なぜ彼らは、そこまでして声を消したかったのか〜兵庫の街頭で見た、民主主義の壊し方〜
第1部↓
普通の人たちが、そこにいた
2024年秋、兵庫県知事選が終わった。
テレビが「斎藤は終わり」と流し続けたナラティブを、県民はスマホで一次情報を調べながら静かにひっくり返した。あの結果は、「メディアが何を言おうと、俺たちは自分で判断する」という宣言だったと思う。
そして次の舞台は、参院選へ向けた街頭演説へと移った。
兵庫の駅前に集まっていたのは、政治活動家じゃない。仕事帰りのサラリーマン、子供を連れた家族、「テレビじゃわからないことを自分の耳で確かめたい」と思ったふつうの兵庫の人たちだ。
NHK党・立花孝志氏らがマイクを握り、百条委員会の不透明な運営の話、公用PCに残っていたデータの話を語り始めた。
その瞬間、何かが割れた。
怒号が来た
「うそつき!」「帰れ!」
突然、近くに陣取った集団が声を上げ始めた。いわゆる「しばき隊」と呼ばれるグループだ。プラカードを掲げ、演説者に向けて罵声を浴びせ続けた。
反論ではない。「その話は間違っている」でもない。「証拠を出せ」でもない。ただ、声をかき消すための音量だった。
隣にいた母親が、子供の手を引いて足早に去っていった。高齢の男性が戸惑ったように周りを見回していた。「何なんだ、これは」という空気が、その場を満たしていた。
私が見たのは思想の対立じゃない。演説を「聴けなくさせる」という、計算された行為だった。
「表現の自由」という言い訳
後になって、メディアの一部はこの出来事を「双方の対立」と報じた。「立花陣営への激しい批判が街頭でも」みたいな見出しで。
それは嘘だ。嘘ではないとしても、意図的な省略だ。
公職選挙法225条は、演説中に大声で妨害し続け、有権者が内容を聴き取れない状態にする行為を選挙妨害として規定している。最高裁の判例も、身体的暴力に限らず、こうした行為を「自由妨害」と認定してきた。
抗議する自由はある。でも、それは他人が聴く自由を奪う権利とは別物だ。
立花氏の言ってることが正しいかどうか、それはまったく別の問題だ。正しければ聴けばいい。間違っていれば聴いて判断すればいい。その機会を守ることが、民主主義の最低限のルールだ。
兵庫で壊されたのは、そのルールだった。
言論を言葉で潰す手口
しばき隊らのやり方を整理する。
まず聴衆の輪の近くに入り込み、プラカードで視界を遮りながら大声で演説の声をかき消す。演説者が言葉を発するたびに、組織的なタイミングで罵声を重ねる。内容への反論ではなく、続きを喋らせない、という戦術だ。
近くには高校生も高齢者もいた。彼らに向けて怒号を浴びせ続けることの何が「正当な抗議活動」なのか、私にはどうしても理解できない。
仮にこれが「正当」として許されるなら、今後の選挙では動員力のある集団がどんな演説でも物理的に潰せることになる。それは民主主義じゃなく、声の大きい側が言論を独占する暴力政治だ。
なぜかテレビは黙った
テレビはこの現場を、どう伝えたか。
ほぼ伝えなかった。
報じたとしても「街頭では賛否が対立」という処理だった。妨害を妨害として報じず、ヤジを「激しい反応」と呼び替えた。
理由は単純だと思う。立花陣営が街頭で語っていた内容の多くは、テレビが報じてこなかった情報だった。公的文書の話、内部から出てきた事実の話。それを守る報道をすることは、「なぜ俺たちが最初からこれを報じなかったのか」という問いを、自分たちに向けることになる。
黙るのが一番楽だった。いじめの現場を目撃しながら「どちらにも言い分がある」と言い続ける傍観者と、やっていることは同じだ。
彼らは何を怖れていたのか
怒号が激しければ激しいほど、県民は逆に気づいていった。「あそこまでして消したい話って、何なんだ?」
スマホで一次情報を探す人が増えた。現場の動画が拡散した。妨害しようとした側が、かえって拡散を後押しした格好になった。
それでも私には疑問が残る。
彼らは、法的リスクを冒してまで、なぜそこまでしたのか。思想の違いや正義感だけでは、あそこまでの行動は取れない。
あの焦りの裏には、情報が広がることで崩れてしまう「何か」があったはずだ。
その「何か」は、メディアにも街頭の活動家にもない。私たちが毎月払っている税金を使い、あの知事不信任を全会一致で通した兵庫県議会の、その内側にある。
第3部では、その構造を県民が自分で見抜くための具体的な方法を書く。ワイドショーに頼らず、情報をどう読むか。それが今、兵庫で必要な「武器」だ。
(第3部へ続く)
第3部↓
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