『静削の巡礼路』第一景「潮風の石段 — サン・デ・ウルア」

潮風は、
少しだけ塩の匂いがした。
長く船に乗っていたせいか、
石畳を踏んでも、
まだ地面が揺れている気がする。
港には、
赤い果実と香木の煙。
焼いた唐辛子の匂いが、
風に混ざって流れていた。
石段の上では、
羽根飾りをつけた人たちが、
黙って火を見守っている。
ルナは立ち止まり、
その火を少しだけ見上げた。
「……消さないんだ」
返事をしたのは、
荷運びをしていた老人だった。
「海が荒れるからな」
短い言葉だった。
けれど、
それだけで十分だった。
火は祈りで、
祈りは生活なのだと、
なんとなく分かる。
市場の奥から、
笑い声が聞こえた。
銀の鈴。
鳥の羽根。
濡れた布。
遠くでは、
大きな階段神殿が夕陽を受けて赤く染まっている。
ルナは荷物を背負い直す。
石段は、
港から空へ続いていた。
「……高いな」
潮風が、
布の端を静かに揺らした。


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