【創作大賞2025応募作・ミステリー小説】サウザンド・ティアーズ⑯~うまくいってるなんて思えた事は一度もない。ただ、涙を流さずに生きるだけで精一杯だ。
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それから6日は、あっという間に過ぎた。
さっき、黒崎からショートメールをもらわなければ、メロウとのトラブルの事なんて、まるきり忘れてた。
それぐらい、慶次朗は忙しかった。
色々の手続きのため、区役所と意人の学校を行ったり来たりしたし、恵美の貯金通帳の件で、銀行や郵便局へも行き、生命保険の件で、オンラインで話したりした。
そのように忙しくしてる合間に、慶次朗は引っ越した部屋を片付け、ホストの頃に買った服や、贔屓の客からもらった高額なブランド品やアクセサリーを処分しようと、段ボール箱に整理した。
それから、慶次朗は自動車学校への入学の手続きもした。
慶次朗はバイクは運転できるが、自動車運転免許を持っていなかった。
これから山野辺運送でずっと働くのであれば、自動車免許は必要だし、今後大型の免許も取らないといけないので、普通免許は出来るだけ早く取得しなければならない。
慶次朗は、会社から一番近い自動車学校への入学を決めた。
意人と恵美姉が住んでいた部屋は、そのままにしていたが、きちんと毎日掃除した。
慶次朗と意人の洗濯は、毎朝慶次朗がやった。
夏休み中の意人は、学校のプール教室へ行ったり、児童館で遊んだり、彼なりに忙しかった。
意人が家にいる時、彼は基本的に食堂で過ごした。
テレビを見たり、ゲームをやったり、山野辺のタブレットで動画を見たりしていた。
食堂は涼しく、基本的に竹内がおり、他にも帰ってきたドライバーたちが、食事をしたり、お茶を飲んだりして寛ぐため、意人は絶えず誰かと接しており、寂しくはないようだった。
恵美姉を殺した犯人は見つかっていなかった。
と言うより、皆目見当もついていないのではと、慶次朗は思っていた。
告別式の翌日に、慶次朗は山野辺と一緒に城田を訪ねた。
城田からこれまでの状況を聞くためだった。
警察はこの事件を「通り魔事件」と、断定している事が分かった。
理由としては、
1. 一回しか刺されていない。
2. 犯人は刺した後、何も確認したりせずに、その場から立ち去っている。
3. その後、犯人の逃走経路は分かっていない。
という点が上げられた。
周囲の防犯カメラからは黒いポンチョを着た人間が恵美の背後にいた事は分かっているようだ。
犯行後の動きを防犯カメラで追跡しようとすると、途中で途切れてしまったらしい。
雨のせいだ。
その時間、銀座周辺では恐ろしいほどの雨が降っていたので、防犯カメラの画像も不明瞭にならざるを得ず、犯人はどこかで着替えたのかもしれないが、途中で見失ってしまったらしい。
警察は、この事件を「若干の計画性は感じられるものの、サイコキラーによる偶発的な暴力沙汰だ」と結論付け、捜査を続けているという説明だった。
それには、やや決めつけすぎなんじゃないかと、慶次朗は思い、そう城田に言ってみたが、城田は「長年のデータベースから得られた方向性」だと、言いきり、そう言われると、慶次朗は黙るしかなかった。
その後、警察から何も報告がないし、世間的には、恵美姉の事件は「光の速さ」で忘れ去られている気がした。
それなら、俺が犯人を捕まえてやる!
一日に何度か、慶次朗はそんな事をふと思った。
思った瞬間は、アドレナリンが出てきて体が熱くなるのを感じた。
しかし、すぐに目の前にある沢山のやるべき事を思い出し、そんな事をやってる場合じゃないと頭が打ち消した。
大体、慶次朗にはスキルがない事は、自分でも分かっていた。
リンちゃんは、相変わらず行方不明だった。
警察は真面目に探しているのかと訝ったが、慶次朗自身、リンちゃんとは会った事もなく、何も情報を持っていないため、彼女を捜す事については、警察に任せるしかないと思っていた。
ただ、赤いハートのビニール傘は、やっぱり引っ掛かっていた。
恵美姉は傘のせいで、リンちゃんと間違われて殺された。
どうしても、その考えを捨てられなかった。
しかし、当のリンちゃんの行方が分からない現状では、それを実証する手はなかった。
これも一日に何度か、慶次朗は「俺が捜し出してやる」と思ったが、すぐに諦めた。
しかし、慶次朗は、「恵美姉の件は、リンちゃんを見つけると解決できる」と、思っているのは間違いなかった。
今日も昼間は忙しかった。
夜の7時にようやく、家に帰ってきた。
食堂で晩飯を食い、意人と一緒に風呂に入った。
風呂から上がると、慶次朗は意人を山野辺に託した。
慶次朗はこれから出かけないといけないからだ。
意人はパジャマ姿で慶次朗にハグをして、「絶対に帰ってきてね」と言った。
慶次朗は「絶対だ」と言い、意人の身体を離し、外へ出た。
慶次朗は通りまではバイクを押していった。
今夜は熱帯夜だ。
折角風呂に入ったのに、ちょっとバイクを押しただけで、慶次朗は汗だくになった。
バイクを表通りまで運べた。
慶次朗はバイクに跨り、歌舞伎町へと走り出した。
