見出し画像

【歯科医が解説】医療が“目的”ではなく“手段(売上)”に変わる理由―通院が長引く本当の原因と、患者が注意すべきポイント

はじめに

「医療は患者のためにある」
多くの人がそう信じています。もちろん、その理想は正しい。
しかし、現場を内側から見てきた立場として、あえて言います。

現実の医療は、時に“治すこと”が目的ではなく、“売上を生む手段”として
機能している場面があります。

それは違法でも、不正でもありません。
けれど、患者にとって最短・最小の医療からズレていく構造が、
すでに組み込まれているのも事実です。

この記事では医療不信を煽るのではなく、私自身が医療現場に身を置き、
経営と医療の両立に悩みながら働いてきた立場から、
「なぜそうなりやすいのか」
「患者は何に注意すべきか」
を冷静に整理します。

医療の世界にいると、患者側からは見えにくい“不自然さ”や“割り切れなさ”に触れることがあります。
私もそうした場面を、見たり感じたりしてきました。
なお、私は病(脊椎損傷)により、自分の意思とは別に、やむを得ず現場から距離を置くことになりました
だからこそ、当事者としての実感を、誰かを攻撃するためではなく、
患者が冷静に判断するための材料として共有します。


1. 医療が「経営」になった転換点―2000年以降の構造変化

医療がここまで「経営」になったのは、
おそらく人口減少が始まった2000年以降です。

それ以前は、地域に医療機関が少なく、患者数も増え続けていました。
「普通に医療をしていれば、経営を強く意識しなくても成り立つ」時代
だったと言っていいでしょう。

しかし、人口が減り、医療機関が増え、診療報酬が抑制される中で、
さらに人件費という大きな固定費を抱える構造が重なり、
「医療だけでは続かない」時代に変わりました。
スタッフを雇い、育て、生活を支えながら医院を維持するには、
毎月、一定以上の利益を出し続けることが前提になります。
ここから、医療は否応なく「経営」になったのです。

問題は、医療が悪くなったのではなく、環境が変わったのに、
制度設計が追いついていないこと

その歪みが、治療の選択、通院回数、検査や処置の増加という形で、
現場に現れています。


2. 医療も「経営」であるという現実

病院や歯科医院は、理想だけでは続きません。
人件費、家賃、機材リース、材料費、税金……毎月の固定費が確実に発生
します。

つまり、

  • 患者が少ない月でも

  • 売上が伸びない月でも

一定以上の利益が出なければ、経営は破綻します。

この構造の中で現場に生まれるのが、次の“圧力”です。

「1回で終わる医療」より、「分割できる医療」
「様子見で済むケース」より、「処置が発生するケース」

これは「悪意」ではありません。
“潰れないため”の選択が、医療の形を少しずつ変えていくのです。


3. 「なぜこの治療をしているのか分からない」瞬間

私自身、非常勤で勤務した現場で、こう感じたことがありました。

「この治療、医学的に必須だろうか。なぜ今、これをやっているのだろう?」

ある患者さんからは、こう聞かれました。
「これ、いつ終わりますか?」

正直に言えば、治療を長引かせている側面があると感じるケースが、
確かにありました。
違法でも、不正でもない。
けれど、“患者にとって最短の医療”かと問われれば、答えは曖昧――。
これが、医療が“目的”ではなく“手段(売上)”に寄っているサインです。


4. 「できるのに、やらない」制度の例(リフィル処方)

症状が安定している慢性疾患などでは、処方箋1枚で複数回使える
「リフィル処方」という制度があります。
本来は、通院回数を減らし、患者の時間・費用・負担を軽くするための
仕組みです。

それでも、現場でこれを積極的に使う医師は多くありません。
理由は単純です。

再診が減る=売上が減る

患者の負担を減らす制度ほど、経営には不利という“逆インセンティブ”が
働く。
結果として、使えるのに使われない
ここにも、医療が“目的”ではなく“手段(売上)”に変わっているサイン
あります。


5. これは「悪徳」ではなく「構造の歪み」

大切なことをはっきり言います。
多くの医師・歯科医師は、患者をだましたいわけではありません。

しかし、

  • 固定費が重い(特に人件費)

  • 診療報酬は厳しい

  • 患者数は不安定

なかでも最大の問題は人件費です。
今の医療現場では、人を採用するだけで多額のコストがかかり、
さらに給与水準を上げなければ人が集まらない

しかも一度雇えば、売上が落ちても給与・社会保険・賞与・教育コストは
止まりません。
人を守るためには、毎月必ず一定以上の利益を出し続ける必要がある――これが、現代の医療経営の前提です。

この条件下では、「患者のために効率化するほど、経営が苦しくなる」構造が生まれます。
だから、違法ではない範囲で、

  • 分割できる治療を選ぶ

  • 「念のため」「将来のため」という言葉で処置を増やす
    といった選択が“合理的”になってしまう。

問題は個人の善悪ではなく、制度と経営の設計です。


6. 患者が“自分を守る”ためのチェックポイント

医療不信に陥る必要はありません。
ただし、次の点は冷静に確認してください。

① 「なぜ今、これが必要なのか」を聞く

  • 目的:何を防ぐ/何を改善するのか

  • 代替:様子見や他の選択肢はないのか

  • 期間:いつ終わる見込みか
    説明が曖昧なまま「続けましょう」だけが繰り返される場合は要注意。

② 「やらなくても致命的ではない」処置が増えていないか

  • 生活に大きな支障がないのに、処置が細分化されていないか

  • 「念のため」「将来のため」だけが根拠になっていないか

③ 「通院回数」が目的化していないか

  • 毎回、内容が薄いのに来院を求められていないか

  • まとめてできる内容を、分割されていないか

④ セカンドオピニオンを“普通の行為”として使う

  • 医師の意見がすべてではありません

  • 「他の見方はありますか?」と聞くことは、失礼ではありません

⑤ 記録を残す

  • 説明内容、治療目的、期間の目安をメモ

  • 次回以降の説明と整合しているかを確認


7. それでも、信頼できる医療の見分け方

次の姿勢がある医療機関は、信頼に値します。

  • 「やらない選択肢」を明確に示す

  • 治療の“ゴール(終了条件)”を最初に共有する

  • 通院回数を減らす工夫を提案する

  • 質問に対し、専門用語を噛み砕いて説明する

“最短で終わらせる設計”を考えてくれるかが、ひとつの指標です。


おわりに

この記事は、医療を否定するためのものではありません。
むしろ、「良い医療が正当に評価されるために、患者が賢くなる」
ためのものです。

医療が“目的”ではなく“手段(売上)”に変わっているサインは、
残念ながら、いくつも存在します。
だからこそ、患者は説明を求め、選択肢を知り、自分の医療を自分で守る
必要があります。

不安を煽るのではなく、判断力を持つ
それが、これからの医療と付き合う最も現実的な姿勢です。

いいなと思ったら応援しよう!

Shinichi Takeuchi 応援ありがとうございます! 励みになります