連載:メタル史 1986年③Megadeth / Peace Sells… But Who's Buying? 情報編

Metallicaを追われたデイヴ・ムステインが結成したMegadeth。Metallica脱退後すぐの1983年に結成されたもののメンバーがなかなか定着せず、一時期(1984年)Slayerのケリーキングも在籍していたこともあります。最初からムステインの求めるレベルが高かったのでしょうし、また、当時のムステインはアルコールの影響でかなり気性が激しかったようなので付き合いづらさもあったのでしょう。ころころとメンバーが変わる。二人目のベーシストとして加入してデイヴ・エフレソンだけはまだ安定しますが、他のメンバーはかなり紆余曲折があります。
Metallicaがサンフランシスコへ移ったあとも、LAに残って活動をつづけたムステインおよびMegadeth。もしかしたら初期はムステインとのトラブルを避けたくて移動したという側面もあったのかも。基本的にはベーシストとして加入したクリフバートンがLAよりサンフランシスコでの活動を希望した(加入時の条件だったとされている)とされていますが、そもそもなんでLAが嫌だったのか。当時のLAはヘヴィメタル、ハードロックシーンが盛り上がりつつあり、いくつも著名なライブハウスなどがありました。そのシーンから距離を置くことで独自性を高めたかったのもあるだろうけれど、ムステインと顔を合わせるたびに絡まれるのも面倒だったのかもと邪推してしまいます。多分、この頃のムステインだったら絶対会うたびに険悪なムードになる気がする。
1983年にはデモテープを作るもこれは未発表に終わります。1984年、最初のデモテープ「Last Rites」がリリース。これが現在聞ける最初のMegadethのリリース。ただ、この時はセカンドギタリストはおらず、ドラマーも録音後脱退してしまいます。癇癪持ちで喜怒哀楽の激しいムステインについていけるメンバーがエフレソンしかいない。
そんな気難しいムステインについていけるバンドメンバーがそろうのは1985年。ギターのクリス・ホランド、ドラムのガー・サミュエルソンが加入し、ひとまず納得のいくラインナップがそろったMegadethは1stアルバム「Killing Is My Business... and Business Is Good! (1985)」をリリース。記念すべきMegadethのデビュー作! …なのですが、このアルバムはあまりに粗削りすぎてあまり評価されず。メジャーレーベルと契約ができずコンバットレコードというインディーズから発売されたためあまり流通しなかったことと、制作予算8000ドル(そもそも低予算)のうち半分をアルコールとドラッグにバンド(ムステインだけでなく、ホランドもサミュエルソンもドラッグの問題を抱えていた)が使ってしまったためさらに低予算となりプロダクションがかなり粗削りであることなど、完成度は低い。曲としては名曲(Metallica時代からの曲も収録されている)もあるのですが、ちょっと名盤とはいいがたいアルバムです。そのため当連載からも除外。ただ、2018年にリマスターされた再発盤ではプロダクションが良好になり、曲の良さが伝わるようになっています。もし興味がある方は再発盤をお勧め。

さて、そうはいってもMegadethはライブシーンでは話題になり、デビュー作もインディーズにしては話題となった。その実績を基にキャピトルレコードとの契約を勝ち取り、2ndアルバムの制作に入ります。そうしてリリースされたのが本作。メンバーは前作と同じ。1stリリース後一時的にホランドが脱退したのですが、本作制作時には復帰しています。メガデスの歴代メンバーのタイムラインは下記。とにかく関係者が多い。

ムステイン以外のメンバーはすべて変化
ギタリストはマーティの次に長いのが実はキコなんですね
本作のレコーディングにあたり、ムステインは後のインタビューで「2枚目のアルバムはどんなバンドにとっても『全て』だ。次のレベルに進むか、それともどん底の始まりかだ」という覚悟で臨んだと述べています。その言葉どおり、次のレベルに進んだ作品。
今回の予算は25,000ドル。前作の3倍の予算を手に入れてコンバットレコードでレコーディングをスタートしますが、もっと大きな契約を探していたバンドは先述したようにキャピトルとの契約を獲得。このアルバムはもともとはコンバットレコードからリリースされる予定だったものを、途中でキャピトルに権利ごと買い取られています。なので、インディーズレーベルの制作体制で作られたアルバムではある。当初のオリジナルプロデューサーはランディ・バーンズ。PossessedのSeven Churchesのプロデューサーでもあり、他にはNuclear Assultとかに関わっていたエンジニア/プロデューサー。LAのインディーズメタル界で活躍していた人ですね。ただ、キャピトルが権利を買い取った後、音をもっと洗練させるためにマーク・ラニという別のプロデューサーを雇ってリミックスしています。マーク・ラニはMegadethの次作も手掛けていますが、メタル系というよりポップス、メインストリーム系のエンジニア/プロデューサー(メタル系だと他にイナフズナフのStrengthも手掛けている)。現在聞けるのはこのラニのミックスで、通称キャピトルミックスと言われています。2008年、アルバムが再発されたときにボーナストラックとしてオリジナルのランディ・バーンズミックスが何曲か追加されました。
こちらがキャピトルミックス。
こちらがランディバーンズミックス。
リリースされたキャピトルミックスの方がキラキラしているというか、派手な音作りになっています。ランディバーンズの方はちょっとアンダーグラウンドな感じ。
なお、このレコーディング時、ムステインとエフレソンはホームレスだったそう。ツアー中にホランドとサミュエルソンはドラッグ中毒がひどくて解雇されるし。無法者の集団ですね。ミュージシャンのインタビューなどを読んでいると悪者にされがちなレーベルやマネジメントですが、そういう生活が荒れた若者をミュージック”ビジネス”として成り立たせるのは並大抵の苦労ではないと思います。約束をしても簡単にすっぽかすだろうし。猛獣使い的なスキル。Mötley Crüeも破天荒なエピソードに事欠きませんが、Megadethも同様に破天荒(というより破滅的)なエピソード多数。そんな状態でよくこれだけテクニカルな楽曲を作り、レコーディングし、ライブツアーをこなしていたものだと感心します。人間としてのパラメーターがピーキーすぎる。
本作の印象的なジャケットはイラストレーターのEd Repka(エド・レプカ)によるもの。1stのオリジナルでは写真だったバンドのキャラクター、Vic Rattleheadをキャラクターとして確立します。


この後、Megadethのジャケットは長くレプカが手掛けていくことになりますし、また、他のアーティスト(Death、Dark Angel、Athest、他多数)のジャケットも多く手掛け、レプカはメタルシーンのアルバムジャケットに大きな存在感を示すイラストレーターになっていきます。

本作はビルボードチャートでリリース当時76位まで到達。また、時間をかけてじわじわと売れ続け、現在ではプラチナム(100万枚)認定もされています。Megadethが表舞台に飛び出した作品であり、スラッシュメタル、ひいてはその後のメタル史に大きな影響を与えた作品。
※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
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メタル史 1980-2009年
1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…
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