93歳、5月、やっと義父が動き出した日
長い冬のあと、ついにその時が来た。
雪かき以外することもなく、家にこもる日々。
あれだけ動いていた義父でさえ、すっかり“冬仕様”になっていた。
「何かやる気にならんなぁ。
もうこれは死ぬいうことかな」
93歳のその言葉は、冗談とも本音ともつかず、少しだけ胸に引っかかった。
4月になっても、相変わらずテレビと本の毎日。
春は来ているのに、義父の中だけがまだ冬のままだった。
――ところが、である。
雨が続き、やっと晴れの日がやってきたある日。
ついに義父が立ち上がった。
畑に出て、土を耕し始めたのである。
その時間、なんと2時間。
家の中では義母が山菜の煮物に挑戦。
8代目の嫁である私は、義父に負けじと、花畑でマリーゴールド植え。
それぞれが、それぞれの春をやっと始めていた。
畑から戻った義父は、コーヒーを飲みながら言った
「やっとやる気が出てきた」
その顔は、久々になんともいい顔だった。
ああ、義父にもちゃんと春が来たんだな、と思った。
さて、今年は何を作るのだろう。
じゃがいも、キャベツ、白菜……
ここ最近の課題は、黒豆。
この2年、どうにも出来が悪い。
理由は――たぶん、わかっている。
植えっぱなし。
手をかけない。
それでうまくいくほど、
畑は甘くない。
「ある程度大きくなったら、
剪定した方がいいよ」
と、つい口を出す嫁。
……とはいえ。
手伝うかどうかは、
また別の話である。
畑はまだ、嫁の管轄外。
口は出すが、手は出さない。
これもまた、
長年かけて身につけた
“嫁の知恵”というやつだ。
義父は、天気予報と睨めっこしながら、明日の畑仕事の計画を立てる。
――今年の黒豆は、どうなることやら。
たぶん、
来年も同じ会話をしている気がする。
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