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plastic_girl
【短編小説】波の音
そうだ、海に帰ろう。
どこかで聞いたフレーズの調子で、私はそう思った。私の実家が海にあるわけでもないし、海出身というわけでもない。ただ、あの真っ青な波のなかへ溶けてゆけたら、気持ちいいだろうなと思ったからだ。
仕事を休んで、海へ行った。徒歩で2時間くらいだっただろうか。手荷物は何も持たずに。スマホも、財布も、身分証明書も。ただ、薄いTシャツとショートパンツだけが肌に張りついた。
海についてしまった。あれだけ渇望していたのに、目の前にしてみると、どうしたらいいのか分からなくなった。
私を、私たるものは一体なんなのだろう。海に溶けてしまえば、ちっぽけな私の成分なんか、すぐになくなってしまうだろう。そこに私があったことなど、誰も知る由はないだろう。
日差しが痛いくらいに照りつけている。喉が乾いたので、帰ろうと思ったが、そういえばスマホも財布もないことに気づいた。
一歩ずつ、歩いて帰った。自販機を横目にみて、ますます喉が乾いた。私は生きていた。
