見出し画像

黄安(こうあん)~ 『列仙酒牌』付白石生

【讃】吾坐此亀、已見三出頭矣
     私がこの亀に座ってから、この亀が頭を出すのを三回見た。
(酒約)科頭者飮
     冠または頭巾をかぶらずにいる者は飲め。

<黄安 『列仙酒牌』 画 任渭長>

この仙人も『太平広記』に書かれているだけが全ての仙人です。

黄安とは?

『太平広記』での大略を記しますと、次のようになります。

黄安は代郡の人で、代郡の兵隊でした。書を読み、人は弁舌で生計を立てていると言っていました。

地に呪文(記数)を描くと、そこが池になりました。歳は八十歳くらいでしょうが、童子のように見えました。常に朱砂を服用しており、体全体が赤みをおびていました。

冬にも衣を着けず、亀の上に座っていました。亀は直径三尺位でした。この亀の歳を聞くと「昔、伏羲が網をつくった時、この亀がかかったので私に授けてくれた。亀の背はすでに平らになってしまっている。

この亀は日月の光を畏れるので弐千年に一度しか頭を出さない。私の見た限りでは今まで五回頭を出している」。

移動するときには亀を背負って走る。世間の人は黄安は一万歳だと言っています。

正直なところ、『列仙酒牌』を取り上げても、私にとって解り易いもの、資料の揃ったものから書いていくので、半ばを過ぎるとだんだん書くのが難しくなってきます。

前回の許晨のように資料の全く見つからないものや、この黄安のように資料が一つしかないものですと、書くのに詰ってきます。

<黄安 解説 成寅 図 三才図会>

この黄安さんにしても「伏羲が網をつくった時、この亀がかかったので私に授けてくれた」というお方ですので、その時にはもうすでに仙人になっていたわけでしょうし、どういう方法で仙人になれたのかは全く不明です。

成寅さんの解説に入っている文章で、『太平広記』を越える内容の部分は、明の王世貞『列仙全伝』の記載によるものと思われますが、この部分の出所がどこなのかは寡聞にして知りません。

白石生(白石先生)

抱朴子には「亡き先生にこう聞いたことがある。仙人には、天に昇る者も、地上に住む者もある。要はいずれも不老長生であること。去るも、留まるも、当人の好み次第(聞之先師云,仙人或昇天,或住地,要於俱長生,去留各從其所好耳)。」(『抱朴子』内篇卷三「対俗」)と書いてあります。

大概の仙人は、そのまま天に昇ったり(白日昇天)、一旦死んでから天に上ったり(尸解)しますが、この黄安のように、地上で暮らしている仙人も居ります。

黄安さんの場合、どうしてこの人間界で長く暮らしているのかはわかりませんが、理由のはっきりしている仙人も居ります。

<白石生 解説 成寅 図 仙佛奇踪>

こういった仙人の代表格と私が思っているが、白石生(白石先生)です。
白石生は、彭祖の時代には既に二千歳になっていたという仙人ですが、昇天の道は修行しようともせず、ただ不死の法だけを学んで、人間世界での快楽を失わないようにしていたということです。

彭祖が白石先生に「どうして昇天の薬を飲まないのか?(何不服昇天之藥)」と尋ねたのに対して、「天上は人間界よりも楽しいのでしょうか。老いて死ななければそれで充分。天上には尊い神々が多いので、その方たちに仕えるとなると、いろいろ大変でしょう(天上復能樂比人間乎。但莫使老死耳。天上多至尊,相奉事,更苦於人間)」と答えたと言います。

いとも現代的な感覚で、天に昇って天の偉い役人になろうなんて思わず、自分なりの楽しみができれば満足できる仙人でした。

この白石先生の生き方ができるのであれば、私もそうですが、仙人になりたいという人は多いと思います。

今回の主題の黄安が、こういった境地に在った仙人なのかどうかは、判りません。

【煩注】

黄安(『太平広記』卷第一)
黄安,代郡人也。為代郡卒,云卑猥不獲,處人間執鞭。推荊讀書。畫地以記數。一夕地成池。時人謂安舌耕。年可八十餘。彊視若童子。常服朱砂,舉體皆赤,冬不著衣。坐一龜,廣長三尺。時人問此龜有幾年矣。曰。昔伏羲始造網𦊙。得此龜以授吾,其龜背已平矣。此蟲畏日月之光,二千年則一出頭,我生。此蟲已五出頭矣。行則負龜而趨。世人謂安萬歳矣。出《洞冥記》

白石先生(『太平広記』卷第七)
白石先生者,中黃丈人弟子也,至彭祖時。已二千歲餘矣。不肯修昇天之道,但取不死而已,不失人間之樂。其所據行者,正以交接之道為主,而金液之藥為上也。初以居貧,不能得藥,乃養羊牧猪,十數年間,約衣節用,置貨萬金,乃大買藥服之。常煑白石為糧。因就白石山居,時人故號曰白石先生。亦食脯飲酒,亦食穀食。日行三四百里,視之色如四十許人。性好朝拜事神,好讀幽經及太素傳。彭祖問之曰:「何不服昇天之藥。答曰:「天上復能樂比人間乎。但莫使老死耳。天上多至尊,相奉事,更苦於人間。」故時人呼白石先生為隱遁仙人,以其不汲汲於昇天為仙官,亦猶不求聞達者也。出《神仙傳》

【参考】

『任渭長木刻画四种』<学苑出版社、中国>
『酒牌』<山東書籍出版社、中国>
沢田瑞穂訳『神仙伝』(中国の古典シリーズ、平凡社)
『太平廣記』巻一、巻七(中華書局、北京)
中國哲學書電子化計劃@web

【関連】

碧山雑文 ~ 道家
   老子の言葉によった『老子』解釈を中心としてます。
   その他道家関連の事々について書いています。 

碧山雑文 ~ 中国詩文
   個人的に興味のある中国古典詩(漢詩)及び
   任渭長の版画が中心です。
   尚、最近始めた AI画像生成の作品を入れたものもあります。

碧山雑文 ~ 本邦漢詩文
   亀田鵬斎の一大傑作「酒仏経」だけは全訳註を行いました。
   その他はほとんど進んでいません。


いいなと思ったら応援しよう!