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連載:メタル史 1986年④Metallica / Master of Puppets 情報編

Metallicaを絶対王者に押し上げた作品。それまでもMetallicaはスラッシュメタルムーブメントの中では頭一つ抜けた存在で、それは過去に出した2作がどちらも同時代のメタルにはない新規性と深み、魅力的な組み合わせを持っていたからですが、それらが最高峰に達したのが本作です。

2015年、本作は「文化的、歴史的、または美的に重要である」としてアメリカ議会図書館によって国立録音登録簿に保存対象として選ばれた最初のメタルレコードとなりました。それから10年、リリースから数えると40年近い時が流れた今、同時代のメタル史の名盤から頭一つ抜けた扱いと一般知名度を持っており、メタルの名盤でありながらより普遍的な「ロックの名盤」でもある。ロックバンドとしての86年時点で考えうる芸術としての到達点を示した、少なくとも現代ではそう評価されているアルバムと言えます。

Metallicaが後に出すドキュメンタリー映画「真実の瞬間(Some Kind Of Monster)」の中で、ラーズの父親(著名テニスプレイヤーであり音楽家でもあった)が「Metallicaはロックに肉体性を取り戻した」と評していた。

考えてみると1980年代という時代はニューウェーブやテクノ、いわゆる「加工された音」が流行し、ロックの肉体性が失われた、あるいは覆い隠された時代であった、とも言えるかもしれません。我々はメタル史(そして周辺のハードコア史)を追っているのでそういった印象を80年代に対して持ちませんが、一般のヒットチャートで見るとより洗練された、より正確で完成度の高い音楽がもてはやされた。60年代後半から70年代前半に見られた、ビートルズ~プログレッシブロック・アートロック・ハードロックといった「ロックバンドによる芸術性の追求」といったものをもてはやす雰囲気はかなり下火になっていたと言えます。

たとえばプログレバンドのYESなんか、もともとクラシックの奏者を目指していたメンバー(スティーブハウやリックウェイクマン)が在籍していて、自分たちはモーツアルトやバッハ、ベートーベンのような何百年後も聴かれる音楽を作るのだ、音楽史に名を刻むのだ、という気概で音楽を作っていた。こうした流れはメタルアーティストの一部には引き継がれていきますが、80年代のヒットチャートをにぎわせるアーティストの中でこうした発想を持っていたアーティストはかなり稀でしょう。もちろん、大衆音楽なので結果として歴史を変える、歴史に残るような名盤は生まれている(たとえばマイケルジャクソンのスリラーとか)、だけれど、やはり根本的に「音楽を進化させよう」という強い意志的なもの、ある種特殊な妄想と言ってもいいものを大真面目に語るアーティストは減っていった、むしろ芸術性を追求した音楽が一定の商業的成功に結び付いたのはかなり特殊な時代の雰囲気だった、と言える。

考えてみると、80年代中盤のMetallicaにはそうした雰囲気がありました。それはもともとクラシックを学んでいたクリフバートンのもたらした影響が大きかっただろうし、芸術家気質の強い父親に育てられたラーズもそれに共鳴したのだと思います。音楽史に残る作品、より広く「芸術史に残る作品」を作り上げたい、という願望をそもそもMetallicaは持っていたように思います。そして、その妄想に対して愚直にトライし、それまでになかった音像に到達した。このアルバムはその到達点の記録と言える。

一般的に、ビートルズが偉大なのはそれまでとそれ以降で音楽のルールを変えてしまったからです。それはレコードビジネスの変化やWW2以降の若者世代の台頭、世界の移動の容易さや情報伝達手段の発展などいくつかの時代の変化に後押しされたものがあり純粋に音楽だけの革新性とは言えませんが、Metallicaもそれに比べると規模は小さいものの、音楽、少なくともメタルはそうだし、もっと広く言えばUSロックの音像をそれ以前とそれ以降で多少は変えたバンドと言えるでしょう。

それまでのブルースやパンク、あるいはポップスの影響を感じさせた地点から、地続きではあるものの気が付けばずいぶん遠いところまでたどり着いた。「ほかにない音像」を生み出し、80年代スラッシュメタル、ひいては「ヘヴィメタル」というサブジャンルがこれだけ生命力を持ち、一つの宗派のようになる裏付けを生み出すのに象徴的な役割を果たしたと言えます。

Metallicaだけの力ではなく時代の力で、このメタル史で取り上げている多くのアーティストが共鳴したり影響を与え合いながらそれを紡いでいくわけですが、Metallicaは少なくともUSにおいてはその象徴、もっとも代表的なバンドとしてシーンを牽引し、そのイメージに恥じない聞いたこともない、「ヘヴィメタルが同時代でどこまで到達しえたのか」を知らしめるような作品をリリースした。こうしたバンドが存在するかしないかは音楽ジャンルの寿命の長さを大きく左右する気がします。

1986年、前回見たMegadethのアルバムのように、レーベル側はグラムメタル的な、きらびやかな音を好んだ。ランディバーンズミックスとキャピトルミックスを聞き比べてください。「86年の音」というのは、ある一定以上の規模で活動する、メジャーレーベルで契約しているメタルバンドには大きな影響を与えている。その中で、そうした同時代性の中で職業音楽家として制約に挑戦しつつ、純粋な音楽家としての閃きを見せた。

70年代後半、ロックシーンは創造性を失いディスコブームに商業的に駆逐されつつあった。そこに対する反抗、伝統を引き継ぎ、新たな可能性の模索として生まれたN.W.O.B.H.M.の灯はIron Maidenが力強くUKで掲げ続け、進化を続けた。同時期にUSではMetallicaがロック、メタルの可能性を追求しつづけた。この2バンドが80年代を通して創造性を保ち続け、シーンの先頭を走り続けたことがヘヴィメタルが「80年代の一過性の流行」ではなく、生命力のある「もっとも新しいロック音楽の進化系」として、回顧主義(リバイバル)による再生産ではなく、「何かしら新しい音楽的可能性を生み出しうる形式」としての創造性を永らえた大きな要因だと思います。そうした象徴的なバンドがいなければ、どれだけ有為なバンドがシーンにひしめいていても広がらない、注目と支援が得られずやがて沈んでしまう。

書いているうちに期せずしてMetallica論みたいになってしまいましたが、改めて1986年にMetallicaのUSにおいて果たした役割を考えてみるとけっこう大きいものがあるなぁと思って筆が進みました。そして、それらの評価を生み出せたのは本作(および前作)の音楽的説得力が根源にある。

本作がリリースされたのは1986年3月。本作のプロデューサーは実はRushのゲディ・リーが最初は名前が挙がっていたそう。結局タイミングが合わず、全宅と同じくフレイミングラスムッセンとの共同プロデューサーとなります。Rushに声をかけたということは、彼らのプログレ的な感覚とポップスの融合について強い興味や共感を持っていたということでしょう。もし実現していたらどうなっていたのだろう。後に様々なアーティストの曲をカバーしたり、ルーリードとコラボしたりしますが、「先達の知・血を取り入れたい」という願望を昔から持っていたのかもしれません。

その後バンドはOzzy Osbournの前座として初のアリーナツアーを回ります。それまではライブハウスしか回ったことがなかった。後の歴史的評価はさておき、リアルタイムで観れば「アンダーグラウンドシーンの中では頭一つ抜けて有名になりつつあった」若手バンドにすぎなかったMetallica。本作もビルビードチャートでは初登場128位です。

ただ、ライブを続けていく中でどんどん評価が上がっていき、最終的にはビルボードチャート29位まで上昇。その後も売れ続け初年度でゴールドディスク(50万枚)、2003年には600万枚の6xプラチナム認定を受けています。USでもUKでも売れた。ただ、リアルタイムでみればUS以外の地域ではまだそこまで受け入れられておらず。USは「新しい音像」を評価する土壌が強いなと感じます。「すごくわかりやすいもの」が売れるのと同時に「すごく新しいもの」も売れる、不思議な国。

ただ、1986年9月26日、ツアー中の交通事故によりベーシストのクリフ・バートンが帰らぬ人となってしまいます。唐突な終わり。Metallicaはジェイソン・ニューステッドを新ベーシストに迎えて活動を続けますが、まさに黄金期だったバンドが唐突に終わりを告げる。結果論として言えばこの物語性もより多くの衆目を集める結果となったのでしょうが、もしクリフが生きていたらどんな作品をこの後生み出していたのだろう、と考えてしまいます。

※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。


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1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…

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