夏の日
その日
あの子は約束通りにカステラを届けにきた。
夏祭りの縁日に
ベルのカタチをしたカステラがあることを
仲間と行った浜辺で話したから。
前もって知らされてはいたけれど
あの子の優しさには驚かされてばかり。
いつも誰にでも
気遣いの達人。
「頑張らなくていいからね」
と
笑顔で言いながら渡された茶色の小さな紙袋には
薄い油の模様が透けていて
縁日の灯りが映る。
あの子の温かい肩越しに
彼の顔が浮かんで
私はハッとする。
近づいてくる声と足音が
少し怖いのは彼と繋がっていた頃と同じ。
一つ違うのはそこに胸が苦しくなる甘やかな余韻がないこと。
「頑張らなくていいから」と
様々な雑談のあとに笑って言った。
いつも通りの軽妙なジョークのやりとりのあと。
この子の明るさにどれだけいつも心を支えられていることか!
心だけじゃなくて美味しい食事も。それからみんなで行くドライブも。
2人きりの空間で
少し真面目になったあの子が見えた時
あろうことか私の右足は後退りして
「ああダメだ」と音を立てた。
柔らかく微笑みながら
「だって。彼じゃないでしょう」
油取り紙みたいに
水玉に透けた茶色の紙袋を差し出す
あの子の手は大きくて分厚くて
カステラみたいに柔らかい。
繊細で神経質な彼の手とそれを比べながら
それでもやっぱり
彼がいいと思った。
