【SB】ワイルド・ブラッド:第1章 11 愛のために選んだ星
▼前回▼
「小賢しい結界など、張りおって」
銀次が、赤羽家の前の電柱の上で、腕を組んで呟く。
実は、結界の力は消えかけていた。
そう。愛の結界は、皮肉なことに、永遠ではない。
「ふん」
銀次は颯爽と地に降り立つ。
と、薔薇型の銀の杭と本物の薔薇を、赤羽家目がけて舞わせた。
「喰らえ! シルバー・ステイク・ブラッディ・ローズ!」
家が激しく揺れた。
「きゃあ!」
美紅が慌てて、2階から降りてくる。部屋着のままだ。
「美紅!」
美桜がエプロン姿で、キッチンから出てくる。
「お母さん、きっとあいつよ!」
美紅が逡巡する。勇気を出して言った。
「私が囮になる! お母さんは逃げて!」
だが。
「美紅。お母さんは、この家を捨てたりしないわ!」
「何言って……」
もう一度激しく家が揺れる。
「もう!」
美紅が飛び出す。
「あははは、小僧! 私の血をお吸いなさい!」
裸眼にロングヘアの、挑発的な美紅のセリフに、しかし、銀次は顔一つ変えない。
「ふん。ヴァンパイアごときが」
反対に、美紅の顔は真っ青。
そう、強がっているのだ。
「行くぞ! シルバー・ステイク・ブラッディ……」
「き、きゃあああ!!」
美紅が腕で顔を庇い、目をつぶる。
「━━待てよ!」
割って入る影!
「……わ、若木くん?」
若木だった。
心なしか、少し前よりたくましくなり、
そして、目がとても真剣だ。
少しだけ、別人みたいに精悍に見えた。
「だ、だめだ、若木、……わ!」
牙が角を曲がると、我が家が見えてきた。
そこには━━……
「美紅さんは、俺が守る!」
若木は懐から、巻物を取り出した。
銀次の顔色が変わる。
「そ、そのスクロールは!」
手近な柱の上に飛び退いて、髪を揺らしながら、銀次は振り返る。
牙が懸命に走ってくる。
「……!」
銀次が息を呑む。
だが、若木は牙に気づかない。
叫ぼうとして、無様に転んだ。
己の軟弱さを呪った。
「ま、待て、わ……」
やめろ、若木!」
手を伸ばす。
声はまだ、届かない。
「僕の血が告げてる、
そのスクロールは、開いちゃ、だめだー‼︎‼︎」
「美紅さん、俺の命、美紅さんに捧げます!」
若木は、スクロールを開いた。
「我に、闇の力を……!」
「きゃ、何⁈」
若木がいたはずの場所に、<そいつ>が現れた。
血色のない肌。痩せた体。
鋭い爪と牙。
眼窩は深く落ち込み、瞳が濁っている。
猫背の背中……。
牙が拳で地面を激しく叩く。
「あ、あと少し。あと少し早ければ……!」
もっと早く回復していれば。
ベル番が届けば。
僕がもっと、強ければ……
キッチンの窓からそれを見、
美桜は呟いた。
「ごめんね、若木くん……」
▼次回▼
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