受け入れるという知恵
夕暮れの河原を、ひとりの若者が歩いていました。
胸の奥には、消えない「悩み」と「苦しみ」が重たく沈んでいます。
「どうして、思いどおりにならないんだろう」
歩くたびに、ため息がこぼれました。
そのとき、川辺に腰を下ろしていた老僧が声をかけます。
「その荷物、重たかろう」
若者ははっとして答えます。
「ええ、重くて苦しいです。でも、どうしても手放せないんです」
老僧は川面を指差しました。
「水を見てごらん。流れる雲を映し、鳥が飛べばその影を受け入れ、また何事もなかったように流れていく。
思いを握りしめず、ただ受け入れて流せばよい」
若者はしばらく黙って川を見つめました。
たしかに、水はすべてを映し、そして執着せずに流している。
「思いを持たなければいい」
その言葉が胸の奥にすっと沁み込んでいきます。
ふと気づくと、さっきまでの苦しさが少しだけ軽くなっていました。
川の音が優しく響き、風が頬をなでていきます。
若者は立ち上がり、微笑みながら言いました。
「ありがとうございます。これからは、水のように生きてみます」
その背中を見送りながら、老僧はただ静かに川面を眺めていました。
流れる水の音だけが、穏やかに時を刻んでいました。
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