シニア人材の労働力を活かす #174
企業が事業活動を継続発展させる上での経営資源は、ヒト、モノ、カネ、情報、知識などと言われます。
しかしながら、日本の労働力人口は、少子高齢化が進むことから、今後も大幅な減少傾向にあると見込まれています。
パーソル総合研究所の労働市場の未来推計 2030においても、2030年には雇用に対して人材が約644万人不足すると予測されています。
企業にとって、人材の確保は重要な経営課題です。そのため、「人手不足を補うためにシニア人材を活用する」という考え方があります。
しかし、私はそれだけではないと考えています。
経験豊富なシニア人材は、単なる労働力ではありません。
長年の仕事を通じて培われた知識や技能、判断力、人との関係性、そして成功や失敗から得た経験。
これらは、企業にとって貴重な経営資源です。

■経験には、大きな価値がある
仕事には、教科書やマニュアルだけでは身につけることのできないものがあります。
顧客との関係づくり、トラブルへの対応、組織の動かし方、リスクを察知する判断力など、長年の経験によって培われるものは少なくありません。
こうした経験は、一朝一夕に身につくものではありません。
だからこそ、経験豊富なシニア人材には大きな価値があります。
一方で、経験が豊富であれば、それだけで十分というわけでもありません。
環境は変わり続けるからです。
技術、市場、顧客の価値観、働き方など、企業を取り巻く環境は常に変化しています。
過去の経験だけに頼っていては、その価値を維持することはできません。
だからこそ、重要になるのが「経験と学びの循環」です。
経験を活かして新しいことを学ぶ。
学んだことを新しい仕事に活かす。
そして、新たな経験からさらに学ぶ。
この循環によって、経験の価値は更新されていきます。
「経験があるから、もう学ばなくていい」のではありません。
むしろ、これまでの経験があるからこそ、新しい知識や技術を自分のものとして吸収し、活かすことができるのではないでしょうか。
経験を過去の財産として終わらせず、未来の価値へと変えていく。
そこにシニア人材の大きな可能性があります。
■シニア人材の役割を変える
これまでの日本企業では、60歳を一つの区切りとして、定年退職や再雇用という仕組みが一般的でした。
しかし、60歳を職業人生の終点として考える必要はありません。
もちろん、年齢を重ねれば健康面への配慮は必要です。
だからこそ、働き続けることを一律に求めるのではなく、それまで培ってきた経験を活かせる役割へ転換していくことが重要です。
例えば、若手社員の育成、技能や技術の継承、顧客との関係の引き継ぎ、新規事業への助言などです。
第一線で培った経験を、次の世代につないでいく。
これは、シニア人材にしかできない重要な役割の一つだと思います。
企業にとって、ベテラン社員の退職は、一人の労働力を失うだけではありません。
その人が長年かけて蓄積した知識、技能、判断力、人脈まで失う可能性があります。
だからこそ、経験を個人の中だけに留めず、次の世代へ移していく仕組みが必要です。
シニア人材が働きながら後継者を育てる。
経験を伝えながら、自らも新しいことを学ぶ。
その結果、個人の経験が企業の知的資産として蓄積されていく。
シニア人材の活用とは、こうした「経験の継承」まで含めて考えるべきものだと思います。
■シニア人材にとっての「働く意味」
そして、もう一つ忘れてはいけないことがあります。
シニア人材自身にとって、仕事とは何なのかということです。
仕事は、収入を得るためだけのものではありません。
誰かから必要とされること。
自分の経験や能力を社会のために役立てること。
次の世代を育てること。
そして、自分自身が新しいことを学び続けること。
こうしたことも、働くことの価値ではないでしょうか。
長い人生の中で培ってきた経験を社会に還元しながら、新しい知識を得て、自分自身も成長していく。
それは、シニア世代にとっての「サクセスフル・エイジング」を考える上でも、一つの重要な要素になると思います。

■経験を企業の資産にする
シニア人材の活用を、人手不足対策だけで考えてはならないと考えます。
人が足りないから働いてもらうのではなく、豊富な経験を持つ人材だからこそ、その価値を経営に活かしてもらうことが大切です。
そして、経験を活かして学び、学びを次の経験に活かす。
その循環によって、経験の価値を更新していく。
さらに、その経験を次の世代へ資産としてつないでいくことが継続的な成長には欠かせません。
これからのシニア人材向けの人事にも、HRM(Human Resource Management)の視点が重要だと考えています。
シニア人材は、過去の経験を持っているだけの人材ではありません。
経験を未来の価値へと変えていくことのできる人材です。
企業の持続的な発展と、シニア一人ひとりの人生の充実。
その両方を実現することが、これからのシニア人材活用に求められているのだと思います。
