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静削のルナ・ハートレイ 【第一景|サン・デ・ウルア 滞在2日目】

朝より引き込み水路の泥上げ。
この街は水路が奥深くまで入り込んでおり、交易船や小型の荷舟、漁船の往来が激しい。ゆえに、泥の堆積速度が想定を上回っているようだ。

腰まで水に浸かっての作業。
潮と泥の混ざり合った特有の粘り気が、執拗に足へまとわりつく。高気温と高湿度。身体機能の維持に支障はないが、分泌される汗と水路の水との境界が曖昧になっていく。
水夫たちは手慣れた様子で笑い合っている。現地の人間は、熱気と湿気への耐性が極めて高い。

作業の合間、水路脇の石壁に小さな白い花が咲いているのを視認した。
塩分の強い過酷な環境のはずだが、深く根を張っている。この街の住人に似た、泥臭い頑健さ。観測対象として記憶に留める。

泥の底より大型の甲殻類が出現。
挟まれれば重大な肉体的損傷を招く危険性がある。水夫が棒で追い払おうと試みていたが、著しく効率が悪い。
背後より龍槍(りゅうそう)を抜き、その柄で甲殻の隙間を的確に叩く。
鈍い衝撃音。標的は抵抗を断念し、静かに水底へと帰還した。

周囲の水夫たちが驚愕している。
「姉ちゃん、ずいぶん手慣れているな」
「山嶺(さんれい)にも、同質の存在がいた」
半分は事実。残りの半分は、かつての戦場での記憶だ。

本日の報酬は銅貨数枚、および余った鮮魚の不揃いな肉片。費用対効果は良好。悪くない。

夕刻、昨夜の露店へ再訪。
給仕の婦人は、一切の確認を省いて『タマル』を提供してきた。こちらの行動予測が完全に構築されている。
処理の迅速化は歓迎すべき事態だ。……常連と見なされるまでの時間が想定よりも早い。

懐(ふところ)の包みに触れ、本日得た鮮魚の肉片の重みを感じる。この不揃いな報酬を、明日の朝、宿の火床でいかに処理すべきか。現地特有の香辛料の匂いを思い出しながら、脳内で静かに次の計画を組み立て始める。

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