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「うちもAIを」と言う前に

「うちもAIを入れよう」——いま、多くの経営者が同じ号令をかけています。ツールを選び、試しに使わせ、現場に配る。ところが半年後、少なくない会社が、同じ場所に立ち尽くしています。「入れてはみた。しかし、成果が数字に出ない」。

この既視感には、はっきりした裏付けがあります。

導入は8割、成果は6%——広がっているのは"使用"であって"成果"ではない

マッキンゼーが世界2,000人規模で行った調査(State of AI)では、AIを何らかの業務で使っている企業は88%に達しました。ところが、利益(EBIT)に企業全体として効いていると答えたのは39%。5%以上のEBITに寄与している"高成績企業"は、わずか6%です。残りの多くは、実験と試作の段階から先へ進めない——調査はこれを「PoC地獄(pilot purgatory)」と呼びます。マサチューセッツ工科大学の研究チームに至っては、調べた生成AIのPoCの約95%が、損益に測定可能なリターンを生んでいなかったと報告しました。

導入の号令は、いたるところで鳴っている。ただ、それが数字に化けている会社は、ひと握りしかない。

問題は「AI」ではない。「入れ方」である

ここで多くの人が、原因をAIの側に探します。モデルが弱いのではないか、もっと高性能なツールなら、と。しかし、調査が示す原因は逆です。マッキンゼーは「これは技術の問題ではなく、導入と組織運営の問題だ」と明言します。MITの研究も、失敗の主因は「モデルの弱さではなく、組織が学習していないこと」だと指摘しました。

この構造を、最も明快に整理したのがボストン コンサルティング グループです。同社の「10-20-70の法則」によれば、AIの成否を分ける要素は、アルゴリズムが10%、技術基盤が20%、そして残る70%が、人と業務プロセスの側にある。同社は踏み込んで、こう言い切ります——「選ぶモデルは、ほぼ関係ない」と。

「うちもAIを」というツール先行の号令は、この配分を、そっくり逆さまにしています。労力と予算の大半を10%の部分(どのツールを買うか)に注ぎ、成果の7割を決める部分(誰が、どの業務の流れの中で、どう使うか)を、手つかずのまま残してしまう。

弊社が相談を受ける案件でも、いちばん多いのは「まずツールを入れた、しかし成果が出ない」という悩みです。そして成否を分けたのは、モデルの選定ではなく、業務の流れそのものを組み替えられたかどうかでした。先のBCGの10-20-70という配分は、弊社が現場で得てきた実感と、正確に一致します。

補強するデータもあります。PwCの調査では、売上5億ドル以上の日本の大手企業ですら、生成AIを導入した企業のうち「期待を大きく上回った」と答えたのは、約1割にとどまりました。潤沢な資金と人材を持つ大企業でも、である。

日本の中小企業に、特有の落とし穴がある

総務省の情報通信白書によれば、生成AIの活用方針を定めた企業は、大企業で約56%に対し、中小企業では約34%。情報処理推進機構(IPA)の調査では、従業員100人以下の企業の約8割が「関心はあるが、まだ特に予定はない」「今後も取り組む予定はない」と答えています。

この"方針がない"状態は、一見すると中立に見えて、実は最も中途半端です。方針が定まらないうちに現場が個々の判断で使い始めれば、情報の扱いは事実上の無法地帯になる。逆に「会社として決まっていないから使わない」という自粛が広がれば、可能性はただ放置される。決めないこと自体が、静かにコストを生んでいます。

では、どうするか

裏返せば、順番が違うのです。始めるべきは「AI」ではなく、「うちのどこに、AIを効かせるか」という一点から。どの意思決定が滞り、どの業務の流れが詰まっているのか——その"急所"を先に定め、そこに合わせてツールを選び、業務そのものを組み替える。ツールの導入ではなく、業務の再設計。それが、6%と94%を分けています。

ただし、急所は会社ごとに違います。だから「うちもAIを」と言う前に、「うちのどこにAIを」を決める。この一手間こそが、いちばん地味で、いちばん効きます。

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