見出し画像

連載:メタル史 1987年⑦Candlemass / Nightfall

Candlemass『Nightfall』(1987年)


1. アルバムタイトル・邦題・リリース年・レーベル

Candlemassの2作目となるアルバム『Nightfall』(邦題:『ナイトフォール』)は、1987年11月9日にイギリスのAxis Recordsからリリースされ、翌1988年には米国でMetal Blade Recordsからも発売された。

当連載おなじみMetal Bladeレコード
1982,LAで創業
メタルの新地平を切り開くのに果たした役割は大きい

2. 背景と位置づけ

アルバム『Nightfall』(1987年)のカバーアート。アメリカの画家トマス・コールによる連作『人生の航路』(The Voyage of Life)の最終作「老年期 (Old Age)」の絵画が使用されている。

全景

前作『Epicus Doomicus Metallicus』(1986年)は後にドゥームメタルの古典と評価されるデビュー作だったが、当時は売上が振るわずリリース元のBlack Dragon Recordsとの契約を打ち切られてしまった。バンドは新たにイギリスの新興レーベルAxisと契約し、同時にメンバー・チェンジを敢行することになる。前作のレコーディング後にボーカリストやドラマー、リードギタリストがバンドを去る危機的状況に陥ったが、リーダーのレイフ・エドリングは諦めずに新メンバーを招集した。新たにメサイア・マーコリン(元Mercy)をボーカルに迎え、ヤン・リンドがドラマーとしてMats Ekströmの後任となり、リードギタリストにはラース・ヨハンソンが加入して強力なラインナップを再編成した。マーコリンは制作過程でも強い存在感を示し、自身の提案によりショパン作曲の葬送行進曲「Marche Funèbre」をインストゥルメンタル曲として録音し、アルバムタイトルもエドリング案の『Gothic Stone』から**『Nightfall』**へ変更された経緯がある。なお、本作収録曲「Samarithan」は前作制作時にエドリングが書いていた楽曲だが、当時のドラマーだったエクストロームに却下されお蔵入りとなっていたものが、本作で晴れて日の目を見た。

1987年のCandlemass
中央がマーコリン、巨漢
エドリングは右端

CandlemassはBlack Sabbath以来の伝統である重く遅いリフの音楽性に荘厳さと劇的表現を取り入れたスタイルで知られ、そのサウンドは後に“エピック・ドゥーム・メタル”と称されるようになった。『Nightfall』およびデビュー作『Epicus Doomicus Metallicus』の2作品は、1980年代後半のドゥームメタル・シーンを形作る上で非常に重要な役割を果たし、同ジャンルの基礎を確立した作品として位置づけられている。

3. 音楽性と特徴

『Nightfall』の音楽性は、前作から引き継いだヘヴィでスローなリフを基調としつつ、随所にメロディアスで荘厳な要素が盛り込まれている。初期のBlack Sabbath直系のダウナーなリフに加え、Rainbowのようなクラシックなヘヴィメタルや一部にMetallica的なギターのニュアンスすら融合させ、「独自のオリジナルなスタイルを生み出している」と評価された。曲構成もメリハリが利いており、大半の楽曲は重々しく遅いテンポで進行する一方で、所々にアップテンポのパートを織り交ぜて単調さを避けている。例えば「At the Gallows End」ではゆったりしたアコースティック導入部から一転して疾走感のあるリフが炸裂し、新加入のラース・ヨハンソンによる華麗なリードギター・ソロがフィーチャーされるなど、ヘッドバンギングできる高速パートも含まれている。ギターの分厚い多重録音も特筆すべき点で、「Samarithan」のコーラス・パートでは「まるで10人のリズムギタリストが同時に演奏しているかのよう」に感じられるほど極めて重厚なサウンドを生み出している。それでいてメロディが犠牲になることはなく、「The Well of Souls」の中盤に代表されるように激重なリフの中にも荘厳な旋律美を湛えており、「Samarithan」では哀愁漂うコーラスが楽曲に haunting(心に残る不気味な)な雰囲気を与えている。荘重なインストゥルメンタル小品(「Gothic Stone」やショパンの葬送行進曲を編曲した「Marche Funèbre」など)をアルバムの幕開けや幕切れに配置する構成も相まって、アルバム全体として陰鬱かつドラマティックな物語性が感じられる。

ボーカルのメサイア・マーコリンはそれまでのドゥームメタルにはなかったオペラティックな歌唱スタイルでバンドに個性を与えた。壮大なビブラートを効かせたクリーンかつハイトーンのボーカルは非常に劇的でパワフルであり、その荘厳な声質が重厚な楽曲に完璧にマッチしている。マーコリンの宗教的・叙情的な歌詞世界も音楽と呼応しており、聴く者の精神性に訴えかけるような崇高さを湛えている。実際、本作の歌詞テーマは神話や聖書的モチーフ、死や哀しみといったドゥームメタルらしい題材が中心で、各曲ごとに異なる寓話的ストーリーが語られる構成になっている。例えば「Mourners Lament」では息子を亡くした父親の嘆きという悲劇的物語が描かれており、その深い悲哀が楽曲のエピックな展開と相まって聴き手に訴求する。批評家からもエドリングによる歌詞の完成度は高く評価されており、「神秘的な神話を紡ぐ知的なリリシズムは、同時代の他のメタル作品にはない深みを与えている」と評された。

ライブでのマーコリン

プロダクション面でも前作から飛躍的な向上を遂げている。Candlemass自身がプロデュースし、エンジニアのラグネ・ヴァルクヴィスト(Ragne Wahlquist)が手掛けた録音は非常にクリアでヘヴィなサウンドを実現し、バンドの持ち味を見事に引き出している。このアルバムの音作りは当時としては卓越したもので、「前作より格段に進歩したサウンドクオリティ」と高く評価された。特にリズムセクションの重厚さとギターの分離感の両立によって、荒涼とした重苦しさの中にも各楽器の輪郭が鮮明に伝わる仕上がりとなっている。

4. 評価と影響

『Nightfall』はリリース当時、アンダーグラウンドのメタル・シーンで絶賛をもって迎えられた。イギリスの専門誌Metal Forcesは本作に10点中9.9という高得点を与え、「真のメタル・ファンなら必携の作品」と評するとともに、Candlemassが初期Black SabbathやRainbow、さらにはMetallicaの要素を巧みに取り入れつつ独自のサウンドを生み出した点を称賛した。ドイツのRock Hard誌も本作を好意的にレビューしつつ、その超スローなリズムとマーコリンのクリーンで高い声は人によって好みが分かれる可能性があるとも指摘している。アメリカのMetal Hammer誌(米国版ではなく英国Metal Hammerの記事の翻訳を指す場合があるが、ここではMetal Forcesのレビューと同様に当時の評価として扱う)や各国のファンジンでも概ね高い評価を受け、本作はCandlemassの知名度を一気に押し上げる作品となった。

後年に至っても『Nightfall』の評価は揺るがず、ドゥームメタル史に残る名盤として位置付けられている。AllMusicのエドゥアルド・リバダヴィアは本作について「前作以上に新境地を切り開いた作品」であり、新ボーカリストのマーコリンによる宗教的な歌詞を伴うオペラ風唱法がエドリングの紡ぐ重厚なパワーコードと完璧に融合した一貫性のある傑作だと賞賛している。モダンなレビューサイトであるMetal Stormでも、デビュー作からのバンドの進歩(より複雑で雰囲気や感情を喚起する音作り)を高く評価し、本作を「ドゥームメタルのマスターピース(傑作)」と位置付けた。

他方で、僅かながら否定的な意見も存在する。カナダ人評論家のマーティン・ポポフは本作について「内容的にデビュー作と非常に近い印象」と述べ、Black Sabbathの初期リフの最も遅い部分や、TroubleやSt. Vitusといった他のドゥームバンドのアイデアを組み合わせたようなスタイルだと評した。彼はまた、「もう少しテンポの速い曲があれば評価はさらに上がっただろう」とも述べており、全体の緩急の少なさにやや苦言を呈している。しかしこのような少数意見はあったものの、総じて『Nightfall』は専門家筋・ファン筋ともに高い支持を受け、Candlemassの代表作としての地位を不動のものとしている。

商業的には、本作が全米チャートを賑わすような大ヒットになったわけではない。当時の主流がグラムメタルやスラッシュメタルであったこともあり、Candlemassはあくまでアンダーグラウンドな存在だった。事実、前作の売り上げ不振で一度レーベル契約を失う経験もしたほどであり、Epic Doom Metalというニッチなジャンルゆえに爆発的なセールスには至らなかった。しかしながら『Nightfall』のリリースによってバンドのシーンにおける影響力は飛躍的に増大し、ドゥームメタル全体への貢献度は計り知れないものがある。後年のデス/ドゥームやゴシックメタルの潮流にもその影響は及び、Paradise LostMy Dying Brideといった90年代以降の後進バンドはCandlemassを主要なインスピレーションとして公言している。とりわけ『Epicus Doomicus Metallicus』と『Nightfall』の2作品は、現在まで多くのファンや批評家からドゥームメタルの古典的名盤とみなされており、同ジャンルを語る上で欠かせない金字塔的アルバムである。

ここから先は

5,699字
長丁場になるので、購読いただくことが次の記事を書くモチベーションになります。気に入っていただけたら購読をよろしくお願いいたします。 最初は500円でスタートします。100枚紹介するごとに500円値上げし、100枚時点で1000円、200枚時点で1500円、300枚すべて紹介し終わった時点では2000円にする予定です。早く購読いただければ安い金額ですべての記事を読めます。

1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?