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ひいらぎのひとひら1 epi.28最終話 E1にて

三回忌の法事を終え、僕たちは E1 へ来ていた。
 あのカウンター。あの並び。

 4人と、写真立て。
 柊子も、久しぶりだ。
 
 また流れている。
 be your perch
 あの曲。

 もう聴いても泣かない。
 泣かないはずだ。
 奥歯を、ぎゅっと噛んだ。

 僕は、どんな時でもあなたが帰りたくなる場所でいられただろうか。
 でも、あなたがいた場所は、埋められそうにない。

 
「ゆーき、そこなんだよ。」
 みきのが、静かに云った。
 
 ミネギシさんと優美ちゃんは、何も云わない。
 
「ゆーき、何で今日、ここにみんながゆーきを連れてきたと思うのさ!」
 少しだけ声が震えている。
「写真を持ってこいって頼んだのはあたしだし、それはさ、とーこが好きだった場所で云いたいことが・・・」

「みきの、やっぱりやめろ。」
 ミネギシさんが低く云う。
「俺らにも、ゆーきに踏み込めないことが・・・」
 
「違う。」
 優美ちゃんが、やわらかく首を振った。

「みきのさん、もう、ちゃんと伝えていいよ。私は、最初から分かってた。」
 
「どうして?」
「見ればそれくらいは分かりました。」
 優美ちゃんはグラスを指で回しながら云う。
「見るときの、やさしいけど行き場のない目。」

 
 少し間を置いて、
「それと、結希さん、もうネックレス外してます。」
 占い師やら、なんやら。

 
 ん?
 あの時。

 ・・・遠い未来にみきのの役割が。
 
 そうか。
 あなたが遺したかったもの。
 僕たちが、ひたむきに愛し合ったという事実と、僕の未来と。
あなたは、そこまでも。
 
 柊子のグラスの中だけ、そっと揺れた。
 
「みきのさ、」
 僕が口を開く。

 みきのは、一瞬だけ目を伏せた。
 そして、ゆっくり顔を上げた。
「ゆーき、あたしね。」
 言葉が止まる。
 
 みきのが、こんな顔をするのを、初めて見た。

「ずっと好きだった。」
 店の空気が、ほんの少し止まる。
「とーこより前から。」
 グラスを持つ手が、少しだけ震えている。
 
「でもさ。」
 みきのは笑った。
「2人を見たら、入る隙間なんて1ミリもないじゃん。」
「だからやめた。」
「とーこだったから。」
「とーこが好きだったから。」
 声が少しだけ揺れる。
 
「でも今日だけは云わせて。」
「ゆーき。」
「好きよ。」

 静かな声だった。
 責める声でも、期待する声でもない。
 ただ、長い時間を、ようやく降ろした声。
 
 僕は、少しだけ笑った。
「知ってた。」
 みきのが顔を上げる。
「え?」
「薄々。」
「おそいって。」
 みきのが笑う。

 僕はグラスを持った。
「ありがとう。」
 それしか言えない。でも、それで十分だと思った。

「ゆーき、」
「うん?」
「これからさ、前、向こうよ。」
「そうだね。」
  

 優美ちゃんが、ほっとした顔でミネギシさんを見た。
 柊子の写真が、やさしく笑っている。
 その横で、グラスが、またかすかに揺れた。

 
  あなたが残したかった未来は、ここにある。
  僕たちは、泣きながらでも、それでも、
   生きていく。

 
  僕たちは、ひいらぎのひとひらたちのように。
  この葉を落とすまで、ずっと、寄り添いながら、静かに揺れているんだろう。
 そうだよね。
 柊子

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