納品は終わりではない。SmartHRのデザイナーが実践する、事業を動かすデザイナーの流儀とは?
デザインで価値を生む「伸びしろ」の見つけ方と「グルーヴ感」の高め方
「自分の仕事は、事業の成果にどう貢献できているのだろう?」 もしあなたがデザイナーとしてそう感じているなら、この記事は新たな一歩を踏み出すきっかけになるかもしれません。
ご紹介するのは、SmartHRのデザイナー、bebe氏が大規模イベントの成功に貢献したエピソードです。
成功の裏側で、彼は何を考え、どう動いたのか。 単なる「制作者」から脱却する仕事術を紐解きます。

インタビューされる人
bebe:渡邉 惇史(SmartHR ブランディング統括本部 / サービスクリエイティブマネジメント本部 / サービスコミュニケーションデザイン部 / サービスデザインAユニット)
SmartHRデザイナー1号の人。サービスに関するコミュニケーション全般のデザインを担当。
インタビューする人
wanna:渡邊 慶将(SmartHR ブランディング統括本部 / ブランドコミュニケーション本部 / ブランドコミュニケーションデザイン部 /ブランドディレクションユニット )
ブランドコミュニケーションに関するプロジェクトのディレクションを担当。
「デザイン」という曖昧な役割から始まった、プロジェクトへのダイブ
HR EXPO、大成功おめでとうございます! 今回のプロジェクトでどのような役割を担っていたのでしょうか?
bebe氏: 役割としては「デザイン担当」ということくらいしか決まっていませんでした。まずは情報収集から始めようと考えていました。 最初から明確な役割があったわけではないのですね。
bebe氏: そうなんです。グラフィック制作は期待されつつも、制作会社さんもやってくれそう。そうなると「自分は一体、何をすべきなんだろう?」と。だからこそ、「どういう役割でいきましょうか?」とチームと対話することから始めました。
そんな時、イベントチームから「ちょうど今週末、外部の制作会社さんへのフィードバックがある」と聞き、「そこから参加するのはさすがに急すぎるのでは?」と思いつつも、思い切って飛び込んでみたのが始まりです(笑)。
私なりに「デザイナーとして、こういう視点で進めてはどうか」と提案したところ、幸いにも「これはデザイン担当だからこそできる、解像度の高いフィードバックだ」と価値を感じていただけたようでした。
コンセプトという一本の軸が、コミュニケーションを強くする
デザイナーが企画の初期段階で入ることで、プロジェクトはどう変わりましたか?
bebe氏: あくまで私の視点ですが、「展示会に出展して見込み顧客との接点を増やす」という行為の中にある、様々なコミュニケーションに一本の軸を通せたことかなと思います。
具体的には、まず「コンセプト」を決め、それを「メッセージ」と「体験」の方針に分解し、ブースの造作やグラフィックに落とし込んでいきました。コミュニケーションに一貫した軸が通ることで、一つひとつの要素が積み重なり、メッセージはより強く、太くなります。プロジェクト関係者にとって、ストーリーとして全体をシンプルに理解しやすくなったのではないでしょうか。

制作会社からの提案には、コンセプトはなかったのでしょうか?
bebe氏: 私が参加した時点では、リード獲得目標から逆算されたデモ機の台数や、人の流れを考慮した平面図など、「成功のセオリー」に基づいた提案が中心でした。それ自体は正しく必須なものですが、「どんなメッセージを発信するためのこの造作なのか?」という思想の部分が見えにくかったのです。
イベントチームも違和感は感じていたものの、「どうフィードバックすればいいか分からない」という状態もあったようでした。そこで私が、「伝えるべき情報が構造化されていないため、来場者の理解を妨げている」といったことを、具体的なデザインのロジックを交えて言語化していきました。
これは、プロダクトの機能やブランドの思想を深く理解しているインハウスデザイナーだからこそ、貢献できた部分だったのかもしれません。
成果は「数字」だけじゃない。チームに“体感”させる価値の示し方
デザインの成果をどう示すか、という議論は多くの企業であります。bebeさんはどうお考えですか?
bebe氏: もちろん数字も重要ですが、それ以上に「結果が良くなったプロセスの中に、デザインの意義があった」とチームに“体感”してもらうことが何よりの近道なのではと最近考えることが増えました。
説明だけで理解を求めるのではなく、まず「一緒にやる」。同じプロジェクトのメンバーとして汗をかく。その上で結果が出た時に、「この人がいてくれたおかげで、うまくいった」と感じてもらう。そのあとで、自分たちの活動が「デザイン」としてどう貢献したのかを丁寧に紐解いていく。この順番が、本当に理解してほしい部分の価値を伝える上ではわかりやすいのではないかなと。

なるほど。では、その「一緒にやる」べきプロジェクトは、どうやって見つけたのですか?
bebe氏: 優先度の高いプロジェクトには、すでに優秀なメンバーがアサインされていることが多いと思います。そこに後から入っていくより、「ピンチな状況」かつ「成果の見込みが大きい」そして「デザイナーが入っていない」という3つの条件が掛け合わさる場所を探していました。そこを、デザイナーが貢献できる「伸びしろ」と捉えています。
今回の展示会は、リード獲得数や商談化率が他の施策に比べて非常に高く、大きな予算も投下されているにものの、現在は社内のデザイナーが深くは関与できていない状況でした。
デザイナーが飛び込むべき「伸びしろ」と、プロジェクトを成功に導く「グルーヴ感」
今回のプロジェクトを通じて、確信したことはありますか?
bebe氏:デザイン視点で「これはやった方が良くないかな」と感じたことは、遠慮せずにやった方が結果につながるな、と思いました。もちろん、今回はたまたまうまくいったという可能性もありますが、「入ってもらってよかった」とチームからいただいた言葉から、確かさを得られた気がします。
先ほどおっしゃっていた「伸びしろ」は、どうやって探しているのですか?
bebe氏: 全社のキックオフや経営会議での発言を参考にしています。例えば「売上が足りない」という話があれば、「商談創出やリード獲得がピンチなのだろう」と推測できます。そうした全社の課題と、自分の役割を結びつけて貢献できることはないか、と参考にして考えています。なので、特別なことはあまりやってないですね!
もう一つ、キーワードとして「グルーヴ感」を挙げていましたね。
bebe氏: はい。今回改めて、プロジェクトを動かす上で「グルーヴ感」が何より大事だと改めて感じました。ピンチな局面にぶつかっても「ここからなんとかするだけなんで、大丈夫っす!」と笑い合えるようなポジティブな空気がいいじゃないですか。
それを言い合える、それ自体を楽しめる関係というか。自分自身もずっと楽しんでいた気がします。そこにつながるかもしれませんが、プロジェクトの最初に「目標達成とは別に、個人的にチャレンジしたいことはありますか?」とメンバーに聞いていました。
目標達成はもちろんですが、そこに加えて一人ひとりの個人的な挑戦や「やってみたい」という野心を乗せられたら、そのプロジェクトやチームがさらに楽しめるんじゃないかなと。
現場の最後までコミットするということ
最後に、この記事を読んでいるデザイナーのみなさんへメッセージをお願いします。
bebe氏: 結果を出す、という前提に立つなら、関わるプロジェクトにはできる限り部分的ではなく、とことんのめり込んだ方が間違いなく良い仕事ができると思います。
今回、僕は展示会の設営日から最終日まで、全日程、朝から終わりまで現場に参加してみました。そこでしか気づけないことだらけだったんですよね。
気づきの一つとして、制作物の完成はプロジェクトの終わりではなく、まだスタートラインにすら立っていないと、はっとしたことがありました。
前日にブースや配布物がすべて完成したとき、アウトプットとしての「作る」という行為は終わったように感じました。しかし、イベントはまだ始まってもいなかった。作り物だけを担当する、現場を見ずに終える、という関わり方だったら、そこまでのコミットしかできていなかったなと。

取り組んだことの例として、設営日にワイヤーの位置をcm単位で調整したり、会期中に来場者の反応を見て急遽看板を追加したり、会場で使う資料をバックヤードでリアルタイムでつくり直したり、説明担当のスタッフが会場に入れず困っているのを迎えに行ったり…。それらも含めて、責任も面白さも全部一緒にコミットして、深く関わった方が自分自身も楽しいし、グルーヴ感も生まれるし、チームの一員として良い仕事もできるんじゃないかなと強く感じました。
インタビューを終えて。「納品はスタートラインにすら立っていない」
bebe氏の「納品はスタートラインにすら立っていない」という言葉は、インハウスデザイナーの役割を根底から問い直すものでした。
アウトプットを作って終わりではない。それがユーザーの体験やビジネスにどう貢献するのか、その最終局面まで見届ける。企画の根幹から現場の細部まで、深くコミットすることでしか得られない信頼と学びがあります。
あなたの職場にも、まだデザイナーが関われていない「伸びしろ」はありませんか? 事業が伸び悩んでいる会議、目標達成に苦しむチームの声。そこにこそ、デザイナーとして新たな価値を発揮できるチャンスが眠っているのかもしれません。
まずは、自分の周りで起きている「伸びしろ」を探すことから。bebe氏の流儀は、その小さな一歩を踏み出す勇気をくれるはずです。インタビューありがとうございました!

