NISAで初めて個別株を買うなら、TransDigm(TDG)は選択肢に入るか——飛行機の「その1社だけの部品」で稼ぐ航空部品の隠れ独占という米国株の話
はじめに——「飛行機が飛び続ける限り、値上げして売れる部品」の話
飛行機は、一度作られると、25年から30年、長ければそれ以上、空を飛び続けます。その長い間、無数の部品が、少しずつ傷んでは、交換されていきます。ポンプ、バルブ、点火装置、操縦席のスイッチ——何千点もの部品が、定期的に新品と取り替えられるのです。
ここで、想像してみてください。もし、ある部品を「世界で、たった1社しか作っていない」としたら、どうなるでしょう。しかも、その部品は、飛行機に組み込むために、面倒な安全認証を通っている。だから、航空会社は、簡単には別のメーカーの部品に替えられません。替えるには、また一から認証をやり直す必要があり、莫大な手間がかかるからです。
つまり、その部品を作る会社は、飛行機が飛び続ける何十年もの間、交換部品を、少しずつ値上げしながら、売り続けることができるのです。
この「うらやましいビジネス」を、何千種類もの航空部品でやっているのが、今回のTransDigm(トランスダイム、ティッカー:TDG)です。売上の約9割が、自社だけの独自製品。その多くが、世界でその1社しか作っていない部品です。だから、本業のもうけの厚さ(EBITDA利益率)は、なんと52%。製造業として、ちょっと信じられない高さです。
ただし、今回は最初に、正直にお伝えしておきます。この会社は、事業モデルこそ一級品ですが、その裏に「多額の借金」「値上げを巡る論争」といった、攻めの、そしてリスクの高い側面も持っています。だから、これまでの銘柄以上に、仕組みとリスクの両方を、しっかり理解する必要があります。
この記事は、NISAでS&P500を積み立てているけれど「個別株も持ってみたい」と思っている人に向けて、TransDigmという会社が「あなたのNISAに合うかどうか」を、できるだけ正直に分析するものです。
この記事で分かること
「世界でその1社だけの部品」が、なぜ最強クラスの参入障壁になるのか
飛行機の交換部品(アフターマーケット)という、値上げしながら稼げる仕組み
事業は一流なのに、なぜ「高リスク」と言われるのか(借金・特別配当・論争)
TransDigmが「合う人」と「合わない人」の条件(正直に書きます)
第1章 TransDigmとはどんな会社か——航空部品の隠れ独占
何をしている会社なのか
TransDigmは、飛行機に使われる、さまざまな部品を作る会社です。本社はアメリカ・オハイオ州。ニューヨーク証券取引所に上場し、S&P500の構成銘柄。NISAの成長投資枠で買えます。
作っているのは、ポンプ、バルブ、作動装置(アクチュエーター)、点火システム、燃料システム、操縦席の制御装置、シートベルトなど。どれも地味な部品ですが、飛行機が安全に飛ぶために、なくてはならないものばかりです。
この会社の売上は、3つの市場から生まれます。ひとつは、新しく作られる飛行機(ボーイングやエアバスの新造機)に載せる部品。ふたつ目が、すでに飛んでいる飛行機の交換部品(アフターマーケット)。みっつ目が、軍用機など防衛向けの部品です。
どれくらい強いのか
年間の売上は約88億ドル(日本円で約1.3兆円)。規模だけなら、巨大企業というほどではありません。でも、驚くのは、その「稼ぐ力」です。本業のもうけの厚さを示すEBITDA利益率(ざっくり言えば、売上のうち本業のもうけがどれだけ残るか)は、約52%。売上の半分が本業のもうけとして残る計算で、これは、ものづくりの会社としては、桁外れの高さです。
なぜ、こんなに儲かるのか。答えは、売上の約9割が、自社だけの独自製品で、その多くが「世界でその1社しか作っていない部品」だからです。競争相手がいないところで、なくてはならない部品を握っている。だから、高い値段を保てるのです。
第2章 なぜ「部品の会社」がここまで強いのか
TransDigmの強さの秘密は、3つあります。
秘密①:「その1社だけ」という、乗り換え不能の壁
いちばん大事なのが、多くの部品を、世界でTransDigmだけが作っている、という点です。
飛行機の部品は、安全のために、厳しい認証を通っています。ある部品がいったん飛行機に組み込まれると、それを別のメーカーの部品に替えるには、また一から認証をやり直さなければなりません。これには、莫大な時間とお金がかかり、しかも安全上のリスクも伴います。
だから、航空会社や整備会社は、まず乗り換えません。「その1社しか作っていない」「乗り換えるのが大変すぎる」——この2つが重なって、TransDigmは、値上げをしても顧客が離れない、という強い立場を手にしているのです。
秘密②:飛行機は30年飛ぶ——交換部品という長期の稼ぎ
ふたつ目が、交換部品(アフターマーケット)という稼ぎ方です。
飛行機は、25年から30年、あるいはそれ以上、飛び続けます。その間ずっと、部品は傷んでは交換されます。つまり、TransDigmは、新造機に部品を1つ売れば、その後何十年も、交換部品を売り続けられるのです。しかも、この交換部品は、新造機向けよりも利益率がはるかに高く、不況で新しい飛行機が売れない時期でも、比較的安定して売れます。すでに飛んでいる飛行機の部品交換は、止められないからです。
この「交換部品の長期の稼ぎ」こそが、TransDigmの利益の大半を生み、52%という高い利益率を支えているのです。
秘密③:独占部品を「買い集める」という成長のやり方
みっつ目が、この会社ならではの成長のやり方です。
TransDigmは、自分で一から製品を開発するより、「その1社だけが作る独占的な部品」を持つ会社を、次々と買収することで、大きくなってきました。まるで、投資ファンドのように、優れた独占部品メーカーを買い集め、そこに自社のやり方(値上げや効率化)を適用して、利益を伸ばす。これが、TransDigmの成長エンジンです。実際、直近でも、複数の航空部品会社を、次々と買収しています。
この「独占を買い集める」やり方は、うまくハマれば強力です。ただし、後で述べるように、その資金の多くを借金でまかなっている点が、この会社の光と影の「影」の部分になります。
第3章 S&P500の積立と、個別株を持つことの違い
ここで少し立ち止まって考えてほしいことがあります。
S&P500のインデックスファンドを積み立てている場合、実はすでにTransDigmの株も少しだけ持っています。この会社もS&P500の構成銘柄だからです。
では、わざわざTransDigmを個別で買い増す意味は、どこにあるのでしょうか。
S&P500は500社の平均です。平均に乗ることで「大きく損するリスク」は下がりますが、同時に「平均を大きく上回るリターン」も得にくくなります。
個別株を持つということは、「この会社はS&P500の平均より良い成長を続ける」と判断することです。TransDigmは、その事業モデルの強さから、過去には株価が長期でS&P500を大きく上回ってきた、屈指の会社です。
ただし——この会社には、これまで紹介してきた銘柄とは違う、独特の「高リスクな側面」があります。多額の借金、定期的な配当を出さない方針、そして値上げを巡る論争。事業モデルは最高でも、その構造は、かなり攻めているのです。
「世界でその1社だけの部品を握る、最高の事業モデル。でも、なぜ高リスクと言われるのか。多額の借金は大丈夫なのか。今の株価は割高ではないのか。そもそも、初心者が手を出していい銘柄なのか。」
この問いに答えるのが、この記事の有料部分です。
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先に、いちばん大事な結論を言います。
TransDigmの事業モデルは、世界屈指の一級品です。世界でその1社だけの部品を握り、飛行機が飛ぶ限り交換部品を値上げしながら売り、52%という桁外れの利益率を稼ぐ。この仕組みの強さは、本物です。
しかし、その裏には、これまでの銘柄にはなかった「攻めで、高リスクな構造」があります。第一に、成長のために多額の借金を抱えていること。第二に、定期的な配当を出さず、時おり借金でまかなった特別配当を出す、という独特の株主還元。第三に、株価が割高であること。そして第四に、独占的な部品を高値で売ることへの、値上げ論争があること。
だから私の結論は、正直に言えば「事業モデルは最高だが、その構造はPE(投資ファンド)的で高リスク。初心者は、この仕組みとリスクを完全に理解したうえで、ごく慎重に。多くの初心者にとっては、基本的に見送り、または様子見が賢明」です。
有料部分では、次のことを書いています。
第4章では、この会社の「影」——借金、特別配当、値上げ論争を、正直に説明します。
第5章では、最も大事な論点——「最高の事業モデルに、攻めの財務や論争のリスクは見合うのか」を検討します。
第6章では「今の株価は割安か」を、正直に書きます。
第7章では「TransDigmが合う人・合わない人」を正直に分けます。
第8章では「この会社のリスクと弱点」を包み隠さず書きます。
第9章では「買うとしたら、何を確認してからにすべきか」を示します。
そして第10章で、私自身の結論を書きます。
「その1社だけの部品」という最強の仕組みと、その裏にある攻めの構造。S&P500の積立だけでは物足りない、と感じている人にとって、判断の材料になるはずです。
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