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連載:メタル史 1987年⑩Death / Scream Bloody Gore

Death『Scream Bloody Gore』 (1987年)

  • アルバム名:Scream Bloody Gore (邦題:スクリーム・ブラッディ・ゴア)

  • リリース年:1987年(1987年5月25日)

  • レーベル:Combat Records(コンバット・レコード)


背景と位置づけ

アメリカ・フロリダ州出身のデスメタルバンドDeathは、1983年にチャック・シュルディナー(G, Vo)を中心に結成された(当初バンド名はMantas)。結成当初からVenomHellhammerといった邪悪な音楽性のバンドや、ハードコア・パンク、N.W.O.B.H.M.の影響を受けており、スラッシュメタルとパンクを原始的に掛け合わせたような粗削りなサウンドを志向していた。シュルディナー(当時16歳)とリック・ロズ(G)、カム・リー(Dr, Vo)の3人編成で活動を開始し、リハーサル音源やライヴ音源を含む多数のデモテープを作成してテープトレーディング・シーンで名を広めた。1984年に発表したデモ『Death by Metal』(Mantas名義)では「Evil Dead」「Legion of Doom」など後に代表曲となる楽曲を収録し、当時のアンダーグラウンド・シーンにおいて「10代の若者が作る邪悪なメタル」として注目を集めた。同年末にバンド名をDeathと改め、メンバーは引き続きシュルディナー、ロズ、リーの3名が務めた。

Death名義での初のデモ『Reign of Terror』(1984年)では、ドラム兼ヴォーカルのカム・リーがリバーブを効かせた唸るような荒々しい唱法を披露しており、彼のボーカルスタイルは当時既にPossessedHellhammerのデモの影響下にあったと言われる。1985年には3本目のデモ『Infernal Death』を発表。この頃までにロズとリーが相次いで脱退し(ロズは1985年初頭に一度脱退、リーも程なくして離脱)、一時期シュルディナーはミシガン州のグラインドコア・バンドGenocide(後のRepulsion)のメンバーらと合流する試みを行ったが長続きしなかった。さらにシュルディナーは活動拠点を一旦フロリダからカリフォルニア州サンフランシスコへ移し、元DIRTY ROTTEN IMBECILESのドラマーであるエリック・ブレヒトを迎えてデモ『Back from the Dead』(1985年)を録音するも、この編成に満足できずに再び解散してしまう。その後カナダのスラッシュメタル・バンドSlaughterに一時加入するエピソード(1986年初頭)などを経て、最終的にシュルディナーは再びカリフォルニアに戻り、17歳のドラマー、クリス・レイファートと合流した。このシュルディナー&レイファートの編成で1986年4月に制作されたデモ『Mutilation』がCombat Recordsの目に留まり、バンドは念願のレコード契約を獲得する。

チャック・シュルディナー

デビューアルバム『Scream Bloody Gore』の録音は二度にわたって行われた。まず契約後の1986年夏、フロリダのスタジオで録音を開始したが、メタルに不慣れなエンジニアによる不適切な録音だったためレーベルからNGを出され、この最初のセッションは破棄された。同年11月、レーベルはバンドをロサンゼルスのMusic Grinderスタジオに送り、ランディ・バーンズ(Randy Burns)をプロデューサーに迎えてアルバムを再録音させた。バーンズはPossessedのデビュー作『Seven Churches』(1985年)を手掛けた人物であり、その実績からバンド側も今回は手応えを感じていたという。こうして完成した『Scream Bloody Gore』は1987年にCombat Recordsよりリリースされ、デスメタルのジャンル形成におけるひとつの雛形となった作品と位置づけられている。本作はしばしば「史上初の本格的デスメタル・アルバム」と評されており、同様に初期デスメタルの候補とされるPossessedの『Seven Churches』については「スラッシュメタルからデスメタルへの過渡期的作品」であるのに対し、『Scream Bloody Gore』はデスメタルの核心要素を明確に定義した作品であると指摘されている。Deathは本作によってアンダーグラウンド・シーンの覇者となり、フロリダを中心に勃興するデスメタル・ムーブメントの先駆けとして大きな役割を果たした。

1987年のDeath

音楽性と特徴

『Scream Bloody Gore』のサウンドは、スラッシュメタルや初期ブラックメタル(Slayerや初期Sepulturaなど)の猛烈な毒気を土台としつつ、それら以上に原始的で荒々しい音作りがなされている。全体的に録音は粗削りで音質は「プリミティブ(原始的)」と評されるが、攻撃性と残虐性では当時群を抜いており、当時の専門誌Metal Forcesは本作を「デスメタルの極致であり、残忍で生々しく攻撃的な作品」で、流行に迎合する「腰抜けども」を蹴散らす真のデスメタルだと評した。演奏面では高速のブラストビートに支えられた比較的シンプルで反復的なリフ、鋭い切れ味のギターソロやフレーズが次々と登場し、シュルディナーの絞り出すようなグロウル・ボーカル(唸り声に近い咆哮)と相まって当時のメタル界最速最重の部類に属するサウンドを生み出している。楽曲によっては冒頭に一見ミドルテンポのメロディアスなイントロが置かれ、その後一気に加速する構成も取られており、「Zombie Ritual」のように冒頭で不気味なムードを醸成してから猛突進する曲も存在する。

本作の歌詞はタイトルが示す通りホラー映画さながらの猟奇的・残虐的な内容を特徴としている。ゾンビ、殺人鬼、カニバリズム(人喰い)といったおどろおどろしい題材が散りばめられており、曲名も「Regurgitated Guts(吐き出された内臓)」「Torn to Pieces(ズタズタに切り裂かれて)」など直截的な表現が目立つ。実際にいくつかの曲はホラー映画から着想を得ており、例えば「Regurgitated Guts」はイタリアのゾンビ映画『地獄の門』から、「Beyond the Unholy Grave」は同じくルチオ・フルチ監督の『ビヨンド』から、「Zombie Ritual」は『サンゲリア(ZOMBIE)』からそれぞれインスピレーションを受けている。こうした血みどろの歌詞世界は、当時のスラッシュメタルが扱っていた社会問題やオカルト/悪魔的テーマとは一線を画するものであり、デスメタルという新たなジャンルのイメージを決定づけた要素の一つである。

同時代の他のスラッシュ/エクストリームメタル作品と比較すると、『Scream Bloody Gore』の際立った特徴はやはりその過激さにある。当時既にSlayerReign in Blood』(1986)やPossessedSeven Churches』(1985)などの過激な作品は存在したものの、Deathのデビュー作はそれらを凌ぐ徹底した残虐表現と演奏の重厚さによって、ヘヴィメタルの極北を更新したと言える。スラッシュメタルの多くが高速ながらある程度整った曲構成や社会的メッセージ性を持っていたのに対し、本作では暴力的衝動そのものを音像化したかのような荒々しさが前面に出ており、ボーカルも当時一般的だった金切り声やシャウトではなく低く呻くようなグロウルで統一されている点で画期的だった。ギターリフも従来のスラッシュに比べてさらに不穏で陰鬱な雰囲気を持ち、リズムも曲によってはスラッシュ系より遅重でのたうつようなパートを織り交ぜている。本作はデスメタルの原点的作品でありながら、その攻撃性ゆえに当時のフォロワーが安易に真似できない独自の領域を築いており、結果として「本物のデスメタル狂」と「流行追随の軟弱者」を峻別する作品とまで評されたのである。

評価と影響

本作のリリース当時における評価は決して高いものではなかった。発売当時の一般的なメタル専門誌レビューは軒並み否定的で、Deathのマネージャーであったエリック・グライフによれば「Deathの作品が素晴らしいと言い始めた評論家は2年後には現れたが、『Scream Bloody Gore』発売当時にそれを支持した者は皆無」であり、契約に関わったレーベル担当者でさえ本作を冗談半分に扱っていたという。実際Combat Recordsのスティーブ・シンクレアは本作のクレジットに「This record is Don Kaye’s folly(このレコードはドン・ケイの愚行である)」という一文を忍ばせ、発掘を主導した同僚に責任転嫁するような悪ふざけをしてシュルディナーの怒りを買ったエピソードも残っている。つまり当初、Deathのデビュー作は既存のメタル業界関係者にとって理解し難い過激音楽であり、その真価が広く認められるまでには時間を要した。

しかし年月を経るにつれ『Scream Bloody Gore』の評価は大きく高まった。現在では「デスメタルの創世記における必携の古典」とみなされ、デスメタルの「基礎文書の一つ」に数えられる作品である。音楽ジャーナリストのジョエル・マクアイバーは本作をエクストリーム・メタル史における転換点と位置づけ「史上初の真のデスメタル・アルバム」であると評している。また評論家マーティン・ポップオフはシュルディナーについて「本作によってエクストリーム・メタルに新たな複雑性のレベルを持ち込み、次の段階の始まりを告げたミュージシャンだ」と評価している。発売から約30年後の2016年にRelapse Recordsから本作がリイシューされた際には、リマスター盤がBillboard 200チャートの174位に食い込んでおり、Deathの遺した作品が新世代にも受け継がれていることを示す出来事となった。

本作が音楽シーンに与えた影響は計り知れない。Deathおよび『Scream Bloody Gore』はデスメタルというジャンルの定型を決定づけ、以後登場する無数のバンドに多大なインスピレーションを与えた。特に同郷フロリダで台頭したMorbid AngelObituary、Deathから派生したMassacreAutopsyといった後続バンドは、Deathが確立した残酷美学と過激サウンドを継承・発展させていった。また地理的に離れた地域でも本作の影響は顕著であり、ブラジルのSepultura(後年「Zombie Ritual」をカバー)や欧州のエクストリームメタル勢など、世界中のシーンにDeathの衝撃波が波及した。今日では本作はブラック・サバスのデビュー作やメタリカの『Kill 'Em All』、アイアン・メイデンの諸作と並び称されるヘヴィメタル史上の金字塔として評価されており、デスメタル成立に果たした歴史的貢献は疑いのないものとなっている。

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