【第65回】3つのお題に空想のひらめきを〜人魚が残した貝殻〜
こちらの企画に参加させて頂きます。
よろしくお願いします🙇
*画像は全て、片桐みかんさんよりお借りしました。
🎈お題①:「人魚が残した貝殻」
🐾お題②:「百年に一度咲く彼岸花」
⏳お題③:「月夜に光る櫛」
短編小説
〜人魚が残した貝殻〜
リョウは家族というものを知らない。幼い頃の微かな母の記憶があるのだけれども、誰にも話したことはなかった。
理由は、笑われ、馬鹿にされるに決まっているから。
リョウの記憶によると、ある美しい満月の夜、リョウの母は浮月海岸の波打ち際で、リョウに大きな巻貝の貝殻の首飾りと貝殻を細工して作った小さな櫛を持たせて、海へと帰っていった。
リョウは何度も何度も自分で否定しようとしたのだけれど、幼いリョウの記憶にあるのは、美しい人魚になり、海へ帰って行った母の姿なのだった。

リョウは、里親に育てられ少年になった。彼は毎日のように浮月海岸に座って首飾りの貝殻を耳にあて、波の音を聴いて過ごした。
ある夜、星々の瞬きを眺めながら貝殻を耳に当てていると、貝殻の奥から優しい女性の声が聞こえてきた。
『リョウ、よく聴いて。百年に一度咲く彼岸花が咲いた満月の夜、月夜に輝く櫛を持って私に会いに来てください』
「えっ、母さん?」
リョウはすぐにもう一度貝殻を耳にあてたが、もうその声は聞こえず、波の音だけが静かに繰り返した。
『百年に一度咲く彼岸花。月夜に輝く櫛』
リョウはそれを心に刻んだ。
……
月夜に輝く櫛は、母が残した櫛に違いないと確信したリョウは、『百年に一度咲く彼岸花』を探す旅に出た。
百年に一度しか咲かない彼岸花。そのような植物が実在するのか、どこに生えているのか、文献にも伝承にも明確な記録はなかった。
リョウは港町を去り、日本全国を巡る旅に出た。各地の古書店を巡り、植物学者や地域の古老を訪ね歩いた。山道を歩き、人里離れた寺社を訪ね、湿地や断崖を調べた。
資金が尽きれば途中の街で働いて旅費を稼いでは再び移動した。手がかりがないまま、いたずらに歳月だけが流れた。
十年が過ぎ、リョウは二十五歳になっていた。
諦めかけた時、偶然山道で出会い、荷物を担いであげた一人の老婆から、それらしい話を聞いた。
「ありがとよ、助かったわ」
「お安いご用さ、おばあちゃん」
「それであんたは、どこへ行きなさる?」
「百年に一度咲く彼岸花を探して全国を旅してるんだ。でも簡単には見つからないさ。それが見つかれば母さんに会えるかもしれないんだけど…」
「ん?それなら、聞いた事があるで。確か、山城の月読神社にあるとか…えっと、年寄りじゃから良く覚えとらんけど…」
「おばあちゃん、ありがとう。行ってみるよ。山城の月読神社だね」
リョウは早速、月読神社へと向かい、神主を訪ねた。ちょうど満月の夜だった。
「良く来なさった。お前が来る事は神社の言い伝えでわかっておったんじゃ。さあ、これが百年に一度咲く彼岸花じゃ。つぼみが膨らんでおる、次の満月に咲くじゃろう。持って行くがいいぞ」
「ありがとうございます。長年の苦労が報われました」

リョウは彼岸花の鉢植えを抱えて浮月海岸に帰り、次の満月を待った。
次の満月の夜、ついに彼岸花は大きな花を咲かせた。
リョウは母の櫛を取り出して月にかざした。すると月の光が一本の筋になって一直線に彼岸花に降りそそいだ。
光を受けた彼岸花は花粉のような光の粒を撒いて櫛を包み込んだ。
光の花粉を浴びて櫛は淡い黄金の光を放ち始めた。

「今だ!」
リョウは櫛を握り締め、浮月海岸に向かって駆け出した。
海岸に出ると海は凪いでいて、東の水平線の上に黄金の満月がリョウを見守るように浮かんでいた。
夜空には満天の星が瞬いて、銀河が月と反対の山に向かって降り注いでいた。
リョウは輝く櫛を右手で掲げ、真っ暗な海を見つめた。波はほとんど止んで、静寂が海岸全体を飲み込んでゆく。
その時、沖で何かが動いた。
「あれは…」
リョウはサンダルと服を脱ぎ捨て、櫛を握り締めたまま海に入っていった。すぐに足がつかなくなったけれど、リョウは気にせずに沖に向かって懸命に泳いだ。
「水中になにかいる…母さん…」
リョウは躊躇なく水中に潜る。
「真っ暗で何も見えない…」
リョウは一旦海面に上がって息を整えた。
その時、空から流れ星がひとつ長い尾を引いて沖の方へ落下し、海中を明るく照らしだした。
リョウは大きく息を吸うと、海中深く潜った。
すると少し先の光の中に一匹のジュゴンがいて、リョウの方を見つめていた。
「ジュゴン…母さん?」
リョウは輝く櫛を差し出した。するとジュゴンは小さく鳴いて尾びれを動かした。
ジュゴンはこちらを向いたままリョウを招くように、少しずつ海の底の方へと沈んで行く。
「行かないで…」
リョウも懸命に後を追った。
もう手の届くところまで来た時、ジュゴンはいつのまにか美しい人魚に変わっていた。
「母さん…」
リョウは握り締めていた櫛で、優しく母の髪を撫でた。母はリョウの頭に手を置いて微笑んだ。
リョウの姿はいつのまにか幼い男の子に変わっていて、お母さんの手をしっかりと握り締めていた。
母と子の二人の姿は、ゆっくりと、流れ星の光が届かない深い海の闇の中へと小さくなって、やがて消えて行った。
流れ星の光は消えて、浮月海岸には満月の柔らかい光と打ち寄せる波の音だけが残っていた。
了
片桐みかんさん、マガジンに収録していただきありがとうございます😊
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