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連載:メタル史 1987年⑥Bathory / Under the Sign of the Black Mark

Bathory『Under the Sign of the Black Mark』(1987年)

  • アルバム名 (Original): Under the Sign of the Black Mark

  • 邦題: アンダー・ザ・サイン・オブ・ザ・ブラック・マーク

  • リリース年: 1987年

  • レーベル: Black Mark Production(スウェーデン) / Under One Flag(英国) / New Renaissance Records(米国)


背景と位置づけ

スウェーデン出身のエクストリームメタル・バンド、Bathory(バソリー)は1983年にトーマス・フォースベリ(愛称クォーソン、1966–2004)を中心に結成された。1984年にデビューアルバム『Bathory』、1985年に2作目『The Return…』を発表し、短期間で3作目となる本アルバム『Under the Sign of the Black Mark』へと至る。Bathoryは初期ブラックメタルのパイオニアと位置づけられ、VenomMercyful Fateなどと並びブラックメタル草創期を代表する存在であり、後のヴァイキングメタルの開拓者でもある。バンドは結成当初からライブ活動を早々に停止し、スタジオ録音に専念する「ワンマン・プロジェクト」の様相を呈していたため、その神秘性も手伝ってアンダーグラウンドでカルト的な支持を集めていった。

Bathory

本作が制作された1986年当時、メタル界ではBON JOVIやEuropeといったバンドの台頭によるグラム/ポップ路線の隆盛や、Metallica『Master of Puppets』やSlayer『Reign in Blood』の登場によりスラッシュメタルが本格的に認知され始めるなど多様化が進んでいた。一方でBathoryはストックホルム郊外にあるガレージ改装スタジオ「Heavenshore」(クォーソンの父ボッセ・フォースベリがエンジニア兼オーナー)に閉じこもり、“孤立した環境”の中で本作を制作している。派手な商業路線とは一線を画し、極端に粗削りで邪悪なサウンドを追求したBathoryの音楽は当時の主流メディアからは無縁であったが、その独自路線が後にブラックメタルというジャンル確立の重要な礎となった。

クォーソン

音楽性と特徴

本作に収録された音楽性は、初期Bathoryの特徴である暗黒かつ高速で歪んだローファイ・サウンドに貫かれている。激しく荒々しいギターリフとリバーブの効いた薄暗いプロダクション、そしてクォーソンの甲高く耳をつんざくようなしゃがれ声のボーカルが一体となり、不穏で邪悪な雰囲気を作り上げている。歌詞は反キリスト教や悪魔崇拝、オカルトなどの“闇”のテーマを中心に据えており、当時のエクストリームメタルとしては典型的なものだった。クォーソン自身は「実際にサタニストというわけではなく、キリスト教への挑発として悪魔的イメージを用いた」と述べており、3作目となる本作および次作あたりからは単なる悪魔礼賛ではなく別の角度からキリスト教批判を展開し始めている。

サウンド面では、前2作と比べてミドル~スローテンポの楽曲を取り入れたことが大きな特徴である。アルバム中盤にはバンド初の7分近い大作「“Enter the Eternal Fire”」が配置されており、重々しいスロー・リフと荘厳な曲調によってそれまでの高速一辺倒な作風からの発展を示した。この曲の歌詞は「悪魔との契約」を題材にしており、後のヴァイキングメタル/エピック路線を先取りするものとなっている。一方、他の曲では従来通りの邪悪で猛烈なスピード感が健在で、短いオープニング・トラック「“Nocturnal Obeisance”」の不気味でローファイなイントロダクションに始まり、続く「“Massacre”」や「“Equimanthorn”」では猛烈な疾走リフと攻撃的なサウンドが展開される。また「“Woman of Dark Desires”」ではチープなキーボード音色を取り入れつつも、それがかえって背筋を凍らせる効果を生むなど、粗削りなプロダクションを逆手に取った独特の雰囲気づくりが光っている。同曲はバンド名の由来でもあるエリザベート・バートリ(血の伯爵夫人)に捧げられた内容であり、他にも「“Equimanthorn”」では地獄や北欧神話(オーディンの愛馬スレイプニルなど)への言及が登場する。アルバム全体を通して、コミカルさや洒落っ気は一切排除された真剣さと陰鬱なムードが支配しており、この“雰囲気(アトモスフィア)”こそがブラックメタルの本質であることを本作は体現している。

評価と影響

Under the Sign of the Black Mark』はリリース当時こそ一般的な音楽メディアにはほとんど取り上げられなかったものの、アンダーグラウンドでは高い評価を受け、後年その歴史的意義が広く認識されるようになった。2017年には米誌Rolling Stoneの選ぶ「史上最高のメタルアルバム100」で第81位にランクインしており、発売から30年以上を経た現在でもその影響力と存在感は色褪せていない。実際、本作はブラックメタルというジャンルの発展における鍵となった作品であり、1990年代初頭に勃興するノルウェーのブラックメタル・シーンに多大な影響を与えたと評されている。書籍『ロード・オブ・カオス (Lords of Chaos)』においてもBathoryの最初の4枚のアルバムが「スカンジナビアにおけるブラックメタルの設計図」だと形容されており、本作はまさに後続に道筋を示した作品であった。

本作から受けた直接的な影響は後続のアーティストに顕著であり、第一次ブラックメタルの洗礼を受けたMayhemBurzumDarkthroneをはじめ、EmperorImmortalMardukといった1990年代以降の第二世代ブラックメタル・バンドの多くがBathoryを重要なインスピレーション元に挙げている。特に本作の邪悪なリフや狂気的なボーカル、陰鬱な空気感は「以降のブラックメタル作品は劣化したコピーに過ぎない」とまで評されるほどで、そのジャンル定義的なサウンドにより“ブラックメタルの地図を描いた”と認識されている。さらにBathoryが本作で見せたエピックな楽曲構成や北欧的テーマは、のちのヴァイキングメタル興隆にも繋がり(例:EnslavedMoonsorrowなど)、シンフォニック/エピック志向のブラックメタル(Emperorなど)の発展にも影響を及ぼした。なお、本作はブラックメタル以外の極端音楽シーンからも高い評価を受けており、Paradise LostKatatoniaといったドゥーム/ゴシック系のアーティストから、Grand Magusや日本のAbigailのような異なるシーンのバンドに至るまで幅広い世代・ジャンルのミュージシャンに敬愛されている。

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