CRM配信を増やすほど、顧客が戻らなくなる理由。
反応が落ちてきたから、配信を減らそう。
CRMの現場で、この判断はよく行われる。開封率が下がり、解除も増えてきた。送りすぎたのだろう、と。
だが、実際のデータを見ると、この判断はたいてい間違っている。
配信を減らしても、顧客は戻ってこない。
まず、「送りすぎ」という前提そのものを検証したい。
「頻度が多いと解除される」は、思い込みだった
318社・25,639件のメールを分析した調査がある。
そこでは、こう結論づけられている。「配信頻度を高めると配信解除率が上がるのではないか」という声は多いが、実際のデータは逆で、配信頻度が高いほど解除率は低かった。
https://webtan.impress.co.jp/n/2021/08/31/41443
別の分析でも、同じ傾向が出ている。解除率が低いグループ(0.03%未満)の配信頻度は週2.36回。一方、解除率が高いグループ(0.3%以上)は週1.42回と、むしろ少ない。
つまり、送る回数が多いから嫌われている、という関係は成立していない。

では、何が解除を招いているのか。
先の調査は、明確に答えている。配信解除率を高める要因は、メール内容と顧客ニーズ・配信リストのミスマッチのほうが大きい。
顧客が嫌がっているのは、頻度ではない
これを裏づける調査がもう一つある。
企業からのメールにストレスや不満を感じた要因を聞いたところ、最も多かったのは「自分に関係のない内容だった(35.8%)」。次いで「配信頻度が多すぎる(32.6%)」「読みにくい/長すぎる(29.8%)」だった。
1位は頻度ではなく、関係のなさだ。
ここが本質だと思う。人は、自分に関係のある情報なら、毎日届いても読む。関係のない情報は、月に1通でも煩わしい。
問題は量ではなく、宛先と中身が合っていないことだ。
そして、関係のない内容を配信し続けると、顧客の中で学習が起きる。「この会社からのメールは、自分には関係ない」。一度そう分類されると、次からは件名すら読まれなくなる。
解除ボタンを押されないまま、実質的に届かなくなる。
減らしても、関係は戻らない
ここで、冒頭の判断に戻りたい。
反応が落ちたから配信を減らす。この対応が効かない理由は、もう明らかだと思う。原因が頻度ではないなら、頻度を下げても解決しない。
むしろ、逆効果になることがある。
ある分析では、配信頻度が2週間に1回以下と少ない場合、解除率が0.21%と高くなっていた。週2〜3回の0.07%と比べると、3倍だ。
理由は想像できる。頻度が下がると、そもそも誰からのメールか思い出せなくなる。「登録した覚えがない」と感じられれば、解除される。
接触を減らすと、忘れられる。忘れられた相手からのメールは、迷惑メールと区別がつかない。
減らすことで守れるのは、送り手の気分だけかもしれない。
ただし、増やせばいいわけでもない
一方で、いくらでも増やしていいわけではない。
同じ調査は、週4回以上送ると開封率やクリック率が下がる傾向を示している。数値を落とさない頻度として、週2〜3回が挙げられている。
解除はされないが、読まれなくなる。これも困る。
つまり、頻度には上限がある。ただしそれは「嫌われる限界」ではなく、「読まれる限界」だ。解除されないまま無視される状態は、解除より厄介かもしれない。 リストには残っているので、送り続けてしまう。
なお、この週2〜3回という目安も、商材によって大きく変わる。ニュース系メディアなら毎日、アパレルやコスメなど購買頻度の高い商品なら週1回以上。一方、自動車やBtoBなど高単価で購入頻度の低い商材では月1〜2回が目安とされる。
自社の商材の購買サイクルより速く送っても、送る内容がなくなる。そして、内容がないのに送れば、それは「関係のない配信」になる。
増やすべきは回数ではなく、関係のある配信の割合
ここまでを整理すると、打ち手ははっきりする。

減らすべきは、関係のない配信。増やすべきは、関係のある配信。
全体の回数を上下させる議論は、この区別をしていない。関係のない配信を減らせば反応は戻るが、関係のある配信まで一緒に減らせば、忘れられる。
具体的な手段は、セグメント配信になる。顧客を属性や行動で分類し、それぞれに合った内容を届ける。
ある解説は、その効果をこう説明している。それぞれのセグメントに関連性の高い内容を配信することで、「内容に興味がない」という理由での配信停止を防ぐ。
ただし、セグメント配信は運用が続かないことでも知られている。うまくいかず一斉配信に戻る主な原因として、「設定が複雑」「データが整備できていない」「属人化」が挙げられている。
だから、最初から精緻に分ける必要はないと思う。購入履歴があるかないか、直近3ヶ月に反応したかどうか。この程度の分け方でも、全員に同じものを送るよりはるかにマシになる。
見るべきは、解除率より「沈黙」
最後に、指標の話をしたい。
配信の健全性を測るとき、多くの会社は解除率を見る。だが、解除率は低いのに反応がない、という状態がある。これがいちばん危ない。
解除は、まだ意思表示だ。関心がないと伝えてくれている。だが、無視は何も教えてくれない。 リストに残ったまま、開封されないメールが積み上がる。
そして、この状態は配信の到達そのものにも影響する。開封率やクリック率が極端に低いと、送信元の評価が下がり、迷惑メールと判定されやすくなる。
反応のない相手に送り続けることは、まだ反応している相手への到達を、自ら悪化させていることになる。
だから、追うべきは解除率ではない。一定期間まったく反応していない層がどれだけいるか。その層に、なぜ届かなくなったのか。ここを見ないまま総配信数を追えば、リストは静かに死んでいく。
確かめる観点

1|反応低下の原因を、頻度だと決めつけていないか
データ上、頻度と解除率に単純な相関はない。むしろ頻度が低いほうが解除されやすい。原因を頻度に求めて配信を減らすと、忘れられて終わる。
2|「関係のなさ」に手を打っているか
ストレス要因の1位は「自分に関係のない内容」。全員に同じものを送っていないか。購入履歴の有無、直近の反応の有無。粗くてもいいので、分けられているか。
3|沈黙している層を、把握しているか
解除率だけを見ていないか。一定期間まったく反応していない層がどれだけいるか。その層に送り続けることが、届いている相手への到達を悪化させていないか。
まず見るべきは1つ目。原因を取り違えたまま量を調整しても、関係は戻らない。
量の議論から、降りる
配信頻度は、社内で議論になりやすい。多すぎるのではないか、少なすぎるのではないか。
だが、データが示しているのは、この議論があまり生産的ではないということだ。顧客が反応しなくなるのは、送られる回数ではなく、送られてくる中身が自分に関係ないからだ。
回数を調整しても、関係のなさは変わらない。
増やすか減らすかを決める前に、いま送っているものが、誰にとって関係のある内容なのかを確かめるほうが早いと思う。
「反応が落ちてきたから、配信を減らそう…」
その判断は、たぶん効かない。
顧客は送られすぎて離れたのではなく、自分に関係のないものを送られ続けて、見なくなっただけだ。
減らすべきは回数ではなく、関係のない配信のほうだ。
「配信の中身と宛先」を、一緒に設計する
「配信を増やしても減らしても、反応が改善しない」「解除率は低いのに、開封されない」「セグメント配信を試したが、運用が続かなかった」——そんなご相談を受けています。量の調整ではなく、宛先と中身の設計から組み替える。その意思決定を、意思決定の編集者として、経営者と並んで進めています。顧問・アドバイザリーとして請けているほか、noteとあわせて、毎週配信中のニュースレター(theLetter)では、こうした思考を継続的に届けています。
ニュースレターのご案内
経営やマーケティングの現場で見てきた 「マーケティング」「ブランディング」「新規事業」「事業グロース」等 の話を、構造化して書いていきます。noteと合わせて、ぜひご覧ください。
「Business Growth Letter」
お知らせ
📝Business Growth Club
SNSに出せない経営・マーケティング・ブランディング・事業グロースの裏側、業界の構造、顧問・アドバイザリーとして見てきたリアル——を、毎週書いています。Business Growth Club に入れば、過去記事含めすべて読み放題です。メンバー限定のSlackにも参加可能です。
→ Business Growth Club に参加する
🏢 個別の壁打ちを求める経営者の方へ
法人向けに、個別の壁打ちや経営支援が必要な方はこちらプランへ。「ブランディング・マーケティングの判断・実行プロセスの改善」も含めて、現場で一緒に考えます。月1回のオンライン壁打ちの他、専用のSlackチャネルで随時チャットで日常相談も可能です。(有料の過去記事も読み放題→社内共有も可能)。
→ 法人向けグロース顧問支援プラン
📚 著書『設計と編集シリーズ』
──設計と編集シリーズ(全5作)。生成AI時代のマーケティングと、事業グロースの設計について書いた書籍シリーズです。
・PDF版無料配布中
・Kindle版99円で販売中
・POD(ペーパーブック)版1,980円で販売中
🚀 Marketing-OS
書籍『設計と編集』シリーズ連動の、マーケティングの意思決定を構造化するAI CMO搭載SaaS(BPOプランもあり)。
意思決定を最高到達点へ。
サイト・CRM・SFA・広告・SNSのデータを横断して観測・分析し、KPIや施策の矛盾を診断、判断を蓄積する。AI CMOを搭載した、マーケティング組織を強化するためのOSです。
その他、相談・依頼はこちら
まずは気軽に、HPやオフィシャルウェブサイトをご覧いただき ご連絡ください。各種SNSのフォローやDMも大歓迎です。
Start-X ,Inc.(HP)
山口偉大(Takehiro Yamaguchi):オフィシャルウェブサイト
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます! 