見出し画像

連載:1987年⑧Sodom / Persecution Mania

Sodom『パーセキューション・マニア』(1987年)

アルバム名: Persecution Mania (邦題: パーセキューション・マニア)
リリース年: 1987年(12月1日)
レーベル: Steamhammer / SPV

背景と位置づけ

Sodomは1981年にドイツで結成され、Venomに影響を受けた邪悪なサウンドとテーマで初期のブラックメタルに近い作風を展開していた。1984年のEP『In the Sign of Evil』、1986年の1stアルバム『Obsessed by Cruelty』では荒削りでロウな音作りが特徴だったが、1987年、ギタリストにFrank "Blackfire" Gosdzikを迎えたことで音楽性が大きく変化する。彼の加入は演奏技術だけでなく作曲や歌詞の方向性にも影響を与え、(中心メンバーでボーカル兼ベースである)トム・エンジェルリッパーに政治・戦争といった社会的なテーマを提案することとなった。本作『Persecution Mania』でSodomはオカルトから離れ、スラッシュメタルとしての自己を確立する。

1987年のSODOM

同時期のドイツにはKreatorDestructionといったスラッシュバンドが台頭しており、Sodomと並んで「Teutonic Thrash三羽烏」と称されるようになる。レーベルはSteamhammer / SPVで、本作当時のSodomはレーベルの看板スラッシュアクトだった。なお、同時代のもう一つの有力レーベルNoise RecordsはKreatorTankardを擁し、ジャーマンスラッシュの国際化をリードしていた。SodomはNoise所属ではなかったが、プロデューサーのHarris JohnsがNoiseの主要作品を多く手がけていたことで、制作面では両レーベル間での連携が見られた。

音楽性と特徴

『パーセキューション・マニア』でSodomの音楽性は飛躍的に向上し、荒々しさを保ちつつも引き締まったスラッシュメタル・サウンドを確立した。ギターリフ主体の曲作りが顕著で、全編にわたり凶暴かつ高速なリフとギターソロが炸裂し、当時のバンド史上もっとも破壊的で苛烈な演奏が展開されている。とりわけ新ギターのブラックファイアの加入によって演奏技術とソングライティングの精度が向上し、タイトで時にテクニカルですらあるスラッシュサウンドへと進化した。リズム面ではMotörhead譲りの疾走感(実際、本作にはMotörheadのカヴァー「Iron Fist」を収録)があり、パンク由来のDビートや一部でブラストビート的なドラミングも取り入れられるなど、徹底的なスピードと攻撃性が追求されている。一方で「Christ Passion」など6分台の曲ではミドルテンポのリフ展開や雰囲気作りも織り交ぜ、アルバム全体に緩急のバランスを持たせている。トム・エンジェルリッパーのボーカルは以前のデス/ブラックメタル的な金切り声から、低めで太いがなり声主体のスタイルにシフトし、激烈な演奏に埋もれない存在感を示している。

93年のことではあるがツアーも一緒に
エンジェルリッパーとレミー

また本作から歌詞に政治色が加わり、戦争、迫害、核の恐怖など社会的テーマを扱うようになった。アルバム冒頭の「Nuclear Winter」から既に核戦争後の荒廃を描いた反戦的なリリックで幕を開け、以降も死刑制度批判(「Electrocution」)や宗教戦争への言及(「Christ Passion」)など、一貫して反戦・反権力の姿勢が貫かれている。これらの政治的メッセージは「我々は戦争を望まないから戦争について歌うのだ」というトム自身の言葉にも表れており、以降のSodomの歌詞の方向性が本作で確立されたと言える。

プロダクション面では、ハリス・ジョンズ(Harris Johns)がプロデュースとエンジニアリングを担当。先述したようにジョンズは当時Noise Recordsの専属プロデューサー的存在で、KreatorやTankard、Voivodなど数々のスラッシュ名盤を手掛け「テュートニック・スラッシュの名プロデューサー」と称された人物。彼の手腕により、本作では前作までの混沌とした音像から一転して各楽器の分離が良くクリアになりつつも、生々しい迫力を損なわない絶妙なサウンドに仕上がっている。特にギターの鋭さとリズム隊の重厚さが両立したプロダクションは高い評価を受け、続く『エージェント・オレンジ』でも踏襲されることとなる。

2024年、Sodomのライブステージにゲスト参加したハリスジョンズ

アルバム・ジャケットはヨハネス・ベック(Johannes Beck)による描き下ろしで、ガスマスクを被りライフルを構えた兵士が荒廃した風景の中に立つ強烈なイメージ。このカバーアートには後方に十字架の残骸も描かれており、一見すると宗教的な迫害を連想させるが、実際には前述の通り歌詞のテーマは宗教より政治・戦争に重きが置かれている。本作のジャケットに登場したガスマスクの兵士はファンから“Knarrenheinz”と呼ばれるバンドのマスコット的キャラクターとなり、以後『エージェント・オレンジ』など後続作品のアートワークにも登場することになる。

評価と影響

『パーセキューション・マニア』は発売当時、アンダーグラウンドのメタル専門誌やファンから高く評価され、Sodomにとって初の傑作とみなされた。ドイツ本国では次作『エージェント・オレンジ』ほどの商業的成功(全独37位ランクイン)には至らなかったが、本作で確立したスタイルと楽曲群は後年まで語り草となり、スラッシュメタル史においても重要な位置を占める作品と評価されている。専門サイトのレビューでも「『パーセキューション・マニア』はSodomのサウンドを決定づけた作品であり、ここからバンドの快進撃が始まった」と述べられており、スラッシュファンのみならず初期デス/ブラックメタル愛好家にとっても必携の一枚と位置付けられている。また米Loudwireの選出した「トップ50スラッシュメタル・アルバム」では本作が上位に挙げられ、ドイツの過激派スラッシュが1980年代後半にピークに達したことを象徴する作品として言及されている。

1989年のSODOM

音楽的影響の面では、本作によってSodomは同時期のスラッシュメタル・シーンに強烈な個性を示した。SodomはBay Area勢など米国スラッシュに比べても極端に攻撃的な作風であり、同世代のKreatorやDestructionと共にデスメタルやブラックメタルの先駆けの一つと見做されている。ただ、実のところ本作以前のSodomの作品は初期ブラックメタル勢に影響を与えたと言われるが、本作以降のより整合感のあるスラッシュスタイルは、むしろ直接のフォロワーをあまり生まなかったとも指摘されている。しかしながらSodom自体の存在は極めて多くのエクストリーム・メタル・バンドに影響を及ぼしており、たとえばBurzumMayhemといったノルウェー・ブラックメタル勢、DeicideMorbid Angelなど米デスメタル勢、さらにSepultura(ブラジル)やRotting Christ(ギリシャ)に至るまで、世界各国のバンドがSodomからの影響を公言している。特にSodomの奏でた高速リフと戦争を主題とする世界観は、90年代以降のウォー・メタル/ブラック・スラッシュ系アーティストにも脈々と受け継がれている。

総じて『パーセキューション・マニア』は、Sodomがアンダーグラウンドからシーンの前線へ飛躍する契機となったアルバムであり、ジャーマン(またはテュートニック)・スラッシュメタルを語る上で欠かすことのできない歴史的名盤と評価されている。当時から今日に至るまで本作収録曲の多く(「Nuclear Winter」「Persecution Mania」「Bombenhagel」等)はライブで定番となっており、Sodom自身も本作をバンドのターニングポイントとして位置づけている。

現在のSODOM

ここから先は

4,934字
長丁場になるので、購読いただくことが次の記事を書くモチベーションになります。気に入っていただけたら購読をよろしくお願いいたします。 最初は500円でスタートします。100枚紹介するごとに500円値上げし、100枚時点で1000円、200枚時点で1500円、300枚すべて紹介し終わった時点では2000円にする予定です。早く購読いただければ安い金額ですべての記事を読めます。

1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?