に収めることが可能となります。
※ 当記事は、必要に応じて加筆・修正を加えアップデートをおこないます。
