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【アンチノミーコード】ANTINOMY:CODE 第9話『四つ目の椅子』


これまでのあらすじ

JUDGEの中に、一瞬だけ「ANTINOMY」と読める表示を見たトウマ。しかし、その記録はどこにも残っておらず、ミコトもその表示自体は見ていなかった。
《ANTINOMIE》という店名の過去とレイの曖昧な反応だけが残り、トウマは「答えが出ないこと」そのものを意識し始めている。

登場人物

鷹戸トウマ/17歳 TAKATO TOUMA
JUDGEへの違和感を深める高校生。《ANTINOMIE》へは、用事がなくても足が向くようになっている。

鷹戸ヒナ/15歳 TAKATO HINA
トウマの妹。現在、鷹戸家にはいない。失踪前後の記録には不明な点が残る。
鷹戸ミサキ/40代 TAKATO MISAKI
トウマの母。市立図書館で働いている。

凌田ハルカ/17歳 RYODA HARUKA
トウマの幼なじみ。昔から鷹戸家とも親しい。

叶目レイ/27歳 KANAME REI
《ANTINOMIE》にいる男。トウマの依頼で、ヒナに関する記録を探している。

久遠ジュン/31歳 KUON JUN
ライブハウス《ANTINOMIE》の店長。

光朔ユウセイ/19歳 KOSAKU YUSEI
《ANTINOMIE》を手伝う青年。人の世話を焼くことが多い。

1|プリン

夕食後。
「プリン買ってきたよ」
ミサキ。
冷蔵庫。
箱。
四個入り。
「食う」
「まだ何個食べるか聞いてないけど」
「一個だろ」
「そうね」
蓋。
開く。
ミサキの手。
一瞬。
止まる。
父。
母。
トウマ。
三人。
残り。
一個。
「……明日食えば」
「うん」
冷蔵庫。
戻す。
何も。
なかったみたいに。
テレビ。
本日の全国GOOD RATEは――
トウマ。
プリン。
食べる。
ダイニング。
椅子。
四つ。
一つ。
空。
ずっと。
そこにある。
「そういえば」
ミサキ。
「ハルカくん、最近元気?」
「元気」
「また連れてきなよ」
「何で」
「昔はよく来てたじゃない」
「小学生の話だろ」
「中学生でも来てたよ」
少し。
笑う。
「ヒナと三人で――」
止まる。
本当に。
一瞬。
「……ゲームしてたじゃない」
父。
テレビ。
トウマ。
プリン。
誰も。
その間を。
拾わない。
「覚えてねえ」
トウマ。
言う。
嘘。
覚えている。
かなり。
よく。

2|三人だった頃

『お兄ちゃんずるい!』
『うるせえ!』
『今の絶対見えてた!』
『見えてねえ!』
『ハルカも見たよね!?』
『見た』
『裏切んなハルカ!』
昔。
リビング。
トウマ。
ハルカ。
ヒナ。
三人。
ゲーム。
ヒナ。
負ける。
文句。
負けそう。
コントローラー。
トウマの膝。
『お兄ちゃんやって!』
『自分でやれよ』
『ボスだけ!』
『僕やろうか?』
『ハルカは優しすぎ!』
『何で怒られたの僕』
声。
大きい。
よく喋る。
すぐ怒る。
すぐ笑う。
冷蔵庫。
勝手に開ける。
人のアイス。
食べる。
トウマの部屋。
ノック。
しない。
『出てけ!』
『なんで!』
『俺の部屋だから!』
『家族じゃん!』
意味。
分からなかった。
今なら。
少し。
分かる。

放課後。
駅前。
「トウマ?」
ハルカ。
「何」
「聞いてなかったでしょ」
「聞いてた」
「僕、何て言った?」
「……ラーメン?」
「一言も言ってない」
「じゃ聞いてなかった」
ハルカ。
笑う。
数歩。
「ヒナのこと?」
トウマ。
足。
少し。
遅い。
「何で」
「なんとなく」
「エスパー?」
「幼なじみ」
「もっと怖い」
それ以上。
聞かない。
だから。
トウマの方から。
言う。
「昨日、母さんが名前出した」
「うん」
「久しぶりに」
「そっか」
「別に、言っちゃダメなわけじゃない」
「うん」
「でも」
言葉。
止まる。
「続かない」
「話が?」
「うん」
ヒナ。
名前。
その先。
家族。
誰も。
何を言えばいいか。
分からなくなる。
「まだ椅子、四つある」
ハルカ。
少し。
目。
伏せる。
「知ってる」
「片づけりゃいいのに」
「トウマは片づけたい?」
「……知らね」
「じゃ」
ハルカ。
「まだ、そのままでいいんじゃない?」
トウマ。
「お前までそれ言う?」
「何」
「分かんないなら決めなくていい、みたいな」
「僕、前からそうだけど」
確かに。
そうだった。

3|ヒナはヒナ

ラーメン屋。
また。
「ヒナさ」
トウマ。
「うん」
「お前のこと、好きだったよな」
「好きだったね」
「服とか、よく聞いてた」
「うん」
『ハルカ、これどっちがいい?』
『こっちかな』
『お兄ちゃんは?』
『どっちでもいい』
『聞いてない!』
『じゃ聞くなよ!』
「……うるさかったな」
「うるさかったね」
即答。
「そこ否定しろよ」
「事実だし」
トウマ。
笑う。
久しぶり。
ヒナの話。
笑った。
少し。
驚く。
「俺さ」
「うん」
「いなくなった人って」
言葉。
選ぶ。
「なんか、いい話だけ残りやすくない?」
ハルカ。
黙って。
聞く。
「優しかったとか」
「明るかったとか」
「でもあいつ」
「普通に性格悪い時あったし」
ハルカ。
「あったね」
「人のアイス勝手に食うし」
「僕のも食べた」
「マジ?」
「一口って言って半分」
「最悪」
「怒ると口悪かったし」
「それ俺に似た?」
「たぶん」
「嫌だな」
また。
笑う。
「でも」
ハルカ。
「ヒナはヒナだったよ」
トウマ。
見る。
「良いところもあった」
「うん」
「嫌なところもあった」
「うん」
「どっちかに決めなくていいんじゃない?」
昔。
泣きそうなハルカへ。
自分。
言った。
『ハルカはハルカだろ』
今度。
返ってきた。
気がする。
「……パクんな」
「何を?」
「知らね」
ラーメン。
来る。

4|用事のない店

その翌日。
放課後。
東央駅。
端末。
HOME
推奨帰宅。
17:42。
混雑。
低。
今日は。
《ANTINOMIE》へ。
用事。
ない。
レイから。
連絡。
なし。
仕事。
なし。
忘れ物。
なし。
トウマ。
画面。
閉じる。
数分後。
HELL方面。
電車。
座っている。
「……何しに行くんだよ」
本当に。
分からない。
でも。
降りる。
道。
もう。
迷わない。
扉。
開く。
ジュン。
「おかえり」
トウマ。
「ただいま」
「……」
止まる。
ジュン。
満面。
「今言った!」
「うるせえ!」
「ただいまって!」
「聞き間違い!」
ユウセイ。
奥。
「飯食う?」
「……食う」
「じゃ帰ってきた人の分も作る」
「帰ってねえ!」
ジュン。
笑う。
トウマ。
カウンター。
座ろうとして。
止まる。
椅子。
一。
二。
三。
四。
「増えてね?」
ジュン。
「ああ」
「いつ」
「昨日」
「何で」
「混むから」
それだけ。
トウマ。
四つ目。
座る。
家。
四つ目。
空いている。
ここ。
四つ目。
自分。
座っている。
同じ。
四。
なのに。
全然。
違う。

5|誰の席

焼きうどん。
食べる。
課題。
開く。
三分。
閉じる。
ジュン。
「早えな」
「今日は無理」
「いつならできる」
「知らん」
店。
静か。
誰も。
ヒナ。
聞かない。
ANTINOMY。
聞かない。
学校。
聞かない。
何か。
話せば。
聞く。
話さなければ。
そのまま。
しばらく。
客。
増える。
カウンター。
満席。
入口。
知らない男。
「座れない?」
トウマ。
反射。
立つ。
「どうぞ」
「いいの?」
「俺もう食ったから」
男。
座る。
トウマ。
端。
立つ。
少しして。
男。
帰る。
椅子。
空く。
トウマ。
また。
座る。
ユウセイ。
見る。
笑わない。
何も。
言わない。
トウマ。
椅子。
触る。
「これ」
ジュン。
「何」
「俺用?」
「違う」
即答。
「客用」
「俺も客じゃん」
「じゃ、お前用でもある」
トウマ。
「何それ」
「誰か専用じゃねえってこと」
「じゃ俺の場所じゃない?」
ジュン。
「お前が座ってる間は、お前の場所だろ」
トウマ。
少し。
黙る。
家の。
空いた椅子。
誰も。
座らない。
ここの。
四つ目。
誰でも。
座る。
居場所って。
名前。
貼らなくても。
できる。
のかもしれない。

6|断片

翌日。
《ANTINOMIE》。
レイ。
いた。
トウマ。
入るなり。
「ヒナ」
「挨拶より先?」
「進んだ?」
レイ。
いつもの。
笑顔。
少し。
薄い。
「中央側の断片」
「うん」
「名前が一つ、引っかかった」
トウマ。
止まる。
「ヒナ?」
「TAKATO HINA」
心臓。
速い。
「見せて」
「まだ」
「何で」
「本人の記録か確定してない」
「名前同じだろ」
「名前だけならね」
「でも」
「周囲の記録に名前が残ってるだけかもしれない」
「別人かもしれない」
「参照先が壊れてるかもしれない」
トウマ。
「全部見せろよ」
レイ。
「見つけた順に?」
「当たり前だろ」
「間違ってるかもしれない情報も?」
「……」
「途中だけ見て」
レイ。
「君が答え作らない?」
 
『十五秒。』
 
『六十一。』
C
一瞬だけ見た。
『ANTINOMY。』
 
見えたもの。
全部。
答え。
ではない。
 
トウマ。
「……ムカつく」
「うん」
「でも」
「うん」
「確認取れたら、絶対見せろ」
レイ。
少し。
真面目。
「それは約束する」
それ以上。
聞かない。
 
今日。
無理に。
答え。
取りにいかない。
自分でも。
少し。
変わったと思う。

7|開ける

夜。
家。
二階。
廊下。
自分の部屋。
その奥。
閉じた扉。
ヒナの部屋。
いつも。
通り過ぎる。
今日は。
止まる。
ドアノブ。
手。
動かない。
鍵。
ではない。
自分。
止めている。
少し。
待つ。
回す。
扉。
開く。
匂い。
机。
ベッド。
本棚。
鞄。
服。
写真。
ミサキが。
時々。
掃除。
綺麗。
綺麗すぎる。
生活。
保存。
人だけ。
いない。
 
机。
写真。
 
小さな黒い額縁。
ヒナだけの写真。
 
その横に別の写真。
父、母、俺、ヒナ。
小学生くらいの頃。
遊園地。
 
他の写真。
トウマ。
ヒナ。
ハルカ。
三人。
ヒナ。
変な顔。
「アホ」
 
 
廊下。
足音。
ミサキ。
扉の前。
「あ」
「……入った」
「うん」
入ってこない。
「掃除してる?」
「たまに」
「いつまで?」
口。
出る。
ミサキ。
少し。
目。
伏せる。
「分かんない」
「ずっと?」
「分かんない」
トウマ。
「……そっか」
「片づけたい?」
「分かんない」
「じゃ」
ミサキ。
「まだ、このままでいいんじゃない」
また。
同じ。
トウマ。
少し。
笑う。
「みんなそれ言うな」
「何?」
「別に」
ミサキ。
階段。
下りる。
トウマ。
一人。
机。
引き出し。
文房具。
プリント。
三段目。
古い端末。
「……残ってたのか」
ヒナ。
昔の端末。
充電。
起動。
家族用。
保管アクセス。
しばらく。
迷う。
開く。
写真。
動画。
通知。
メッセージ。
最後の日付。
一年前。
未送信。
DRAFT
宛先。
お兄ちゃん
本文。
今日帰ったらちゃんと話そ。
トウマ。
呼吸。
止まる。
あの日。
朝。
玄関。
喧嘩。
ほとんど。
口。
利かない。
『行ってら』
ヒナ。
少し。
間。
『……行ってきます』
最後。
だった。
端末。
伏せる。
一年前。
そこから先。
まだ。
身体が。
拒否する。
小さく。
振動。
ARCHIVED PROFILE
閲覧可能。
ほとんど。
ない。
一つ。
JUDGMENT HISTORY AVAILABLE
指。
止まる。
開けば。
何か。
分かる。
かもしれない。
 
ヒナの最後。
 
JUDGEが。
どう見ていたか。
少なくとも。
記録。
一つ。
ある。
トウマ。
 
思い出す。
GOODになったあと。
消えた。
二秒。
 
見えたもの。
履歴に。
残らなかったもの。
記録がある。
だから。
全部。
ではない。
記録がない。
だから。
なかった。
でもない。
トウマ。
指。
離す。
「……今日は、いい」
画面。
閉じる。
初めて。
答えがあるかもしれない場所から。
自分で。
離れた。

8|四つ目

翌朝。
朝食。
父。
母。
トウマ。
椅子。
四つ。
一つ。
空。
昨日のプリン。
一個。
ミサキ。
「これ誰か食べる?」
「俺」
「朝から?」
「残り」
父。
新聞端末。
顔。
上げる。
「ヒナなら朝でも食べてたな」
全員。
止まる。
父本人。
一番。
驚いている。
トウマ。
数秒。
「つーか」
「昨日の夜に食ってるだろ」
ミサキ。
吹き出す。
「そうかも」
父。
少し。
笑う。
「名前書いてても食うからな」
「何回やられたと思ってんだよ」
「冷蔵庫に入れた時点で共有財産だと思ってたんじゃない?」
「最悪」
三人。
笑う。
ほんの。
少し。
椅子。
四つ。
一つ。
空。
それは。
変わらない。
でも。
今日は。
その椅子の前で。
ヒナの話。
続いた。
いないことにしない。
良い子だけにも。
しない。
悪いところも。
笑う。
全部。
答えにしない。
ヒナは。
ヒナ。
それだけ。
トウマ。
プリン。
一口。
甘い。
端末。
振動。
メッセージ。
レイ。
『一つ、確認取れた』
次。
『今日、来れる?』
トウマ。
指。
止まる。
その下。
もう一件。
『ヒナさんの記録』
空いている。
四つ目の椅子。
見る。
昨日。
開かなかった。
JUDGMENT HISTORY。
今日。
レイが。
見つけた。
中央側の記録。
同じもの。
なのか。
違うもの。
なのか。
分からない。
トウマ。
返信。
『行く』
送る。
四つ目の椅子は。
まだ。
空いたまま。
でも。
その日。
トウマは。
初めて。
そこに帰ってくる人のことを。
怖がるだけではなく。
知りたいと。
思った。
 
 
NEXT→|■■■■■■■■■■■■■■

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