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社会における存在意義 “アイデンティティ” #133

企業にとって、社会における存在意義は何かです。

この問いに明確な答えを持てなければ、どれほど優れた製品やサービスを提供していても、やがて顧客から選ばれなくなり、淘汰されていく可能性があります。

心理学や社会学には、「アイデンティティ(Identity)」という概念があります。

一般的には、「自分は何者なのか」、「自分らしさとは何なのか」という自己認識を指す言葉です。

ただし、アイデンティティを「他人との差別化」とだけ捉えるのは、少し違うのではないでしょうか。

そもそも、人は一人ひとり異なる存在です。
だからこそ、「他人と違うこと」を無理に探すのではなく、自分自身を見つめ直し、
「自分は何者なのか」
「自分には何ができるのか」
「自分らしさを、社会のためにどう活かせるのか」
を考えることが重要なのだと思います。

つまり、アイデンティティとは、単なる「違い」ではありません。
自分らしさを認識し、それを活かすことで、社会に価値を提供していくための土台なのです。

そして、この考え方は企業の存在意義にも当てはまります。

■ 自社独自の価値の必要性

企業が社会の中で存在意義を示すためには、他社と差別化できる「自社ならではの強み」が欠かせません。

そこで重要になるのが、コアコンピタンス(Core Competence)です。
コアコンピタンスとは、企業が持つ、他社には容易に模倣できない中核的な能力や強みのことです。

企業が、似たような理念を掲げ、似たような製品やサービスを提供しているだけでは、競争の中で選ばれ続けることは容易ではありません。

市場には、需要と供給のバランスがあります。

どれほど多くの企業が「良いもの」を提供していても、顧客から選ばれる企業には限りがあります。

だからこそ、「自社だからこそ提供できる価値は何なのか」を明確にする必要があります。
さらに、その強みが簡単に他社に模倣されてしまうのであれば、長期的な競争優位にはつながりません。

コアコンピタンスを考えるうえでは、「自社独自の価値であり、容易には真似できないこと」が重要になります。

企業にとって、コアコンピタンスを持っているかどうかは、将来の競争力を左右する重要な要素です。

特に、スタートアップやベンチャー企業にとっては重要です。
そもそも、
「なぜ、この会社をつくるのか」
「なぜ、自分たちがこの事業をやるのか」
という問いに対する答えが、起業の出発点になっているはずだからです。

言い換えれば、コアコンピタンスとは「事業を始めた後に探すもの」ものではありません。
根源とも言える「自分たちは何者なのか」を考えるところから生まれるものなのだと考えます。

■企業にも「アイデンティティ」がある

人に「アイデンティティ」があるように、企業にも「コーポレート・アイデンティティ(CI:Corporate Identity)」という考え方があります。

アイデンティティが「自分は何者なのか」「自分らしさ」だとすれば、企業にとっての「自分らしさ」は、まさに自社独自の強みであるコアコンピタンスと深く結びついています。

その意味で、コーポレート・アイデンティティとは、
「自社は何者なのか」を明確にし、その価値を社内外に一貫して伝えていく取り組み
と捉えることができます。

一般的には、CIを次の3つの側面から考えることがあります。

1.マインド・アイデンティティ(MI)
企業として「何を目指し、何を大切にするのか」を言語化するものです。
企業の理念やミッション、ビジョン、スローガンなどが該当します。
つまり、「私たちは何者なのか」を言葉にする部分です。

2.ビジュアル・アイデンティティ(VI)
MIによって言語化された企業の価値観や姿勢を、視覚的に表現するものです。
ロゴ、コーポレートカラー、デザインなどが代表的な要素です。
つまり、「私たちは何者なのか」を、見た目で伝えるための仕組みです。

3.ビヘイビア・アイデンティティ(BI)
企業としての価値観を、社員一人ひとりの行動に落とし込んだものです。
行動指針、社風、マネジメント、組織文化などが、その要素となります。
つまり、「私たちは何者なのか」を、日々の行動で示すということです。

この3つがバラバラでは、企業としての「らしさ」は伝わりません。
MIで語り、VIで見せ、BIで行動する。
そして、その根底にコアコンピタンスがある。

この一貫性が、企業としての独自性を生み、やがてブランドイメージの形成につながっていくのだと思います。

■ 「強み」と「顧客価値」は同じではない

ただし、ここで一つ注意したいことがあります。
企業が持つコアコンピタンスは、そのまま顧客が望む価値になるとは限りません。

自社にとっては、
「これはすごい技術だ」
「長年培ってきたノウハウがある」
「他社には簡単に真似できない」
と思っていても、顧客から見れば「だから何なのか」が分からないことがあります。

重要なのは、コアコンピタンスそのものを売り込むことではありません。
コアコンピタンスを活かして、顧客や社会が本当に望んでいる価値へ変換すること。
ここに、企業としての大きな役割があります。

自社独自の強みを、顧客にとって意味のある価値として提案する。
この考え方は、USP(Unique Selling Proposition)やバリュープロポジションといった概念にもつながっていきます。

■ 自社のコアコンピタンスを考える

企業経営の現場では、「うちには、他社に誇れるコアコンピタンスがない」という声を聞くことがあります。

しかし、それは不可思議です。
企業は、コアコンピタンスがあるからこそ存在するとも言えるからです。

「ない」と決めつける前に、そもそもの根源である「自社の存在意義」を今一度、振り返ってみることが大切だと思います。

なぜなら、自分たちにとっては「当たり前」であることが、顧客や社会から見ると、高い価値を持っている場合があるからです。

長年の経験、独自の技術、社員が身につけている技能、顧客との関係性、業務の進め方、組織として蓄積してきた知識、地域とのつながり―――

こうしたものの中に、まだ言語化されていない「自社ならではの強み」が眠っているかもしれません。

■「自分は何者なのか」を問い続ける

結局のところ、企業の存在意義を考えることは、
「自分たちは何者なのか」
を問い続けることなのではないかと考えます。

人間が自分自身のアイデンティティを追求するように、企業もまた、自社のアイデンティティを追求する必要があります。
そして、その答えは、単なる「他社との違い」ではありません。

その象徴が経営理念です。
ミッションとは、私たちは、「なぜ社会に存在するのか」を示すものです。
また、最近、多く取り上げられるようになってきたパーパスならば、私たちが、「社会に対して何をもたらすのか」が問われるます。
ミッションは、自社を起点にした捉え方であり、パーパスは、社会の側からの問いとなります。
視点の向きは異なりますが、どちらも、私たちが何者か迷った際には、立ち返りたい原点でもあります。

自分たちにしか持てない強みを見つけ、それを顧客や社会にとって意味のある価値へ変えていくこと。
そこに、企業の「存在意義」が生まれるのだと思います。

自分たちにとっては当たり前すぎて、価値だと気づいていないもの。
実は、それこそが「自分たちらしさ」の種なのかもしれません。

企業の未来を考えるとき、まず問い直すべきなのは、
「私たちは、何者なのか。」
そして、
「私たちだからこそ、社会に何を提供できるのか。」
なのだと思います。

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