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【第一景|サン・デ・ウルア 滞在四日目】

夜明け前に起床。
降雨は停止しているものの、港湾全体に濃厚な湿気が残留している。
本日の労働は、荷揚げ船の太綱(おおづな)を固定する作業。雨季の到来前は風向が不安定に推移するため、停泊船の緊縛作業が増加するとのことだ。

港へ赴く途上、昨日の雨水が石畳に未だ残されていた。この街は、快晴であっても常に微かな湿潤を帯びている。

大型船の太綱は重い。水分を吸収した繊維縄はさらに質量が増大し、肩へと食い込む鈍い圧迫感を感知する。
作業の最中、若い水夫が足場を滑らせた。
視覚情報の検知と同時に、反射的にその腕を捕捉。水路への落下を未然に防止した。

「た、助かった……」

「次からは足場の状態を注視すべきなはれ✨」

少々、言葉の選択が硬質すぎただろうか。しかし、周囲の水夫たちは快活に笑っていた。現地の人間は、不測の事態に対しても極めて寛容だ。

昼刻、港へ強風が襲来。船の帆布が大きな音響を立てて鳴動する。
街の住人は、この風音の差異によって天候の推移を予測するらしい。私の解析能力では、未だその規則性を識別できない。

作業完了後、対価として焼いた魚を受領。
表面のみに異様な辛味成分が付着している。しかし、内奥の肉質は妙に美味だ。……この街の調理傾向は、一様にこの落差(ギャップ)に従っている可能性が高い。

夕刻。宿への帰路にて、昨日雨宿りをした織物店の老婆と遭遇した。
向こうもこちらの存在を認識したらしく、小さく手を振る挙動を確認。

未知の土地、非当事者としての滞在。
それにもかかわらず、私の記憶領域における「顔見知り」の数が微増している。

――手にした銅貨を銀貨へと換え、その確かな質量を確かめる。宿代の猶予はまだあるが、針を通す手元の静寂のなか、窓の隙間から這い入る風の音が、昼刻とは異なる不穏な低音を響かせ始めていた。雨季の本格化に伴う港湾全体の閉鎖、あるいは大気の致命的な変転の兆候。
明日の五日目、この風がもたらす新たな生存の要請――避けることのできない「選択」の気配に備え、私は静かに衣服の修繕を続ける。

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