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誰もいない神社

山の中を歩いていると、
ときどき不思議な場所に出ることがある。

誰もいないのに、
ずっと前からそこにあったような場所。

道が細くなって、
少しだけ空気が変わる。

風の音が弱くなって、
代わりに、音の無い静けさが広がる。

そういう場所の先に、
小さな神社があることがある。

観光地でもなく、
地図にもほとんど載っていないような、
古い社。

鳥居は色が落ちていて、
石段には苔がついている。

誰も来ていないように見えるのに、
荒れている感じはしない。

不思議と、
ちゃんとそこに在る。

手入れをしている人を見たことはない。

でも、
放っておかれているわけでもない。

そういう場所がある。

境界を越えた先には、
こういう空気がある気がする。

人の世界から少しだけ外れて、
でも完全に離れているわけでもない。

名前も、由来も、
よく分からない神社。

近づくと、
足音が少しだけ大きく聞こえる。

静かすぎるからかもしれない。

鳥の声も聞こえない。

風も止まっている。

ただ、そこにある。

社の前に立つと、
何かをお願いしようと思うより先に、
何も言わない方がいい気がしてくる。

ここは、
願いを言う場所じゃない。

ただ通り過ぎる場所。

そんな感じがする。

少しだけ頭を下げて、
そのまま振り返らずに歩き出す。

振り返ると、
戻れなくなる気がするからだ。

理由は分からない。

ただ、そうした方がいい気がする。

山の道に戻ると、
またいつもの音が戻ってくる。

風の音。

遠くの鳥の声。

足元の砂の音。

さっきまでいた場所が、
本当にあったのかどうか、
少し分からなくなる。

でも、ああいう場所は、
たぶんどこかにある。

人の世界のすぐ隣に、
静かに残っている場所。

誰もいない神社というのは、
そういうところにあるのかもしれない。

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