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【ランニングと筋トレの科学 第5回】|筋トレをやると、持久力は落ちるのか?

筋トレを練習に足したい。でも、走りが重くなったり、持久力が削られたりしないか。そんな不安から、なかなか踏み切れない指導者は多い。限られた練習時間を筋トレに回せば、そのぶん走り込みは減る。筋肉をつければ体は重くなる。持久力と筋力は、片方を取れば片方が削れる、相反するものではないのか。この迷いは根強い。

ここまで、筋トレがレース終盤の効率を保つこと、どんな筋トレが効くか、なぜ効くか、跳躍系の置き場所まで見てきた。どれも「筋トレを足す」ことを前提にした話だった。だが現場の本音には、その前提への不安がある。足すことで、肝心の持久力側が損なわれないのか。今回は、筋トレと持久トレを同時に行ったとき何が起きるかを、大規模に統合した研究を読む。

同時にやると打ち消し合うのか

題材は、Huiberts らが2024年に発表した系統的レビューとメタ分析だ。事前に計画を登録(PROSPERO)したうえで、健康な成人を対象に、筋トレと持久トレを同時並行で行う「コンカレントトレーニング」の効果を統合している。集めたのは59研究、のべ1346名と大規模だ。

ここで鍵になるのが「干渉効果」という言葉だ。筋トレと持久トレを同じ期間に併せて行うと、片方だけをやったときより、筋力(やVO2max)の伸びが鈍ることがある。これを干渉効果と呼ぶ。分子レベルでは、持久運動の刺激が筋肥大の経路を抑える、といった説明が知られているが、機序はまだ確定していない。

この研究の新しさは、その干渉を「誰に出るか」で切り分けた点にある。性別と、もともとの鍛え方のレベル別に、干渉の出方を比べている。

干渉は思ったより限定的だった

結果は、干渉への不安をいくらか和らげるものだった。

干渉がはっきり出たのは、男性の下半身の筋力だけだった。標準化した差で −0.43、つまり同時にやると下半身の筋力の伸びがやや鈍る。ところが女性では、この干渉が見られなかった。上半身の筋力や、パワー、そして持久力の指標であるVO2maxには、男女ともに有意な差は出ていない。

持久力側に目を向けると、もっと安心できる。VO2maxの伸びが鈍ったのは、未鍛錬の人だけだった。すでに鍛えられた持久アスリートでは、筋トレを同時にやってもVO2maxの伸びは損なわれていない。つまり、走り込んできた選手が筋トレを足しても、持久力側はほぼそのまま、という構図だ。

冒頭の不安に、ここで一つの答えが返る。筋トレで持久力が削られる、という心配は、少なくとも鍛えたランナーには当てはまりにくい。干渉は、出るとしても主に「男性の下半身の筋力の伸び」に、しかも小さく出るだけだった。

「ランナーの燃費」を測った研究ではない

安心材料に見えるが、この研究の射程を正しく押さえておきたい。

まず、測っているのは筋力・パワー・筋肥大・VO2maxであって、ランニングエコノミー(走りの燃費)ではない。対象も、ランナーに限らない健康な成人だ。だからこの研究は「筋トレを足してもランナーの燃費が落ちない」を直接示したわけではなく、「同時にやっても筋力やVO2maxの伸びはあまり打ち消されない」という、一段手前の安心材料だと読むのが正確だ。

著者自身も限界を認めている。女性を対象にした研究や、高度に鍛えられた選手のデータはまだ少なく、性差の結論は暫定的だ。束ねた59研究は集団もプロトコルも多様で、異質性がある。筋肥大に至っては、データが足りず結論が出せなかった。

それでも、「同時にやると大きく打ち消し合う」という強い干渉の像は、この統合では支持されなかった。不安の輪郭を、現実的な大きさに描き直してくれる研究だ。

干渉という不安をどう見積もるか

この研究の価値は、漠然とした「両立できないのでは」という不安を、測れる大きさに落とし込んだ点にあると思う。

干渉は、あるにはある。だが出る場所は限られていた。男性の下半身の筋力の伸びに、小さく。持久力側のVO2maxは、鍛えた選手ではほぼ無傷だった。現場の感覚で言えば、走り込んできた選手が筋トレを足したとき、心配すべきは「持久力が落ちること」より、むしろ「筋力の伸びが少し控えめになること」のほうだ、と読める。そして筋力側の伸びが多少控えめでも、これまでに見たとおり、走りの効率や終盤の粘りには効いてくる。

性別で出方が違った点は、現場では覚えておく価値がある。女性では下半身の干渉が見られなかった。ただ、ここで踏み込みすぎないようにしたい。これは「干渉という現象が誰に出るか」の話であって、「女性で筋トレがどれだけ効くか」とは別の問いだ。女性ランナーでの実際の効果は、それを正面から測った研究を次回で見る。ここでは、干渉の地図に女性という軸を一つ加えた、というところにとどめておく。

未鍛錬者でVO2maxの伸びが鈍った、という所見も示唆に富む。鍛えられた選手で干渉が出にくいのは、土台ができているからかもしれない。だとすれば、筋トレを足すタイミングや、選手の習熟度が、干渉の出方に関わってくる。一律に「両立できる・できない」で語れる話ではなさそうだ。

不安をどう扱って組むか

この研究を現場に引きつけると、過剰な干渉の心配を手放して組む、という方向性が見えてくる。

まず、鍛えられた選手については、筋トレを足すことで持久力が削られる、という前提を一度外していい。VO2maxの伸びは、同時にやってもほぼ保たれる。だから「走り込みを減らしてまで筋トレを入れるべきか」と身構えるより、持久トレの土台を保ったうえに筋トレを乗せる、という発想で組むほうが、研究の傾向とかみ合う。心配すべきは持久力側ではなく、筋力側の伸びが少し控えめになりうること。そこは織り込んでおけばいい。

選手の習熟度による違いも、組み方の手がかりになる。土台のできた選手と、まだ走り込みが浅い選手とでは、干渉の出方が変わりうる。走力の土台がまだ薄い選手では、まず持久の土台を固めることを優先し、筋トレはそこに少しずつ重ねる、という順序が考えやすい。器具のそろう環境でも限られた環境でも、この「土台を保って乗せる」という考え方自体は変わらない。

具体的に週何回・どの順序で組むかは、選手の段階や時期で変わるので、ここでは方向性までにとどめる。押さえておきたいのは、干渉を過大に見積もって筋トレを避けるより、現実的な大きさに見積もって両方を組む、という構えだ。

打ち消し合いは思ったより小さい

筋トレをやると持久力が落ちるのでは、という不安は根強い。だが大規模に統合してみると、その打ち消し合いは、想像よりずっと小さかった。

干渉が出たのは男性の下半身の筋力に、しかも小さく。鍛えた選手の持久力は、同時にやっても保たれていた。両立できないどころか、土台を保ったまま筋トレを乗せられる余地のほうが大きい。不安を手放すための材料は、ここに揃っている。残るのは、その筋トレが「誰に」効くのか、という問いだ。男性のデータが多いこの分野で、女性ランナーではどうなるのか。次回、正面から確かめたい。

出典
Huiberts RO, Wüst RCI, van der Zwaard S. (2024). Concurrent Strength and Endurance Training: A Systematic Review and Meta-Analysis on the Impact of Sex and Training Status. Sports Med, 54(2), 485-503. https://doi.org/10.1007/s40279-023-01943-9

研究費
本研究・著作・出版に対する金銭的支援は受けていないと明記されている。

利益相反
著者3名は、本論文の内容に直接関係する利益相反はないと明記している。

読む際の留意点
事前登録(PROSPERO)された大規模な系統的レビューとメタ分析だが、測っているのは筋力・パワー・筋肥大・VO2maxであり、ランニングエコノミー(走りの燃費)ではない。対象もランナーに限らない健康な成人で、「ランナーの燃費が落ちない」を直接示したものではない。女性や高度に鍛えられた選手のデータは少なく、性差の結論は暫定的(著者明記)。束ねた59研究は集団・プロトコルが多様で異質性がある。筋肥大はデータ不足で結論が出ていない。この研究が示すのは「同時にやっても筋力やVO2maxの伸びは大きくは打ち消されない」という傾向で、干渉がゼロという意味ではない。

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