連載:メタル史 1986年⑨Fates Warning / Awaken the Guardian 情報編

USで発生したプログレッシブメタルというジャンルの先駆者の一つ、フェイツウォーニング。このジャンルは3つの代表的なバンドが生み出したとされ、Fates Warning、Queensrÿche、Dream Theaterですね。その中でFates WarningとQueensrÿcheは同期、1984年デビュー。Dream Theaterは1989年デビューなので、このジャンルの先駆者という意味だとFates WarningとQueensrÿcheが双璧となります。ジャンルの成立に大きな影響を与えたバンド。

バンドは当連載ではおなじみとなってきたブライアン・スレイゲル率いるMetal Bladeに所属し、デビューアルバムからリリース。3作目となる本作もMetal Bladeからのリリースで、レーベル史上初のビルボード200入り(最高191位)を果たした作品でもあります。Slayerも活動規模を大きくしていったのは移籍してからだし、多分インディペンデント流通なのでビルボードにはカウントされていなかったのでしょう。
ブライアン・スレイゲルという人はもともとジャーナリストでもあり、真のメタルマニアと言える人物でした。Metal BladeというレーベルはLAのメタル・ファンジン文化から生まれたレーベルであり、コンセプトは「バンドの個性を削らないこと」「大手では拾わない異端にこそ投資する」。このFates Warningもそうですが、他のバンド達も確かに異端です。初期の所属バンドは下記のようなメンツ。それぞれかなり極端な音像であり、異端であったゆえにそれぞれが後に一つのサブジャンルのひな型になったようなバンド達です。
Slayer(速さと攻撃性の原型:Thrash Metal/Extreme Metal)
Trouble(サバス直系のドゥームにスピリチュアルな重層性:Doom Metal)
Cirith Ungol(トールキン由来のファンタジー美学:US Power Metal)
Manilla Road(幻想文学の民間伝承的解釈:US Power Metal)
Fates Warning(哲学的内省と神秘主義:Progressive Metal)
スレイゲルは「技術よりも世界観」「人気よりも“何かを語っているか”」を重視していた節があります。特に、独自のファンタジックな物語性を持ったバンドを好んだ。特異な歌詞世界を持ったバンドが多く、結果としてMetal Bladeはアメリカン・アンダーグラウンド・ファンタジー思想の保存装置という側面を持つことになります。

その最たるものがUS Power Metal(あるいはエピックメタル)のバンド群ですが、Fates Warningもかなり特異な世界観を持っています。特に初期3作のボーカリストであり作詞を担当していたジョン・アーチは内省的な神秘主義を持っていました。この辺りもカナダのRush(作詞を手掛けるドラマーのニール・パートは哲学的な思想家でもある)との共通点を指摘される所以でしょう。アーチの歌詞は、外界への攻撃ではなく内面への旅、自己の分裂や夢の影を扱っており、当時のメタルアーティストの歌詞としてはけっこう異端的。というか、他のエピックメタルのアーティストも内省・叙事・非商業的哲学性といった「表現している世界観」が特異的です。ブライアン・スレイゲル、そしてMetal Bladeは「メタル=単なる攻撃性」という文脈を疑い、物語性やスピリチュアルな重みを重視するアーティストに賭けたとも言えます。ラヴクラフトやハワードといったUSのパルプマガジン(大衆向け冊子)出身の作家世界がUSの文化として根付いたのはアンダーグラウンドメタル、特にMetal Blade界隈とリンクしている気もします。

Fates Warningは初期はNWOBHM直系、ツインリードギターを擁していますし、Iron Maidenと呼応するようなスタイルでした。ただ、1st、2ndとだんだん曲構成が複雑さを増していき、3rdアルバムとなった本作は後のプログレッシブメタルのスタイルを最初に提示したアルバムとも言われています。なお、プログレッシブメタルなのにツインリードというのも珍しい構成。キーボードも入っていますがこの時はキーボーディストはゲスト扱いのようで、メンバーとしてはギター2名ですね。
同時期にQueensrÿcheも「Rage For Order」でプログレメタル的な音像を掘り下げていますが、彼らが洗練の方向に向かったのに比べるとFates Warningはより内省的、幻想的な方向に行った。他にも1986年だとCrimson Glory、Watchtowerといった「複雑な曲構成を持ったメタル」は現れていますが、本作はプログレッシブメタルだけでなくUS Power Metal、エピックメタルの系譜でも語れるところが特異。Manilla RoadやOmenといったエピックメタルバンドと同じ世界観を持っています。1986年、メタルシーンはスラッシュメタル全盛期で攻撃性や速さに向かっていった中で、内省的、幻想の方向をさらに追及したのはまさに我が道を行くスタイル。本作のプロデューサーはバンドとブライアン・スレイゲル本人であり、「異端であれ」というレーベルの精神を体現したようなアルバムです。

なお、本作が2005年に再発された際、Dream Theaterのマイクポートノイは「ファンや批評家はドリーム・シアターが80年代後半から90年代前半にかけてプログレッシブ・メタルという全く新しいジャンルを生み出したとよく言うが、実際はフェイツ・ウォーニングが私たちより何年も前にそれをやっていたのだ」との文章を寄せています。
※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
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メタル史 1980-2009年
1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…
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