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#9 脳の疲労——考えることで、なぜ疲れるのか第2章 メカニズム編

◼️|#9 脳の疲労——考えることで、なぜ疲れるのか

第2章 メカニズム編

「カラダは動いているのに、頭が疲れて何も考えられない」

「別に重労働をしたわけじゃないのに、夕方にはもうぐったりしている」

「仕事が終わったあと、ただ画面を眺めるだけで精一杯」

こういう経験をしたことがある方は多いと思います。

精神的な疲労は、
筋肉の疲労ほど目に見えないし、
「氣のせい」「怠けているだけ」と思われやすいものです。

でも、これは氣のせいではありません。

脳は、考えることで、
エネルギーを消費し、疲労します。
そのメカニズムははっきりと存在しています。

今回は「脳の疲労」の正体を見ていきたいと思います。


◼️|脳はどれだけエネルギーを使っているか

まず、脳がどれほどエネルギーを使う器官かを確認しておきましょう。

脳の重さは体重のわずか2%ほどです。
しかし、カラダ全体が消費するエネルギー(ブドウ糖)の約20%を脳が使っています。
これは安静にしているときの話です。

脳は24時間、意識があってもなくても、
エネルギーを消費し続けています。

そして、精神的な作業
(判断する、集中する、感情を抑える、人と話す、氣を遣う)では、特定の脳領域のエネルギー消費がさらに高まります。

「考えるだけで疲れる」は、比喩ではありません。文字通り、エネルギーが使われているのです。


◼️|脳の「デフォルトモードネットワーク」

少し専門的な話をします。

脳には「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と呼ばれる領域があります。これは、何かに集中しているときではなく、ぼんやりしているときに活動する脳のネットワークです。

「何もしていない」ときでも、脳は休んでいません。

DMNが活動し、
過去の記憶を整理したり、
未来のシミュレーションをしたり、
自分や他者について考えたりしています。

問題は、DMNが「心配」や「反芻(同じことをぐるぐると考え続けること)」の場でもあるという点です。

仕事が終わって帰宅しても、

「あの言い方は失礼だったかな」
「明日の段取りは大丈夫か」
「親の具合はどうだろう」

こういった思考が止まらないとき、
脳は「休んでいるつもりなのに休めていない」状態にあります。
DMNがフル稼働しているのです。

カラダを動かしていなくても、
脳は消耗し続け、
氣づいたときには深く疲弊しています。

これが「精神的疲労」の正体のひとつです。


◼️|「意思決定疲れ」という現象

もうひとつ、脳の疲労に深く関わるのが
「意思決定疲れ(Decision Fatigue)」です。

人は一日に無数の判断をしています。

朝食は何にするか。
メールにどう返すか。
子どもに何を着せるか。
買い物で何を選ぶか。
親にどう声をかけるか。

一つひとつは小さな判断に見えても、
脳にとってはエネルギーを使う作業です。

そして、判断を重ねるほど、
脳の判断機能は低下していくことが研究で示されています。

✔︎ 夕方になると、些細なことでイライラしやすくなる。
✔︎ 夜に衝動買いをしてしまう。
✔︎ つい楽な選択肢(テイクアウト、スマホ、甘いもの)に流れてしまう。

これらは意志が弱いのではなく、
一日かけて積み上がった
「判断の疲れ」が原因であることが多いのです。

特に、家事と育児と介護と仕事を抱えている方は、判断の総量が膨大になりやすい状況にあります。

「大きな決断」だけが、
脳を疲れさせるわけではありません。
小さな判断の積み重ねが、静かに脳を削っていきます。


◼️|感情労働と脳の疲労

脳の疲労を語るうえで、
「感情労働」の話は外せません。

感情労働とは、
自分の感情を抑えたり、
相手に合わせた感情を表現したりすることを求められる作業です。
医療・介護・サービス業・教育職の方は、
職業的にこれを担っていますが、
家族の中でも同じことが起きています。

親の愚痴に付き合う。
子どものぐずりに冷静に対応する。
夫や妻の機嫌を読む。
職場で感情を押し殺して対応する。

自分の感情を「管理」することは、
脳の前頭前皮質(判断・制御・集中を担う領域)を継続的に使う作業です。この領域は、疲労に対して特に敏感だと言われています。

感情を抑えること自体が、
エネルギーを消費するため、
感情労働が多い方は、
「別にカラダは動かしていないのに、どうしてこんなに疲れるんだろう」という状態になりやすいのです。

「氣を遣うことで疲れる」は、まったく正当な疲労です。


◼️|脳の疲労が「疲労感」に出にくい理由

ここで、第1章の「疲労と疲労感は別物」という話に戻ってきます。

脳の疲労には、奇妙な特徴があります。
筋肉の疲労と違い、
「疲れた」という感覚としてはっきり出にくいことがあるのです。

脳は、自分自身の疲労を過小評価する傾向があります。

特に、集中している状態や緊張している状態では、疲労感が抑制されます。

やりがいのある仕事をしているとき、
緊急性の高い対応をしているとき、
「まだいける」と感じながら、
脳は確実に消耗しています。

そして、その緊張が解けたとき、
たとえば、週末の朝、休日の昼、仕事が一段落した瞬間などに、どっと疲れが出ます。
「なんで休みの日のほうが疲れるんだろう」と感じる方がいますが、それはこの「疲労感の遅延」によるものです。

脳は、正直に疲れを教えてくれません。
だから、感じてから対処するのでは遅いことがあります。


◼️|脳の「ゴミ取りシステム」と睡眠

もうひとつ、脳の疲労を理解するうえで重要な発見をご紹介します。

2013年、ロチェスター大学のチームが発見した
「グリンパティックシステム」です。

脳には独自の老廃物除去システムがあり、
脳脊髄液が、脳内を流れて、
代謝産物を洗い流しています。

そして、このシステムは、
主に睡眠中、
特に深い睡眠の間に活発に働くことが明らかになっています。

睡眠中、脳細胞は、
収縮して細胞間のスペースが広がり、
脳脊髄液が流れやすくなります。

このとき、アルツハイマー病に関係するとされる
”アミロイドβ” などの老廃物が効率よく除去されます。

つまり、睡眠は、
脳にとって「ゴミ収集の時間」なのです。

この掃除が不十分になると、
老廃物が蓄積し、脳の機能が低下します。

「寝不足が続くと頭がぼんやりする」のは、
比喩ではなく文字通り、
脳内に老廃物が溜まっている状態です。

グリンパティックシステムの発見は、
比較的新しく、人間での詳細なメカニズムはまだ研究途上の部分もあります。

しかし、睡眠が脳の回復に不可欠であるという事実を、細胞レベルで裏付ける重要な知見です。


◼️|「脳を休める」とはどういうことか

ここまでの話を踏まえると、
「脳を休める」というのが単純ではないことがわかります。

スマートフォンを見ることは、
脳を休めていません。
次々と流れる情報を処理し、
感情を動かされ、反応し続けています。

テレビを見ることも、
受動的な刺激の受け取りという点では、脳への入力は続いています。

本当に脳が休まるのは、
外部からの情報入力が減り、

DMNが「心配や反芻」ではなく、
穏やかな内省に向かっているときです。

自然の中を歩く、
静かに座る、
単純な作業に没頭する。
こういった時間が、脳には必要です。

「何もしない」ことへの罪悪感を持ちやすい方ほど、脳の休息が不足しやすい傾向があります。

回復のための具体的な方法は、第4章で詳しく扱います。

今はまず、「脳も疲れる、そして脳の疲れは感じにくい」という事実を知っておくことが出発点です。


◼️|脳が休めないのは、カラダが固まっているからかもしれない

呼吸が浅くなると、自律神経が乱れます。
姿勢が崩れると、脳への信号が変わります。

頭だけ休めようとしても、
カラダが凝り固まったままでは限界があります。

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◼️|著者より

闘病中は、もちろん長い療養期間中、
「カラダを全然動かしていないのに、毎日なんでこんなに疲れるんだろう」と思っていました。

痛みへの注意、次の処置への不安、将来への不安、日々の細かな判断。それらすべてが脳に負荷をかけていたのだと、今ならわかります。

特に「感情を抑える疲れ」は大きかったはずです。
周囲に心配をかけたくなくて、
「大丈夫」という顔を作り続けていました。
その感情労働が、どれほど脳を削っていたか。

脳の疲労は見えません。
だから自分でも氣づきにくいし、
周囲にも伝わりにくい。
でも、見えないからといって、
存在しないわけではありません。

「なんでこんなに疲れるんだろう」と思っている方に、この記事が「疲れるのには、ちゃんと理由がある」という答えになれば、それで十分です。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


◼️|次回(#10) 炎症と疲労——カラダの火事はなぜ消えないのか

慢性炎症が疲労にどう関わるか、免疫系の視点から掘り下げます。


◼️|この記事が役に立ったと感じていただけた方へ

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