入院中に娘が家を出た
見送るはずの日に、僕は病室にいた
今日で入院82日目。
松葉杖で歩く距離も伸びてきて、
「退院」の文字も頭の中に浮かぶようになってきたがそれでも基本的に外の社会と関わることができない生活が、ずっと続いている。
正直かなりストレスが溜まる。
そんな中で今日、15歳の娘が地方の高校へ進学するために家を出た。
本来なら、ちゃんと見送りたかった。
つい最近あった卒業式も車椅子だったため行くことはできなかった、
そして僕は今日も病院にいる。
ついさっき、娘は妻と一緒に飛行機に乗って旅立っていった。
昨日、娘は一人で病院に来てくれた。
来る途中で拾ったという桜の花と、厄除けのお守りをお見舞いで持ってきてくれた。

ベッドの上にそれらを置きマイクロ花見をしながら
二人が大好きな三ツ矢サイダーと柿ピー(入院中なので減塩)をつまみに病室の中で、3時間くらい話し続けた。
昔話をした。他愛のない話をした。
まるで家の中での日常のように、テレビ画面の天気予報を横目に「明日は暑くなるね」荷物はもう既に宅配便で送ってしまったので何を着ようか?、とか言いながら何気ない会話をした。
たぶん、お互いに「特別な日」みたいにはしたくなかったんだと思う。
でも本当は、特別な時間だった。
娘は小さい頃からずっと僕に懐いていた。
よくふざけ合って、そのまま一緒の布団で寝ていた。
動画を見たり、楽器を弾いたり、影であそんだり、
大きくなってからも、一緒に出かけたり、買い物したり、化粧品や服を見に行ったりした。
そういうことを、ずっと当たり前みたいにしてきた。
親になると、「今がずっと続く」ような気がしてしまう。
でも本当は、そういう時間は少しずつ変わっていく。
たぶん昨日は、その境目みたいな日だった。
面会時間が終わって、別れ際に病院の玄関まで送り10秒ほどのハグをした。
「ラインくらい返せよ」がその時の精一杯の言葉だった
本当は、
「愛してるよ」
って言いたかった。
でも娘が溢れんばかりに涙ぐんでいて、我慢しているのがわかった。 。
その顔を見たら、こっちも素直な言葉が出なかった。
照れくさいのもあったし、ちゃんと伝えたい気持ちもあった。
だから病室に戻ってからLINEを送った。
「愛してるよって言い忘れた。愛してるよ」
普段から娘とは普通にLINEをしていたけれど、
昨日は初めて、今までには一度もなかったオーディオメッセージがすぐに届いた。
たった2秒だった。
「わたしも愛してるよ」
それだけだった。
でも、その2秒がすべてだった。
入院していると、外の世界の大事な出来事に、
自分だけうまく立ち会えないことがある。
そしてそれが今最大のストレスだ。
本当なら飛行場まで行き
ちゃんと見送りたかった。
父親として、もっとちゃんとしたかった。
でも昨日、病室の中で話した3時間も、
病院の玄関でのハグも、
このラインの中の録音された2秒も、
一生忘れないと思う。

まだまだ娘はこれから、自分の人生を歩いていく。
うれしいし、寂しいし、誇らしいし、
これからもできるだけそっとそばに寄り添ってゆこうと思う。
今日は目が覚めたと同時に勝手に涙が流れ出した
メンタルがかなりきつい。
でもそれだけ、自分にとって大きな日だったんだと思う。
大好きなこんな言葉がある。
“Life is not measured by the number of breaths we take, but by the moments that take our breath away.”
「人生は呼吸の数じゃない。
思わず息をのむような瞬間でできている。」
