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【SB:第2部】ワイルド・ブラッド<第2章:ミッドナイト・ブラッド>1 聖地・サンクトゥス


▼前回▼


「お母さん、俺、強くなりたいんです!」
 若木は美桜に言った。
 美桜になら、すべてを話せる気がした。
 彼女は、優しくて、強い。
 それを、若木は感じ取っていた。
「今度こそ、美紅さん守れるように……!」
 銀次襲撃のショックで、美紅は2階うえで寝ている。
「……わかったわ。あの人のお墓の下の、地下迷宮。そこに……」

 ***

「はぁはぁはぁ」
 牙の膝がくず折れる。
「グググ」
 ハンターの聖地・サンクトゥス。
 そこは、聖なる者には祝福を。
 闇なる者に、呪いを与える。
「な、なんだ、この毒の様な空間は⁈
 歩くだけで、力が吸いとられる!」
 ついでに、トラップだらけ。
 矢が降ってきたり、壁が左右から狭まって迫ってきたり。
 鉄球が坂道を転がってきたり。
 そして、今一番最大級、死にそうな牙。
「グググ」
「ねーちゃん……いま、助けに行……」
 牙がついに倒れた。
 なぜか牙ほどダメージを受けないグールが近寄る。
 グールは愛用の緑リュックを後ろ前反対にし、牙を背負うと、高速ダッシュで駆け出した。

 赤羽家。
 グールが牙を背負ってやってきた。
 ご丁寧にチャイムを鳴らす。
「どちらさまー? まぁ、牙と《《若木くん》》」 
 エプロン姿の美桜が出てくる。

「グググ」
 牙の横たわるベッドの側に、グールがいる。
 階段を上がる音、続いて、ドアがノックされる。
「グググ!」
「は〜い!」
 美桜が入ってくる。
 お盆の上には、牛丼とトマトジュースが三人分。
 でも、この日はな、なんと! 牛丼に生卵が載っている。
「グググ!」
 グールが生卵を丼から啜る。
「まぁ。若木くん、生卵大好きなのね!」
 生肉を食らうグールは、生卵も大好き!(?)
「よかったわ! スーパーの夕方セールでゲットしたのよ!
 でもごめんなさいね、セールに行ってたから、あなたたちをお見送れなくて……どこに行ってたの?」
「グググ!」
「ぐぐぐ??
 大丈夫よ、あらかじめ言われてた通り、ご両親への外泊アリバイ工作電話はばっちり! なんでだか、喜美枝ちゃんに口裏あわせてもらってるけど?」
「グググー!」
「ほら、牙もいい加減起きて、食べなさい!」

 誰かが心配そうに自分を見つめている。
「わ。若木……?」
 あの、いつもクールに決めていた美少年。
 彼の目がいつもどおり、いや、いつも以上に温かい。
「若木、よかった! 僕、変な夢見てた……」
 牙の大きな黒瞳《こくどう》から涙が落ちる。
 駆け寄ろうとすると、
「ごめんな、赤羽」
 若木が言った。

「う、うーん……」
 目を覚ますと、そこに母親と、グールがいた。
「……」
 言葉を失う牙。
「ほら、牙、食べなさい!」
「グググ、ググ!」
 グールが無理やり口を開かせ、母親が無理やり、牛丼を口に入れてくる。
「や、やめ……!」
 牛丼嫌いの牙が必死で阻止せんとするのも、トマトジュースで無理やり流し込まれる。
「や、やめ……」
 お目グルグル、牙がまた気絶した。

 再び起きると、嘘の様に体が軽い。
「ほらね⭐︎ 豚肉は、疲労回復にいいんだから!」
「<牛丼>じゃん!」
 美桜の特殊能力なのか、母の愛か、濃厚な聖気にやられてた体が、嘘ように回復している。
 グールも生卵パワーで元気そうだ。
「ググググー!」
「あら、若木くん、元気ね!」

「……若木?」

 牙の声が珍しく低く響く。
「若木? やっぱり、若木なのか?」
「グググー」
 グールが振り向く。
「じゃあ。やっぱり……てか、かーちゃん、なんで知って? 
 どういうことだよ!」
「牙……」

 美桜は語った。
 美紅のために強くなりたいと言った若木に、<ウェアウルフ>の守る、スクロールの眠る地下迷宮を教えたこと。
 スクロールは、本来<流星雨の聖魔>牙が継承するはずだったこと。
 それ以外が開けば(美紅は例外)、グールに堕ちること。

「……は?」
 意味がわからない箇所があった。
 だが━━。
「それじゃ、若木は、僕の代わりに?」


▼次回▼


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