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プライシングをカスタマーバリューから考える #175

高度経済成長期の日本は、まだまだモノ不足の時代であったことを背景に「作れば売れる時代」でした。
その後、市場が成熟すると、「良いモノを作れば売れる」という時代へと移っていきます。
品質を高める。性能を高める。技術を高める。
企業は「より良い商品」を作ることで競争してきました。

しかし、現在は、市場には、すでに多くの製品やサービスが存在しています。
技術も進化し、品質も向上し、競合製品との機能差も小さくなっています。
さらに、先行きが予測しにくく、不確実性の高い時代になりました。
このような環境では、単純に「良い製品を作る」だけでは、顧客から選ばれるとは限りません。
むしろ、良い製品なのに、なぜか売れないという現象にすら陥ります。

■ 価値は、放っておけば目減りする

新しい価値を生み出すことは、決して容易ではありません。
しかし、さらに難しいのは、すでに存在している価値を維持することです。
市場環境が変われば、昨日まで価値があったものが、今日は当たり前となる。
競合が追いつけば、差別化要素ではなくなる。
顧客の価値観が変われば、必要とされなくなる。
つまり、価値は「一度、創れば終わり」ではありません。
現状維持のままでは、徐々に目減りし、やがてその価値自体が消えてしまう可能性すらあります。
だからこそ、企業には、「いま、顧客は何に価値を感じているのか」を継続的に考える必要があります。
ここにマーケティングの役割があります。

マーケティングですが、社内では、「自然と売れる仕組みづくり」と定義しています。

理想は、売り込まなくても選ばれる状態です。
そのためには、単に製品の良さを伝えるだけでは不十分です。
重要なのは、「顧客に自社独自の価値を認知してもらい、その価値を“望んでいただく”こと」です。

自社の製品には、どのような価値があるのか―
競合製品と何が違うのか―
その価値を、誰が必要としているのか―
そして、その価値に対して顧客はいくらまで支払いたいと思うのか―

こうしたことを多角的に分析し、顧客が納得できる形で戦略的に提案する。
これこそが、マーケティングの本質だと考えています。

■ マーケティング・ミックス(4P)とは何か

マーケティングを具体的な戦略に落とし込む代表的なフレームワークが、マーケティング・ミックスです。

各戦略の頭文字を取って「4P」と呼ばれます。
1.製品戦略(Product)
機能、デザイン、品質、種類、特徴、ブランド、サイズ、重量、パッケージなど。

2.価格戦略(Price)
販売価格、割引・セール価格、支払い条件、取引条件、還元条件など

3.流通戦略(Place)
販路、在庫管理、発送体制、代理店制度、立地、店舗形態など

4.プロモーション戦略(Promotion)
販売促進、広報、広告、SNSなど

重要なのは、これら4つが独立して存在するものではなく、すべてが連動していることです。
例えば、高級ブランドを標榜しているのに、価格だけを大幅に下げれば違和感が生じます。
高価格の商品なのに、ディスカウント店ばかりで販売していれば、ブランド価値を毀損する可能性があります。
逆に、製品、価格、流通、プロモーションが一貫していれば、「この製品は、こういう価値を持っている」というメッセージが顧客に伝わります。
つまり、4Pの整合性が、「自然と売れる仕組み」をつくるということです。

■ プライシングとは、単なる「値付け」ではない

ここで、4Pの一つである「価格戦略(Price)」を考えてみます。

企業が価格を設定するとき、一般的には、「いくらなら利益が出るのか」という視点が入ります。
ビジネスである以上、価格が低すぎれば、利益を生み出すことができませんので当然です。

一方で、価格が高すぎれば、顧客から選ばれなくなります。

つまり、価格には、
下限=これ以上低いと利益を確保できない価格
上限=これ以上高いと顧客が価値を感じにくくなる価格
があります。

その間の「設定可能価格」のどこに価格を設定するのかが価格戦略であり、プライシングです。

私は、「製品やサービスが持つ付加価値を価格として表現し、狙った利益へ転換するプロセス」と考えています。
プライシングは、戦略である以上、決して、「値付け」、単に「値段を決めること」ではありません。

■ 代表的な4つの価格設定

価格の決め方には、いくつかの代表的な方法があります。

① コストプラス価格設定
原価に一定の利益を上乗せして価格を決める方法です。
分かりやすく、売れれば一定の利益を確保しやすいというメリットがあります。
一方で、「その価格を市場・顧客が受け入れるか」は別問題です。
企業側の都合から価格を決めるため、プロダクトアウト的になりやすいという側面もあります。
独占的な製品や受注生産品などでは、有効な方法かといえます。

② 需要価格設定(価値基準価格)
こちらは、顧客が支払ってくれるだろうと想定して価格を決める方法です。
企業側のコストだけではなく、顧客が感じる価値を基準にします。
理想的な考え方である一方、顧客価値を正確に把握することは簡単ではありません。

③ 競争志向型価格設定
競合他社の価格を基準に価格を決める方法です。
競争の激しい市場では、よく見られる方法です。
ただし、競合に合わせ続けると、価格競争、利益率の低下、自社独自の価値の希薄化などにつながる可能性があります。

④ 心理的価格設定
人は、必ずしも合理的に価格を判断するわけではありません。
例えば、
・ 1,980円のような端数価格
・ 松竹梅の三段階価格
・ 「本日限り」、「限定品」
・ 高価格そのものを価値として認識させる名声価格
・ 均一価格
などがあります。
つまり、価格は単なる数字ではなく、顧客心理に対するメッセージでもあります。

■ 価格を決める前に、顧客価値を考える

テクニカルバリューとは、性能、品質、技術力、耐久性など、製品やサービスそのものが持つ客観的な価値です。
一方、カスタマーバリューとは、顧客が実際に感じる価値です。

ポイントは、テクニカルバリューとカスタマーバリューは同じではありません。

どれだけ技術的に優れていても、顧客がその価値を理解し、欲しいと思わなければ、カスタマーバリューにはなりません。
逆に、突出した技術がなくても、「これが欲しかった」「この価格なら買いたい」と思わせる商品はあります。

だからこそ、価格を決める際に重要なのは「いくらで売るか」ではなく、「顧客は、その製品にどれだけの価値を感じるのか」です。
例えば、1万円の商品でも、顧客が2万円の価値を感じれば安く感じます。
逆に、5,000円でも3,000円程度の価値しか感じなければ高く感じます。
価格は絶対額だけではなく、顧客が感じる価値との相対関係で決まるのです。

もちろん、価格を下げることで短期的に売上を増やせる場合もあります。
しかし、安売りを続ければ「この商品は安いもの」という認識が形成され、ブランド価値まで低下する可能性があります。

一方で、高品質、安心、利便性、デザイン、ブランド、購入後の体験など、顧客が感じる価値を高めることができれば、「高いけれど、この価格でも買いたい」という状態をつくることができます。
つまり、単純に値上げするのではなく、カスタマーバリューを高めた結果として、価格を上げられるブランドをつくることが重要なのです。

■ 価格は「数字」ではなく「メッセージ」

実際に価格を考えるときのポイントです。
私は、大きく3つの視点が重要だと考えています。

① ポジショニング
まず、自社が市場のどこに立つのかです。
競争地位であれば、リーダー/チャレンジャー/フォロワー/ニッチャーなどがあります。
価格帯であれば、高級/一般/廉価という考え方があります。
重要なのは、「自社は、どこで戦うのか」を明確にすることです。

② カスタマーバリュー
次に、顧客が何を重要だと感じ、それに対して、自社はどんな価値を提供できるのかです。
ここが、自社独自の価値となり、USPやバリュープロポジションとも深く関係する部分です。

③ テクニカルバリュー
最後に、性能、品質、技術、機能などの製品・サービスそのものの客観的な価値です。
ただし、ここでも忘れてはいけないのが、テクニカルバリューとカスタマーバリューは違うということです。
技術的に優れていることは重要ですが、その技術が顧客にとって「欲しい価値」になっているとは限りません。

私は、価格にはもう一つ重要な役割があると考えています。
それは、価格そのものが、顧客へのメッセージになるということです。

安い価格には、「手軽に買ってほしい」、「多くの人に使ってほしい」というメッセージが含まれるかもしれません。
高い価格には、「高品質である」、「希少性がある」、「特別な体験を提供する」というメッセージが含まれるかもしれません。

もちろん、高い価格を設定しただけでブランド価値が生まれるわけではありません。
価格と、商品、流通、プロモーション、顧客体験。
すべてが一貫して初めて、その価格に意味が生まれます。
だから価格とは、
製品やサービスの差別化価値を数字で表現したメッセージでもあるのだと考えています。

■ 価格を決める前に、価値を決める

ビジネスである以上、利益がでなければ継続するそとはできません。
その場合の対策として考えられるのが、「コスト削減」であり「値上げ」です。

これらは、ある意味、企業側の都合、つまり、プロダクトアウトの発想であり、対策ともいえます。
しかし、根っこにあるのは、顧客との向き合い方の問題であるかもしれません。
つまり、「顧客が、その価格を支払うだけの価値を感じていない」かもしれないということです。

コスト削減を重要ですが、そこには限界があります。
また、一方的な値上げは、客離れを促進させかねません。

一方で、マーケットインの発想で、顧客が感じる価値を高めることができれば、値上げしても顧客に認めていただける可能性が高まります。

結局のところ、
価格を安くすれば売れるわけではありません。
価格を高くすれば売れないわけでもありません。

重要なのは、
その価格に対して、顧客がどれだけの価値を感じるのか。
だと思います。

だからこそ、プライシングを考えるとき、いくらで売るかから始めるのではなく、顧客にどのような価値を提供するのかから始めることが大切です。

そして、その価値を、顧客はいくらと評価するのか
を考えた上で、いくらで販売するのかを決定させなければなりません。

私は、この順番が重要だと考えています。
価格を決める前に、価値を決める。
価格を上げる前に、顧客が感じる価値を高める。
そして、その価値を正しく伝える。
これができて初めて、価格は単なる「値段」ではなく、企業の価値を表現するものになります。
プライシングとは、単に値段を決めることではありません。
顧客に提供する価値を、いくらで評価してもらうのかを設計することです。

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