見出し画像

映画『コントロール』を観た

 写真家として有名なアントン・コービン氏が監督を務めたイアン・カーティスの伝記映画。イアン・カーティスは私の大好きなバンド、『Joy Division』のボーカルで二十三で自殺を遂げた。受験期ずっと焦がれてきた映画だ。いや、本当に凄かった。文句の付けようがない完璧な伝記映画で伝記という要素を抜き取っても素晴らしいように感じる。
 何よりもイアン・カーティスを演じたサム・ライリーが素晴らしい。顔の造形が似ているのは言うまでもない。目が、目が!本当にそのものだった!イアンと言えばあのぎょろっとした狂気じみてさえいる目の力だ。ライブシーン以外の目も印象的だ。誰といても何かに心を奪われているような、どこかにいってしまいそうな虚ろな目をする。なんだか怖かった。完全にイアンが憑りついていた。ライブシーンの例の痙攣ダンスといい動作をコピー……というよりも完全にイアンを降ろしていた。あまりにイアンでありすぎたため、それだけで泣いてしまった。それ以外の配役も完璧だった。バーニーなんて完全にバーニーだったし、アニクは『運命の女』としての説得力がありすぎる。
 最初から鳥肌が立ってばっかりだった。モノローグの「存在、それが何だというんだ。僕は精一杯存在している」、グラム・ロックにハマる少年期のイアン。ジム・モリソンの墓標のポスター。正直この時点で泣いていた。あとはずっと泣きっぱなし。選曲も最高だ。『Love will tear us apart』は絶対にかかるとは思っていたけれどまさかデビーがイアンの不倫に気づくシーンだったとは。まさに『Love will tear us apart』だ。全体的に仄暗く揺蕩っていた絶望の空気が、この辺りから加速していく。家庭生活のイアンは常に薄暗くて見ていられない。ナタリーが生まれた時なんて、父親らしさなんて一ミリたりとも見えなかった。不安げな子供の顔のようだった。(実際はナタリーにはデレデレだったという話も聞くので、そっちの方が嬉しい)
 だんだんとJDファンには分かるラストへの布石が埋め込まれていく。アメリカツアーの計画、Closerのレコーディング、アメリカツアー出発の『月曜日』。終盤で始まる家庭からの逃亡。バーニーに泊めてもらい、催眠術を受けるシーン。ボーカルと次のボーカル、この二人の物語に尺があるのが何だか嬉しかった。
 そして物語は終盤へと近づく。イアンは『シュトロツェクの不思議な旅』を見る。イギー・ポップの『The Idiot』をターンテーブルへ乗せる。この辺りでもう私は駄目だった。それに序盤で意味深に挿入されていた物干し竿のロープが引っ張られる画。そういう意図だったのか、と。
 とにかく壮絶だった。何がどう起きるのか知り切っているというのに一つ一つのシーンが痛々しく美しかった。
 エピローグの『Atmosphere』と共に彼がいなくなった後の世界が少しだけ描かれる。ジョイディヴィジョンのメンバーがイアンの死を知る『Blue Monday』、ジリアン・ギルバートの姿もあり、この後のニューオーダーを予感させる。最高のエンドロールだ。『Atmosphere』が終わるとキラーズの『Shadowplay』に切り替わる。このカバーがまた素晴らしい。イアンが目指したアメリカのバンドによってJoy Divisionの曲が生まれ変わっている。原曲よりアップテンポに、軽やかに。それでも原曲の良さは何一つ失っていない。1980年で時が止まった観客たちを現代へ戻すための舞台装置として完璧だった。もう本当に素晴らしすぎて言うことがない。
 ほかにもイアンの実娘のナタリーがカメオ出演していた(目がそっくりなので本当にわかりやすい)だとか小ネタもたくさんある。伝記映画をたくさん見るほうではないのでわからないのだが相当すばらしく愛に溢れた作品だと感じる。それもアントン・コービンがJoy Divisionとしっかり関わりがあり当時の雰囲気を掴んでいて、さらにはイアンの妻のデビーの協力も大きかったからではないか。奇跡のような作品だ。

 久しぶりにJoy Divisionのライブ映像を観た。イアンは生きていた。バーニーが言っていた気がする。儚い人じゃなかった、彗星みたいな人だって。確かに生きていた彼の姿をそこに認め、涙を止めることができなかった。

追伸
New Orderのライブを見てきた。もうすぐ七十に差しかかろうとする彼らは未だにイアンのことを忘れていない。初めから奏でられるJoy Divisionの「Transmission」。震えた。確かにNew OrderはJoy Divisionの延長線上にあるんだ!当たり前だがそんなことを確信した。アンコールの「Atmosphere」と「Love will tear us apart」は言うまでもなく素晴らしい。バーニーがAtmosphereをBeautiful songと言っていたのにもグッときた。確かに美しい。なんて美しい置き土産なんだと思う。LWTUAではイアンがスクリーンに映し出された。二十三で時が止まったイアン、横に映るのはバーニーの姿。ほとんど泣いていた。もう忘れやしないだろう。本当に美しい夜だった。


いいなと思ったら応援しよう!