赤ちゃんの泣き声に対する反応のジェンダー差
少し前に聴いていたラジオ番組で、面白い研究の話が紹介されていた。
荻上チキsessionの中に、週1回で「スクリーンレスメディアラボ」というコーナーがあって、音声の可能性をテーマに、音声研究やAI、音に関わる話題なら何でも取り上げる、という企画なのだけど、その回で「赤ちゃんの泣き声に対する反応に、ジェンダー差はほとんどない」という研究がいくつかある、という話が出てきた。
紹介された実験内容はこうだ。
被験者に、赤ちゃんの泣き声、特に「何か非常事態が起きていそうな泣き方」を聞かせる。すると、顔の皮膚表面の温度が数秒以内に上昇するという生理的反応が確認されたらしい。
興味深いのは、この反応が、性別や子育て経験の有無に関係なく、ほぼ同じように起こるという点だ。
つまり、人間にはもともと、赤ちゃんの危機的な泣き声に反応する仕組みが組み込まれている、ということなんだろう。
番組の中でも触れられていたけれど、やはり注目すべきは「ジェンダー差がない」という点だと思う。
子育ては女性の方が向いている、母性がどうこう、という話はいまだによく聞くけれど、少なくともこのレベルの生理的反応に関しては、男女差は見られない。
もちろん、授乳のように「できる人しかできないこと」はある。けれど、それだって「女性なら誰でもできる」わけではなく、体調や状況によって個人差がある。
それよりも、ジェンダーや「産んだ・産んでいない」に関係なく、みんなで子どもを育てる、という発想のほうがずっと自然なんじゃないかと、あらためて思った。
一方で、世界中にはさまざまな研究があって、その中には「実際に子育てをしている女性の方が、小さな泣き声にも反応しやすい」という結果を示すものもあるらしい。
ただ、ここで重要なのは、その差が「生物学的な性差」なのか、それとも「社会的な役割分担の結果」なのか、という点だ。
今回紹介されていた研究では、顔の皮膚表面温度が上がるという反応は、自律神経のうち交感神経が活発になる、いわゆる「闘争・逃走(fight or flight)モード」に入った状態だと考えられている。
この反応自体に性別差がないのだとすれば、その後の「聞こえ方」や「敏感さ」の違いは、普段の子育ての負担がどこに集中しているか、つまり社会的な要因によって“鍛えられた結果”なのではないか、という話だった。
この視点が、私はとても納得感があった。
この番組が好きなのは、こういうジェンダーの扱いがとても丁寧で安心感があるからだ。「好き」というより「信頼して聴ける」という感じに近いかもしれない。
もう一つ、個人的に面白いと思った話があった。
一般に、休むときは副交感神経優位のリラックス状態がいい。でも、何か行動を起こすときには、交感神経が優位になるほうがパフォーマンスは上がる。
赤ちゃんの泣き声を聞かせて皮膚表面温度が上がった状態で瞬間的な判断が必要なゲームをさせると、何も聞かせなかった場合より成績が良くなる、という研究結果もあるらしい。
赤ちゃんの泣き声は、単に「うるさい音」ではなく、人間の身体を「動ける状態」に切り替えるスイッチとして働いている。そう考えると、なるほどな、と思う。
音声って、本当に奥が深い。
こういう話を聞くたびに、まだまだ知らないことだらけだな、と感じる。
