連載:メタル史 1986年⑧Yngwie Malmsteen / Trilogy 情報編

ギターの革命児と呼ばれたギタリストは歴史上何人もいますが、80年代におけるロックギター界の革命児としてイングウェイの名を挙げて反対する人はいないでしょう。あまりに独自性の高いスタイル。バイオリンのようなクラシカルなフレーズを高速かつディストーションギターで弾きまくってみせ、ネオクラシカルメタルという独自のサブジャンルを作り上げました。

クラシックとハードロックの先駆者としてはリッチー・ブラックモアがいましたが、着想は同じでも着地点は極端に特殊、ぶっ飛んでいる。スウェーデン出身なので北欧特有の「時流なんか関係ないぜ」的な、ある種隔離されたが故の突然変異性かもしれません。
1980年代初頭、ギター一本を抱えてUS、LAに渡りSteelerに参加。1983年、当時20歳のイングウェイの鮮烈なデビューです。
その後、グラハムボネット率いるAlcatrazzに参加。独自の存在感を見せつけた後Rising Forceというソロバンドを組みデビュー。一応本作はRising Forceの3作目となります。ただ、アルバム名に記されているのはYngwie J.Malmsteenのみ。それまではYngwie J.Malmsteen's Rising Forceと表記されていたので、表記上は本作がソロデビューアルバムですね。リッチーブラックモアがRitchie Blackmore's Rainbowからスタートし、その後自分の名前を消してRainbowというバンドとして活動していったのとは真逆。それだけバンド全体をコントロールできる志向、能力があったのでしょう。イングウェイはマルチプレイヤーなのでのちにはスタジオアルバムほぼすべて一人で作り上げたりしていますが、この頃はきちんとメンバーがいたバンド形式。なお、次作Odysseyでは大物Voのジョーリンターナーが参加したからかまたYngwie Malmsteen's Rising Force名義に戻っています。自分以外にバンドの方向性に影響を与えるような対等(かそれに近い)相手がいるときはバンド名義で、それ以外だとソロ名義、とか考えていたのかな。結局、Odyssey以降はずっとソロ名義で活動していますが。
なお、最初のアルバム、Rising Forceは全編インストで、当初はAlcatrazzのギタリストのインストゥルメンタルソロアルバムとしてリリースされる予定でした。ところがリリース前にグラハムボネットとどちらがフロントマンかでもめて脱退。結果として一部の曲はボーカルが加えられて、ソロバンドとしてデビューすることになった、という経緯付。当時、Alcatrazz中でのイングウェイのソロコーナー。
イングウェイは1963年生まれなのでその時20歳、21歳。スウェーデンからアメリカに単身渡ったぐらいで、向上心と野心が燃え滾っていたと思うし、同時にかなり苦労もしたのでしょう。文化と言語の壁もあっただろうし、音楽業界はのるかそるかのギャンブル的な要素もあるので人間的な力関係で決まることも多い。強烈にマウンティングしてくる人も多かったでしょう。そんな中でもともと尖った性格がさらに研ぎ澄まされていたことは予想できます。独自のスタイルを貫く音楽性から言っても、自分の意見を容易に曲げない性格なのはよく伝わってきます。

イングウェイはセールス的にはビッグインジャパンとも言えるアーティストで、とにかく日本でのセールスが多い。日本のゴールドディスク(セブンスサインは20万枚以上売れた)を持っている数少ないアーティスト。日本だけならボンジョビやMr.BIGと同じくらい売れています。後、ロシアというか旧共産圏での知名度もやけに高い。鉄のカーテンが開く前、冷戦下のソ連、レニングラードで公演したこともあり、共産圏の中で一定の流通をしていたためと思われます。クラシカルな音楽性がおそらく「反抗的で低技術(と見做されていた)なロック」とは一線を画していると判断された。また、政治的にやや中立な北欧出身なのも良かったのかもしれません。いずれにせよ、英米のアーティストがほとんど締め出された冷戦下の共産圏の人々に届いた数少ないハードロック系アーティスト。知名度に地域による偏りがあるアーティストです。もちろん、西欧諸国やアメリカでも一定以上の年齢のロック好き、特にギタリストには抜群の知名度を誇るとは思いますが、米国では同年代のハードロックギタリストならジョーサトリアーニやスティーブヴァイの方が知名度は高いと思われます。逆に言えば、なぜか日本人に大刺さりし、日本語圏のweb空間には熱心なファンがたくさんいる印象。ギターを持つとこのジャケットのポーズを決める人も一定数いるイメージです。メタルギタリストのひとつのアイコン。

後のFire&Iceでは実写でジャケットに
本作はRising Force(1984)、Marching Out(1985)に次ぐ3作目。上記したように初のソロ名義で、参加メンバーは前作から続いてヨハンソン兄弟。北欧メタルの黎明期に活動したSilver Mountainのキーボーディストであったイェンス・ヨハンソンと、その兄弟でドラマーのアンダース・ヨハンソンの2人ですね。ちなみにイェンスは現在Stratvariusのメンバー。アンダースはHammerfallの元メンバーです。スウェーデンメタル界に名だたる名プレイヤー兄弟。そして前作まではこちらもメタル界の名ボーカリスト(にして様々なバンドを渡り歩く)ジェフスコットソートが務めていましたが本作ではマーク・ボールズが担当。ボールズは本作を持って「メタル界の超絶ボーカリスト」の仲間入りを果たします。リッチーブラックモアとイングウェイの共通点として、自分のかかわるバンドのメンバーチェンジが激しく、そのバンド出身者がその後多くのバンドで活躍する、という点もありますね。ちなみにボールズは本作録音後、ツアーに出て途中で離脱。ソートが戻ります。人を見出す、惹き付ける能力は高いけれど、長期的な関係を築くのは苦手なのでしょう。いずれにせよ、今となっては伝説的な北欧メタルシーンのトップミュージシャンが集まったスーパーラインナップで制作された本作。プロデューサーはイングウェイ自身。

なお、本作レコーディング後の1987年、イングウェイは交通事故を起こし右手の神経を損傷してしまいます。その後リハビリで復活しますが、本作は事故前のキレキレだったころの作品。強烈なキャラクターでメタル史に名を残すイングウェイの最高傑作と言えば名前が挙がる作品です。
※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
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メタル史 1980-2009年
1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…
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