【ショートショート】 レンタル忍者しのぶくん
「忍者はエコなんだよ」
「え? どういうこと?」
夏休み、マモルと離島に遊びに来た。付き合って初めてのお泊まり旅行。ウキウキワクワクで、とりあえず自転車で島を1周しようぜってことになった。
レンタルサイクルショップを探していたはずなのに、スマホの画面を見つめたままのマモルから、突然『忍者エコ説』が飛び出したのだ。
「エネルギー問題って深刻だろ? 再生可能エネルギーとか、バイオ燃料とか、言うけどさ。結局はそういうのってお金もかかるし、持続的かと言われると難しい問題がたくさんあるじゃん?」
島にカレシと来てテンション爆アゲ!! って思っていたのに、このひとはイキナリなんのはなしをしているのだろう?
構わずマモルは続ける。
「その点、忍者はさぁ、ガソリンみたいな化石燃料はいらないし、電気で動く訳でもない。チャクラ……要は自然の力さえあればいいんだよ」
「え? そもそも忍者って実在するの?」
「サクラも見た事あるだろ? 昼間っから公園のベンチの上で大の字で横になってるやつ。あれ、自然からエネルギーを集めてる忍者だぜ。あと、深夜の繁華街で大の字で横になってるやつ。あれもエネルギー集めてる忍者だし」
「え! どっちも大の字で寝てるだけじゃん……!」
「いやいや、マジで気をつけた方がいいって。うかつに近づいたら手裏剣飛んでくっから」
だんだん頭がクラクラしてきた。いつも大学で見ているマモルは、どこにでもいる大学生だ。こんなひとじゃなかったのに、急にどうしたんだろう?
空は雲ひとつない快晴!
なのに話題は忍者。
眼前にはこれまた真っ青な海!
なのに話題は忍者!!
そうこうするうちに、小さな雑貨屋の前にたどり着いた。
軒先にかかる『氷』ののれん。ガラスの引き戸に貼られた色あせたビールのポスター。まるで映画から切り取ったかのような昔ながらの雑貨屋だ。
「おーここだ。めっちゃエモいなぁ」
ドアは開いているが人の気配はしない。
「え? 自転車借りに来たんじゃなかったの?」
マモルは私の一言を気にすることもなく、すたすたと店の中に入っていくのであわてて後ろをついていく。
「お、あったあった」
そういうと、タワシやヤカンが並ぶ横にあるスペースにスマホをかざした。よく見ると『忍』と書いてある。
「え、なにやってんの、マモル」
笑って見ていると、不意に背後に気配を感じた。振り返ると、黒1色の布を纏った男が跪いている。
「ぇ?! に……忍者?!」
横ではマモルが「よっしゃーー!」とテンションを上げている。
「ど、どうゆうこと?」
「え? 知らないの? レンタル忍者だよ。今どこでも借りれるんだぜ」
「噓でしょ。聞いたことないって。なんでマモルがそんなこと知ってんのよ?」
「あ……ごめんごめん。ついつい忍者マウントしちゃったわ。実は学科の先輩に最近教えてもらったんだよ。レンタル忍者『しのぶくん』。登録したら誰でも借りれるんだよ。時間制で30分1000円!」
「忍者なんて借りて何に使うのよ? (忍者マウントってなんよ?)」
「そりゃ疲れたなあって時に背中に乗せてもらったり、野球でメンバー足りねえって時に呼んだりさ」
「背中に乗るのはまだわかるけど、野球ってなによ? (イソノかよ)」
「忍者って投げるのも走るのも得意なんだって」
「あーそりゃ間違いないわ」
🥷🥷🥷
「…………で、なんでこうなるわけ?」
忍者の背中にはおんぶされた私。そしてコアラのように忍者の首にぶらさがるマモル。
「ね! 忍者すごくない?! 一人で二人乗せてくれるんだぜ!!」
はしゃぐマモルを見て、いやいや、そこじゃないでしょ、と内心ツッコミを入れつつも忍者で移動を開始する。
「……てか、おっそ!! これ、自分で歩くのと変わらなくない?」
忍者のフンフンという鼻息が聞こえてくる。
「文句言うなって。エコだから仕方ないだろ。じゃあおれと場所変わる?」
「いえ、結構です」
忍者の首にぶらさがる自分の姿を想像して、私は全力で首を横に振った。
🥷🥷🥷
「よし! ついたぞ! ちょっと遊ぼうぜ!」
忍者が肩で息をし始めた頃、私たちはようやく白い砂浜に到着した。
「なんか海で遊べるもの出して!」
マモルが無邪気に忍者にお願いすると、忍者は無言で手裏剣、トゲトゲの鉄球がついた鎖鎌、巻物を取り出した。
「なんだよー、こんなのしかないのかよ」
マモルさんよ、あたしゃ絶対こうなると思ったよ。もう帰りたくなってきたよ……。
すると忍者が巻物を広げて、この世のものとは思えない低い声でなにやらつぶやいたと思うと、目の前にビーチボールが現れた。
「やっべ! ビーチボール召喚きたーーーー!!!」
「ビーチボール召喚てなんやねん!!」
思わず盛大な回転レシーブツッコミをキメてしまう。ここが砂浜でよかった。
忍者は全く動じず巻物をくるくる巻き直している。くっ……やるな、忍者……!
「よーし! サクラ! これで遊べるな!!」
雲一つない青空。
青い海。
白い砂浜。
そして波打ち際でボールで遊ぶ若い二人──。
これ以上ないシチュエーションなのに、横にいるのは忍者🥷
「ねぇ、あれ気になるんだけど」
「そうか? 特に何もしてこないから気にしなくていいんじゃね?」
いやいや、もう帰ってもろていいんですけど。気にするなと言っても白い砂浜に黒い恰好はひどく目立って視界の端にチラチラ入ってくるのよ。
「だってさぁ、あの忍者、念願の上忍なんだってばよ」
目を輝かせてマモルが言う。ちょっと口調も変わってるやないか。
「上忍?」
「そうそう、この島なら上忍が借りられるって聞いてたからここに来たんだよ。めったに上忍なんて会えないからさ。あ、ちなみに服が黒いのが上忍な」
この島に来た理由そこかーい!
またまた回転レシーブをキメそうになるのをグッとこらえて、忍者の方をちらりと見る。
ん?
なんか
口元を隠す布がもごもご動いてない?
あいつ
もしかしてガム噛んでるな?
🥷🥷🥷
そんなこんなで1時間きっかりで忍者は返却した。時間を超えると追加料金がかかるというので最後は忍者と一緒に3人で走った。
前半で体力を使い果たしたんだろう。ふらつく忍者が最後に雑貨屋に着いて、なんとかギリギリ間に合った。汗びっしょりで、エコとかどうでもいいからレンタカーが良かった。
決めたわ、マモル!!
もうアンタとはこの島で最後よ!!
「いやぁ、上忍かっこよかったなぁ。あ! しまった!!」
いきなりマモルが大きな声を出してビクッとする。
「写真撮るの忘れてたーー!!」
ちょっと……一周まわってかわいく思えてきたよ。
「そういや、おなかすいたね。ご飯どうしようか」と言いながら二人で歩いていると、いきなり地面が揺れ始めた。
ゴゴゴゴゴゴ
これまでの人生で聞いたことのないレベルの地響きがする。島の木々が揺れ、鳥たちが一斉に飛び立った。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
さらに轟音が大きくなり、メリメリっと地面が裂け始めた!!
「やばいやばいやばい! どうしよ! さっき上忍返しちゃったよ!」
「マモル、そんなこと言ってる場合じゃな……」
と言いかけた途端、足元の道路が真っ二つに割れ始めた。
ゴゴゴゴゴガリガリガリ
割れた地面にマモルが吸い込まれていくのを目にした瞬間……私は反射的に動いていた。
🥷🥷🥷
ようやく揺れがおさまった。
道路はあちこちで分断され、隆起し、島の景色は一変してしまった。
気を失っていたマモルがうっすら目を開ける。
「う……あれ……サクラ……無事か?」
「もちろんよ。私を誰だと思ってるの?」
凛とした私の声に、マモルがきょとんとした顔をする。
「え?」
私は胸を張って言った。
「私……特上忍なの!」
先日、大塚ぐみさんが重苦しい気持ちをなんとかしたい、とXで呟いていた時、「ショートショートありますよ」と差し出したのがこちらです。
いくらなんでも、アンパンマンのように常に差し出せるショートショートを用意している訳ではなくて、ちょうど『坊ちゃん文学賞』に出して落選した作品が手元にあったのでした。
一応、note用に少し修正しましたので、ここに公開して供養とさせていただきます。
アホ楽しいのが好きです🥹

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