#02 今日もこの店、あけときます。
~扉の向こうには~
数年前。
まだ店番を始めて間もない頃。
その旅人は
奥の扉を開けて、
ひとり中へと入っていった──。
「ちょっと邪魔するよ。」
低く落ち着いた声だった。
見た目は40代前半くらいだろうか。

日に焼けた肌。
無精ひげ。
くたびれたジャケット。
肩には使い込まれた革のカバン。
どこか影のある表情。
一言だけ挨拶すると、
慣れた様子で、
その人は奥の扉へ向かった。
迷いのない足取りだった。
まるでそこに何があるのか、
最初から知っているかのように。
「……あ。ち、ちょっと待っ……!」
バタン。
あまりにもあっけなく奥の扉を開けて、
その人は行ってしまった。
僕は呆然と立ち尽くす。
「……え?」
開くの?
あの扉って、
『開くもの』だったの?
僕は何度も試した。
押しても。
引いても。
蹴っても。
びくともしなかったのに……
しばらくして、
ガチャリ
振り向くと、
奥の扉が静かに開いた。
さっきの旅人が帰ってきた。
───その顔は、
店に入ってきた時より、
ほんの少しだけ優しかった。
険しかった目元がわずかに緩み、
どこか遠くを見ていた視線が、
今は現実に戻ってきたようだった。
「ひとつ教えといてやる。」
旅人は振り返りもせずに言った。
「その扉はな。」
少し間を置いて、
こう続けた。
「思いの強い人にしか開けられない。」
「……え?」
「今のおまえには……開けられそうもない。」
そう言って、
その人は何事もなかったように
店を出ていった。
カランコロン♪
残された僕は
意味が分からないまま、
もう一度だけ奥の扉を見つめた……

続く
✅開けられない、その訳……
