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水面心理相談室#25「誰かが不機嫌だと、自分が悪い気がする心理」心理学|HSP|人間関係

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この番組は、読むラジオをテーマに、皆様からお寄せいただいたお便りの中から、ひとつの心の悩みを取り上げ、朝倉と相馬が心理学の視点を交えながら、静かに言葉を交わしていく相談室です。

すぐに答えを出すためではなく、心の奥に沈んだ言葉を、少しだけ水面まで浮かべるための時間。

今夜も、ひとつのお便りから始めます。

朝倉
「それでは、本日のお便りです。」

「職場でも家でも、誰かが不機嫌そうにしていると、すぐに自分のせいではないかと考えてしまいます。

ため息をつかれただけで、何か悪いことを言ったかなと思う。
返事が少し冷たいだけで、嫌われたのかもしれないと思う。

何も言われていないのに、自分の言動を思い返して、必要以上に話しかけたり、謝ったり、相手の機嫌を直そうとしてしまいます。

本当は、私とは関係のないことで疲れているだけかもしれません。

それでも、誰かの機嫌が悪い空間にいると、落ち着かないんです。

どうして私は、相手の不機嫌まで自分の責任のように感じてしまうのでしょうか。」

朝倉は、便箋を置いた。

何も言われていない。
何も起きていない。

それなのに、この人の心の中では、もう謝罪が始まっている。

朝倉
「何も言われていないのに、心の中ではもう謝っているんですね。」

相馬
「うん。相手の不機嫌を見つける力が、自分を責める力に変わってしまっているんだと思う。」

朝倉
「でも、相手の声や表情が変わったら、気になるのは自然ではないですか?」

相馬
「気づくことは自然だよ。ただ、気づけることと、自分が原因であることは、まったく別の話なんだ。」

相馬
「まず言っておきたいのは、不機嫌に気づく力そのものは、弱さじゃないということ。」

声のトーンが、いつもと少し違う。
ドアの閉め方が、少しだけ強い。
返事までの間が、いつもより長い。

そういう小さな変化を読み取れるのは、周囲をよく見てきた人の力です。

でも、その力が苦しみに変わる瞬間がある。

不機嫌を見つける。
自分が原因だと思う。
自分が直さなければと思う。

相馬
「この三段目まで、ほとんど自動で進んでしまうんだ。気づいた瞬間には、もう責任を感じている。」

朝倉
「気づく力と、責任を感じる癖が、くっついてしまっている。」

相馬
「そう。でも、もともとは別のものなんだよ。」

朝倉
「その癖は、どこで身についたのでしょう。」

相馬
「多くの場合、誰かの機嫌を早く察知することが、自分を守る方法だった時期があるんだ。」

怒られる前に謝る。
空気が悪くなる前に笑わせる。
揉める前に、自分が引く。

家庭で。
学校で。
かつての職場で。

誰かの機嫌の変化にいち早く気づいて、先に動くことで、その場を無事にやり過ごしてきた。

相馬
「あの頃は、それが正解だったんだと思う。機嫌を読む力は、自分を守る力だった。」


朝倉
「#24でも出てきた、古い警報に近いですね。」

相馬
「うん。危険がなくなった今も、警報だけが鳴り続けている。ため息ひとつで、昔と同じ回路が動いてしまうんだ。」

朝倉
「では、実際に誰かが不機嫌だったとき、どう考えればいいのでしょう。」

相馬
「まず、思い出してほしいのは、相手には相手の一日がある、ということ。」

仕事で疲れているのかもしれない。
体調が悪いのかもしれない。
別の誰かとの出来事を、引きずっているのかもしれない。

あなたが部屋に入る前から、その不機嫌は始まっていたのかもしれない。

相馬
「相手の不機嫌を感じ取ったとしても、そこにあなたの名前が書かれているとは限らないんだ。」

朝倉
「それでも、確かめずにはいられない人もいると思います。」

相馬
「だから、頭の中で三つに分けてみるといい。事実と、想像と、自分の責任。」

事実は、相手がため息をついた。
それだけ。

想像は、私に怒っているのかもしれない。
これはまだ、確かめられていない。

自分の責任は、気になるなら一度確認してみること。

ただし、相手の機嫌を直す義務までは、含まれていない。

朝倉
「……私、事実と想像を、一緒にしていたのかもしれません。」

相馬
「ほとんどの人がそうなんだ。ため息という事実に、自分への怒りという想像を重ねて、ひとつの現実として受け取ってしまう。」

朝倉
「分けて見るだけで、ずいぶん変わりそうです。」

相馬
「うん。そしてもうひとつ、大事なことがある。」

朝倉
「なんでしょう。」

相馬
「毎回こちらが空気を整えて、謝って、先回りしていると、関係の中に『機嫌を取る側』と『察してもらう側』という役割が、少しずつ固定されてしまうことがあるんだ。」


悪気はなくても、関係は少しずつ傾いていく。

不機嫌な空気を出せば、誰かが整えてくれる。
言葉にしなくても、誰かが察してくれる。

そんな関係の癖が、本人たちも気づかないまま出来上がることがある。

相馬
「不機嫌に気づくのはいい。でも、引き受けなくていい。」

朝倉
「機嫌を直す係を、降りてもいい。」

相馬
「うん。係を降りても、あなたのやさしさはなくならないよ。気づける力は、そのまま残るんだから。」

朝倉は、少しのあいだ黙っていた。

それから、便箋に目を落としたまま、静かに言った。

朝倉
「……私も、誰かのため息を聞くと、自分の名前を呼ばれたように感じることがあります。」

相馬は、すぐには返事をしなかった。

責めるでもなく、慰めるでもなく、ただその言葉を受け取った。

相馬
「気づける人ほど、そうなんだと思うよ。」


朝倉は、窓の外へ目を向けた。

風のない水面に、どこからか小さな波が届いていた。

自分が落としたものではない波紋もある。

遠くで誰かが動いたのかもしれない。
岸に触れた風が、ここまで運んできたのかもしれない。

けれど、波が届いたからといって、そのすべてを自分が静めなければならないわけではない。

相手の不機嫌に気づけることは、あなたのやさしさです。

でも、その理由をすべて、自分の中に探さなくていい。

誰かのため息を、自分への判決にしなくていい。

相手の水面に起きた波は、相手が向き合うものでもあるから。

今夜は、誰かの機嫌を確かめる前に。

まず、自分の岸へ戻ってきていい。

誰かの不機嫌に気づけることは、弱さではありません。

声の変化や、ため息や、沈黙を感じ取れるのは、周囲をよく見てきた人の力です。

けれど、

「相手が不機嫌そうに見えること」と、
「自分がその原因であること」は、別のものです。

不安になったときは、

・実際に起きている事実
・自分の中で生まれた想像
・本当に自分が負うべき責任

この三つを、静かに分けてみてください。

相手の気持ちを確認することはできても、相手の機嫌を直すことまで、あなたの役目ではありません。

不機嫌に気づくのはいい。
でも、引き受けなくていい。

機嫌を直す係を降りても、あなたのやさしさはなくなりません。

【読者への一言】

誰かのため息を、自分への判決にしなくていい。

今日、誰かの表情や声に心が揺れたときは、

「これは事実だろうか。
それとも、私の想像だろうか」

と、一度だけ立ち止まってみてください。

相手の水面に生まれた波まで、あなたがすべて静めなくていいのです。

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